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第1章
第3話 記憶
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その後、私は「少し一人になりたい」と言って部屋にこもり、自分の記憶の整理をした。
机に座り、引き出しからノートを取り出して、前世の自分と今世の自分について書き並べていく。
リナライトは侯爵家の三男坊だった。
誕生日はリナーリアと同じ。兄が二人いるのも今のリナーリアと同じ。
ちなみに上の兄は王立学院に在籍中なので学生寮に入っている。下の兄は春先に馬から落ちて足を骨折してしまったため、王都には来ていない。
記憶を探りながら、あるいは机に並んだ本を開きながら、家族構成、この国の地理、歴史など、ノートに思いつくまま書き出してみる。
リナライトの時に得た知識も、リナーリアになってからの記憶も、どちらもスムーズに思い出せる。
私は前世で人より記憶力が良かったのだが、それは今でも変わっていないようだ。
…結果分かったこととして、前世と今世は全く同じ世界だ。
20歳だったリナライトと10歳のリナーリアでは知識量がまるで違うけれど、知っている限り特に変わっている事はない。
ただ、私の性別だけが違う。
女になったというのは正直ショックだが、それ以上に大きな問題がある。
貴族においては、性別によって大きくその役割が変わってくるからだ。
一部の例外はあるけれど、爵位を継ぎ一家の長となるのは基本的に男性だ。家臣を率いて自領の統治を行う。
人によってやり方は様々で、うちの父のように家臣にほぼ丸投げという貴族も少なくないのだが。
対して女性は、出産や育児をしながら主に屋敷の中の事を取り仕切る。
王家も基本的にその形を取っており、玉座につくのは大抵は長男、第一王子だ。未来の王になるべく、幼い頃から王宮で過密気味の教育を受ける。
貴族の子女達ばかりが通う王立学院に入学する年齢…つまり15歳になるまで、あまり城から出ないで育つのだ。
だが大人にばかり囲まれて育つというのも、教育上よろしくないとされている。
過去はそれで年上の男性しか愛せないだとか、激しく人見知りでマザコンだとか、色々と問題のある王様が生まれたりもしたらしく、王家の子供には5歳になったときに同年代の少年少女が従者として付けられるという決まりができた。
従者というか要するに友人、遊び相手みたいなものだが、その子供は王城に住まう事になる。
教育の大半は王子と共に受ける(当然、授業を担当するのは国で一番の優秀な家庭教師だ)し、ある程度成長すれば相談役や護衛も兼ねることになる。
将来は高官への栄達が約束されている、貴族ならば誰もが子供を送りたがる栄誉ある役目だ。
その従者となる子供は、有力な貴族家の三男四男あたりから選ばれる事が多い。
長男は家を継がなければいけないし、次男がいないと長男に何かあった時に困るので、三男くらいが丁度いいのだ。
年齢は王子よりも少し年上が望ましく、護衛もやる都合上、高魔力所持者であることは必須条件となっている。
これらの条件に照らし合わせると、前世の私…リナライトは一応条件内ではあるものの、有力候補ではなかった。
私は殿下と同い年だし、当てはまっているのは三男という点と、それなりの高魔力者だという点くらい。だが貴族は高魔力者ばかりなので、当てはまっていても大して意味がない。
しかも魔術師系貴族である我が家から王子の従者を出すのは、現在の権力バランスから言うとあまり良くなかった。
この国では騎士系貴族と魔術師系貴族の間に少々溝があるのだが、当代の国王陛下は歴代でも珍しく魔術師系貴族を中心とした支持基盤を持っている方なのだ。
そこで更に魔術師の家から従者を選べば、騎士系貴族から不満が出やすい。
ではなぜ私が選ばれたのかと言うと、さまざまな偶然が重なった結果だった。
選ばれたと知った時はとてもびっくりしたし、幼くして家を離れ、城で暮らすのが不安でもあった。
やがて、殿下の従者となれた事を幸せだと感じるようになるのだが…。
ともかく。
