上 下
28 / 45

訪問

しおりを挟む
 2週間後、日曜の21時。僕はアルバイトを終えて帰宅する準備をしていた。ふと携帯を見てみると、着信が入っていた。
 彼女からだった。僕はバイト先を後にして、彼女に折り返し電話をかけた。そういえば、彼女と電話するのは初めてだ。そんなことを考えていると彼女が電話に出た。
「もしもし。」
    かなり小さい声だったが携帯の音量は最大だった。
「君が電話してくるなんて珍しいね。」
「うん。」
それからしばらく沈黙が続いた。
「会いたい。」
鼓動が速まる。
「いいよ。いつにしようか。」
「今から。」
「わかった。どこで会おうか。」
「私の家でもいい?」
「構わないけど、君はいいの?」
「いいの。それじゃあ住所を送るね。」
「わかった。」
   そうして電話を切ると、僕は駅の方に向かった。駅に着いて5分ほど待っていると鈍行の電車がやって来た。僕はそれに乗り、10個離れた彼女の最寄り駅に向かった。
 前に彼氏がいると言っていたが、僕が家に行っても良いのだろうか。まあ彼女が良いと言っているから良いのだろう。
"僕は彼女の家に行く"
 改めて意識すると、今までで一番鼓動が速くなった。女の子の家に行くのなんて初めてだし、ましてや彼女の家だ。
 1時間ほど揺られて目的の駅に着くと、僕は電車を降りた。初めて降りる駅だったが、静かで自然に囲まれており、穏やかな町だった。いかにも彼女が好きそうだ。
 僕は彼女から送られた住所を地図アプリで調べた。駅から歩いて5分といったところだった。携帯を見ながら歩いていると、いかにも学生向けといった綺麗なマンションに着いた。地図はこの建物を指していた。
 エントランスを抜けエレベーターに乗ると、階を上がる毎に鼓動が速くなった。僕は言われた部屋の前に着き、深呼吸してからチャイムを鳴らした。しばらくしてドアがゆっくりと開いた。
しおりを挟む

処理中です...