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世界から意味が消えた日

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"人は不完全だからこそ美しい"

子どもの頃にそんな言葉をどこかで聞いた。彼女と出会ってからは、その意味も少しは分かるような気がする。



 僕の家には13匹の猫がいる。というのも、僕の両親は動物保護施設から猫を引き取り、家の1階部分で猫カフェを経営しているのだ。そのため営業時間外にはいつも彼らと遊んでいた。幸せな日々だった。
 ある日、10歳になった僕は母に尋ねた。
「この猫たちって、ペットショップで買ったの?」
「いいえ、違うのよ。」
「じゃあどこからやって来たの?」
「そうねえ。」
母は少し考えてから答えた。
「道を歩いてると野良猫を見かけるでしょう?そういう子達よ。」
「みんな道で拾ってきたの?」
「うーん。まあ、そんな感じよ。」
「そうなんだ。」
 それから数日後、閉店後の1階で両親が話している声が聞こえた。2人は動物保護施設のことについて話していた。難しそうな内容だったが、1つだけ理解できたことがある。
"人のせいで動物が殺されている"
 僕は絶望した。
 両親は泣いている僕に気が付いて駆け寄ってきた。
「聞こえてたの?」
「うん。」
 母は僕を抱きしめて、ごめんねと何度も言いながら頭を撫でた。父もまた一緒に僕の頭を撫でた。
 そして僕の世界から色がなくなった。この世の全てに意味はないんだと思うようになった。そう考えないと自分を保てなかったからだ。
 その後も意味のない時が流れた。ただ学校に行き、ただ先生の話を聞いて、決められた給食を食べたりして家に帰った。友達もいない僕は帰宅してもすることはなかった。
 人のいない公園に出かけてベンチに腰かけ、ただ空を眺めたり近寄ってきた野良猫を撫でたりして過ごした。猫を撫でながら「ごめんね。」と言うのが癖になっていた。
 僕は教師に勧められた普通の高校に入り、普通に進級していった。相変わらず家に帰ってもすることがないので、学校で言われた通りの勉強はしていた。
 高校2年生に上がる時、文系か理系かを選択しなければならなかったが、僕は何となく文系にした。「楽そうだから」といったありきたりな理由だ。いつも通り意味のない時が流れ、2年目の高校生活は過ぎていった。
 そして僕は彼女と出会う。
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