リナーリアである私は、性別しか違わないにも関わらず、すでにリナライトとは全然違う人生を歩んでいる。
王子の従者になれるのは男子だけなのだから当たり前だ。
王女ならば女子が従者になるので、殿下も女に生まれ変わっていればまだ機会があったのだが…殿下は今世でも普通に男子だった。
女になった殿下というのはあまり想像したくないので良かったのかも知れないが…。
しかもリナーリアはあまり身体が丈夫ではなく、今年になるまで王都に来た事がなかった。
当然殿下とは面識がないままこの歳まで育ってしまっている。
…殿下をあの女の魔の手から守るためには、王立学院であの女が殿下へと近付くのを阻止しなければならない。
よほど相思相愛の相手でもいない限り、婚約者というのは学院在学中に決めるのが一般的だからだ。
学院は学びの場であると同時に結婚相手を探す場でもある。
しかし向こうは、新参で大した権力を持たないうちよりもはるかに格上の、由緒正しい騎士系侯爵家の令嬢だ。公爵家にも近いほどの大きな権力を持つ相手だ。
従者という殿下に最も近い立場であった前世ならともかく、新参貴族令嬢(面識1回・会話なし・第一印象最悪)でどう対抗すればいいのか…。
やはり、何とかして学院に入る前に第一印象を挽回し、ある程度親しくなっておきたい。
殿下はあまり社交的ではないが、誰にでも別け隔てのない寛大な性格だ。身分や性別で相手を差別する事はない。
今のうちに仲良くなって信頼を得ておけば、あの女を遠ざけやすくなるはずだ。
…そして、殿下が屋敷を訪問してから約2週間後。ようやくその機会が訪れた。
家庭教師のザイベル先生から礼儀作法の授業を受けている最中、父がやって来てこう言ったのだ。
「殿下がお前に会って下さるそうだよ」と。
「や、やった…!!」
思わずソファから飛び上がってしまい、ザイベル先生に眉をひそめられる。
「王子殿下にお会いするならば、もっとお淑やかにしなければなりませんよ」
「す、すみません…」
私にはリナライトの記憶があるので精神年齢は20歳を超えていると思うのだが、感情は10歳の少女であるリナーリアの肉体に引きずられてしまうのか、つい子供っぽい行動を取ってしまう事が多い。
殿下に会った時あんなに泣いてしまったのもそのせいだと思う。こみ上げる感情に身体が勝手に反応してしまったのだ。
リナライトが10歳の時ははもっと落ち着いた大人びた子供だったように思うが、リナーリアは年相応の無邪気さを持つ少女だ。
性別の違いか、環境の違いもあるのか。とにかく、周囲からも感情豊かな少女と思われているらしい。
しかし記憶を取り戻した私は、ふとした時にリナライトの時のような行動をしてしまう事があり、言葉遣いや仕草を注意されるのがしばしばだった。
前世がどうだろうと、今は侯爵令嬢なのだ。父上…じゃなかった、お父様方に迷惑を掛けないためにももっと女らしく振る舞わなければいけないのだが、なかなか上手くいかない。
だが、今はそんな事より殿下だ。お父様に向かって尋ねる。
「もしかして、殿下からまたご連絡があったのですか?」
父が書いたお詫びの手紙の返事はすぐに来ていた。殿下は律儀な性格なのだ。
私も読ませてもらったが、気にしていない旨と、庭を楽しませてもらった礼が簡潔ながら丁寧に書かれ、私に会う事についても「近いうちに」と書かれていた。
しかし第一王子というのはそれなりに忙しく、そうホイホイ会える相手ではない。
あまり強引に頼めば他の貴族からいらぬ疑念を抱かれる恐れがあるので、こちらからせっつく訳にも行かない。
それでやきもきとしながら結局2週間経ってしまったのだが、ようやく目処が立ったのだろうか。
「いや、実は今日お城で偶然お会いしてね。それで直接お願いしたら、『明日なら大丈夫だ』と返答をいただいたんだ」
「明日!?」
びっくりして大声を上げ、ザイベル先生の視線を感じて慌てて声のトーンを落とす。
「ずいぶん急ですね…」
「どうやら殿下もお前のことを気にしていたみたいでね。明日はたまたま予定がキャンセルになって時間があるから、それで良ければ会おうと言って下さったんだよ。『遅くなってすまない』とも言っていた」
「殿下…!」
さすがお優しい…!
