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実家に向かう

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 こうして我々は交際することになった。僕と彼女は時々会って近所を散歩したり、喫茶店を巡ったりしながら平凡に過ごした。彼女は少しずつ大学にも通うようになった。アルバイトは辞めたままだが、そういった事情も両親に話せるようになっていた。
 3月になり、ある土曜日の夕方。いつものように川沿いを並んで歩いていると、彼女は思い出したように言った。
「猫カフェに行きましょう。」
「いいけど、この辺にあったかな。」
「あなたの実家よ。」
「ご両親に挨拶したいし。」
"両親に挨拶"
僕は鼓動が速くなった。
「いつにしようか?」
「今から。」
「今からだと遅くなるよ。」
「いいの。ちょうど私も実家に帰ろうと思っていたから。」
 そして電車に乗り、10個離れた僕の最寄り駅に向かった。僕らは隣に座ってしばらく話していたが、気がつくと彼女は僕の肩に頭をもたれて眠っていた。彼女の寝顔を眺めてから僕も眠った。
 彼女に頬を小突かれて僕は目覚めた。降りる駅の1つ手前まで来ていた。
「いつまで寝てるのよ。」
からかうように彼女は言った。
「君が先に寝たんじゃないか。」
「あなたの隣にいると安心して眠ってしまうのよ。」
 駅に着き電車を降りると、僕らは歩き始めた。時刻は18時を回っていた。
「3月でも夜は冷えるわね。」
彼女は僕の腕にしがみついて言った。
「そうだね。」
 僕らは体を寄せ合いながら家に向かって歩いた。家の前に着くと、僕の緊張を察した彼女が笑いながら言った。
「自分の家なのにどうして緊張するのよ。」
「それはだって、」
「ほら、先に行って。」
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