思わず感動する私に、お父様が微笑ましげな顔になる。
「ザイベル先生、そういう訳だから、申し訳ないけれど今日の授業はここまでにしてくれないか。明日の準備をしなければならない。リナーリア、ベルチェに報告しておいで」
お父様にそう言われ、先生の方を見ると、先生は眼鏡の奥の目を細めてにっこりと笑った。
「良かったですね、リナーリアさん。さ、早く奥様のもとに」
「はい!ありがとうございます!」
私は元気に答えてぺこりと頭を下げると、走り出…そうとして何とかこらえ、お淑やかにドアを開けて部屋から出た。
少し早足でお母様の所に急ぐ。
「まあまあ、良かったわねリナーリア…!」
お母様は満面の笑顔で喜んでくれた。私も笑顔で「はい!」と返事をする。
「じゃあ、まずは着ていくドレスを選ばなくっちゃね!この前はローズピンクだったから、青系が良いかしら…リナーリアはやっぱり青が似合うものねえ~」
「うぐ」
ニコニコと言われ、思わず呻く。
貴族女性のご多分に漏れず、母はドレスだとかアクセサリーの話が好きだ。娘の私を飾り立てる事もまた大好きで、昔からよく着せ替え人形にされていた。
だが私はそれらに大して興味がない。
リナーリアは元々ドレスよりも植物や本に興味がある少女だったし、男だったリナライトに至っては言わずもがな。それどころか、ドレスには嫌な思い出しかない。
「あ、あの、ドレスはお母様にお任せしますので…」
「せっかくだし、コーネルやメイド達にも見てもらいながら選びましょうか!ねえ、みんな~!こっちに来て~!」
「あわわわわ」
逃げ出そうとしたが無理だった。
こうなると長いのだ。2時間は覚悟しないといけない。
今のうちに殿下へのお詫びの口上を考えたかったのに…!
がっくりと肩を落とす私の後ろから、メイド達がぞろぞろ入ってくる音が聞こえた。
机に座り、引き出しからノートを取り出して、前世の自分と今世の自分について書き並べていく。
リナライトは侯爵家の三男坊だった。
誕生日はリナーリアと同じ。兄が二人いるのも今のリナーリアと同じ。
ちなみに上の兄は王立学院に在籍中なので学生寮に入っている。下の兄は春先に馬から落ちて足を骨折してしまったため、王都には来ていない。
記憶を探りながら、あるいは机に並んだ本を開きながら、家族構成、この国の地理、歴史など、ノートに思いつくまま書き出してみる。
リナライトの時に得た知識も、リナーリアになってからの記憶も、どちらもスムーズに思い出せる。
私は前世で人より記憶力が良かったのだが、それは今でも変わっていないようだ。
…結果分かったこととして、前世と今世は全く同じ世界だ。
20歳だったリナライトと10歳のリナーリアでは知識量がまるで違うけれど、知っている限り特に変わっている事はない。
ただ、私の性別だけが違う。
女になったというのは正直ショックだが、それ以上に大きな問題がある。
貴族においては、性別によって大きくその役割が変わってくるからだ。
一部の例外はあるけれど、爵位を継ぎ一家の長となるのは基本的に男性だ。家臣を率いて自領の統治を行う。
人によってやり方は様々で、うちの父のように家臣にほぼ丸投げという貴族も少なくないのだが。
対して女性は、出産や育児をしながら主に屋敷の中の事を取り仕切る。
王家も基本的にその形を取っており、玉座につくのは大抵は長男、第一王子だ。未来の王になるべく、幼い頃から王宮で過密気味の教育を受ける。
貴族の子女達ばかりが通う王立学院に入学する年齢…つまり15歳になるまで、あまり城から出ないで育つのだ。
だが大人にばかり囲まれて育つというのも、教育上よろしくないとされている。
過去はそれで年上の男性しか愛せないだとか、激しく人見知りでマザコンだとか、色々と問題のある王様が生まれたりもしたらしく、王家の子供には5歳になったときに同年代の少年少女が従者として付けられるという決まりができた。
従者というか要するに友人、遊び相手みたいなものだが、その子供は王城に住まう事になる。
教育の大半は王子と共に受ける(当然、授業を担当するのは国で一番の優秀な家庭教師だ)し、ある程度成長すれば相談役や護衛も兼ねることになる。
将来は高官への栄達が約束されている、貴族ならば誰もが子供を送りたがる栄誉ある役目だ。
その従者となる子供は、有力な貴族家の三男四男あたりから選ばれる事が多い。
長男は家を継がなければいけないし、次男がいないと長男に何かあった時に困るので、三男くらいが丁度いいのだ。
年齢は王子よりも少し年上が望ましく、護衛もやる都合上、高魔力所持者であることは必須条件となっている。
これらの条件に照らし合わせると、前世の私…リナライトは一応条件内ではあるものの、有力候補ではなかった。
私は殿下と同い年だし、当てはまっているのは三男という点と、それなりの高魔力者だという点くらい。だが貴族は高魔力者ばかりなので、当てはまっていても大して意味がない。
しかも魔術師系貴族である我が家から王子の従者を出すのは、現在の権力バランスから言うとあまり良くなかった。
この国では騎士系貴族と魔術師系貴族の間に少々溝があるのだが、当代の国王陛下は歴代でも珍しく魔術師系貴族を中心とした支持基盤を持っている方なのだ。
そこで更に魔術師の家から従者を選べば、騎士系貴族から不満が出やすい。
ではなぜ私が選ばれたのかと言うと、さまざまな偶然が重なった結果だった。
選ばれたと知った時はとてもびっくりしたし、幼くして家を離れ、城で暮らすのが不安でもあった。
やがて、殿下の従者となれた事を幸せだと感じるようになるのだが…。
ともかく。
リナーリアである私は、性別しか違わないにも関わらず、すでにリナライトとは全然違う人生を歩んでいる。
王子の従者になれるのは男子だけなのだから当たり前だ。
王女ならば女子が従者になるので、殿下も女に生まれ変わっていればまだ機会があったのだが…殿下は今世でも普通に男子だった。
女になった殿下というのはあまり想像したくないので良かったのかも知れないが…。
しかもリナーリアはあまり身体が丈夫ではなく、今年になるまで王都に来た事がなかった。
当然殿下とは面識がないままこの歳まで育ってしまっている。
…殿下をあの女の魔の手から守るためには、王立学院であの女が殿下へと近付くのを阻止しなければならない。
よほど相思相愛の相手でもいない限り、婚約者というのは学院在学中に決めるのが一般的だからだ。
学院は学びの場であると同時に結婚相手を探す場でもある。
しかし向こうは、新参で大した権力を持たないうちよりもはるかに格上の、由緒正しい騎士系侯爵家の令嬢だ。公爵家にも近いほどの大きな権力を持つ相手だ。
従者という殿下に最も近い立場であった前世ならともかく、新参貴族令嬢(面識1回・会話なし・第一印象最悪)でどう対抗すればいいのか…。
やはり、何とかして学院に入る前に第一印象を挽回し、ある程度親しくなっておきたい。
殿下はあまり社交的ではないが、誰にでも別け隔てのない寛大な性格だ。身分や性別で相手を差別する事はない。
今のうちに仲良くなって信頼を得ておけば、あの女を遠ざけやすくなるはずだ。
…そして、殿下が屋敷を訪問してから約2週間後。ようやくその機会が訪れた。
家庭教師のザイベル先生から礼儀作法の授業を受けている最中、父がやって来てこう言ったのだ。
「殿下がお前に会って下さるそうだよ」と。
「や、やった…!!」
思わずソファから飛び上がってしまい、ザイベル先生に眉をひそめられる。
「王子殿下にお会いするならば、もっとお淑やかにしなければなりませんよ」
「す、すみません…」
私にはリナライトの記憶があるので精神年齢は20歳を超えていると思うのだが、感情は10歳の少女であるリナーリアの肉体に引きずられてしまうのか、つい子供っぽい行動を取ってしまう事が多い。
殿下に会った時あんなに泣いてしまったのもそのせいだと思う。こみ上げる感情に身体が勝手に反応してしまったのだ。
リナライトが10歳の時ははもっと落ち着いた大人びた子供だったように思うが、リナーリアは年相応の無邪気さを持つ少女だ。
性別の違いか、環境の違いもあるのか。とにかく、周囲からも感情豊かな少女と思われているらしい。
しかし記憶を取り戻した私は、ふとした時にリナライトの時のような行動をしてしまう事があり、言葉遣いや仕草を注意されるのがしばしばだった。
前世がどうだろうと、今は侯爵令嬢なのだ。父上…じゃなかった、お父様方に迷惑を掛けないためにももっと女らしく振る舞わなければいけないのだが、なかなか上手くいかない。
だが、今はそんな事より殿下だ。お父様に向かって尋ねる。
「もしかして、殿下からまたご連絡があったのですか?」
父が書いたお詫びの手紙の返事はすぐに来ていた。殿下は律儀な性格なのだ。
私も読ませてもらったが、気にしていない旨と、庭を楽しませてもらった礼が簡潔ながら丁寧に書かれ、私に会う事についても「近いうちに」と書かれていた。
しかし第一王子というのはそれなりに忙しく、そうホイホイ会える相手ではない。
あまり強引に頼めば他の貴族からいらぬ疑念を抱かれる恐れがあるので、こちらからせっつく訳にも行かない。
それでやきもきとしながら結局2週間経ってしまったのだが、ようやく目処が立ったのだろうか。
「いや、実は今日お城で偶然お会いしてね。それで直接お願いしたら、『明日なら大丈夫だ』と返答をいただいたんだ」
「明日!?」
びっくりして大声を上げ、ザイベル先生の視線を感じて慌てて声のトーンを落とす。
「ずいぶん急ですね…」
「どうやら殿下もお前のことを気にしていたみたいでね。明日はたまたま予定がキャンセルになって時間があるから、それで良ければ会おうと言って下さったんだよ。『遅くなってすまない』とも言っていた」
「殿下…!」
さすがお優しい…!
思わず感動する私に、お父様が微笑ましげな顔になる。
「ザイベル先生、そういう訳だから、申し訳ないけれど今日の授業はここまでにしてくれないか。明日の準備をしなければならない。リナーリア、ベルチェに報告しておいで」
お父様にそう言われ、先生の方を見ると、先生は眼鏡の奥の目を細めてにっこりと笑った。
「良かったですね、リナーリアさん。さ、早く奥様のもとに」
「はい!ありがとうございます!」
私は元気に答えてぺこりと頭を下げると、走り出…そうとして何とかこらえ、お淑やかにドアを開けて部屋から出た。
少し早足でお母様の所に急ぐ。
「まあまあ、良かったわねリナーリア…!」
お母様は満面の笑顔で喜んでくれた。私も笑顔で「はい!」と返事をする。
「じゃあ、まずは着ていくドレスを選ばなくっちゃね!この前はローズピンクだったから、青系が良いかしら…リナーリアはやっぱり青が似合うものねえ~」
「うぐ」
ニコニコと言われ、思わず呻く。
貴族女性のご多分に漏れず、母はドレスだとかアクセサリーの話が好きだ。娘の私を飾り立てる事もまた大好きで、昔からよく着せ替え人形にされていた。
だが私はそれらに大して興味がない。
リナーリアは元々ドレスよりも植物や本に興味がある少女だったし、男だったリナライトに至っては言わずもがな。それどころか、ドレスには嫌な思い出しかない。
「あ、あの、ドレスはお母様にお任せしますので…」
「せっかくだし、コーネルやメイド達にも見てもらいながら選びましょうか!ねえ、みんな~!こっちに来て~!」
「あわわわわ」
逃げ出そうとしたが無理だった。
こうなると長いのだ。2時間は覚悟しないといけない。
今のうちに殿下へのお詫びの口上を考えたかったのに…!
がっくりと肩を落とす私の後ろから、メイド達がぞろぞろ入ってくる音が聞こえた。
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