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13、コタローと明
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光が差し込む明るい窓際のテーブル席で向かい合ってふわふわのパンケーキを食べる明を、駿佑はぼうっと眺める。平日の午前中だからか店内に人はまばらだ。駿佑は日に透けて輝く色素の薄い金髪の根本だけ黒くなっているのを見ながら、ぽつりと言った。
「地毛、黒なんだね~」
明は、ふは、とおかしげに笑った。
「いやいや今さら何やねん。知ってるやろ」
「わかってたんだけどさ。あきちゃん金髪似合ってるから地毛っぽいんだもん」
「そのうちやめるけどなぁ。ハゲるん怖いから」
真顔で言い切った明に駿佑は噴き出した。
「笑い事ちゃうわ。俺の地元のツレでめちゃくちゃ後頭部薄なってきた奴おって、そいつもずっと金髪やったんや」
ひとしきり笑ってから駿佑は尋ねた。
「ね、あきちゃんの友達の話聞きたい。1番仲良しの友達は?」
明は、1番~? と少し考える。
「1番とかわからんわ。地元のツレはもうグループやから、みんな同じくらい仲ええで。早々に身ぃ固めて結婚して子供おる奴多いからあんまり会わんけどなぁ」
「その中に東京にいる人いないの?」
「いや、みんな大阪」
「そっかぁ。寂しくない?」
明は、別に、と首を傾げた。
「年々話合わんなってるしなぁ。会うん年1とかでちょうどええくらいや。嫁とか子供の話されても俺わからんし」
「あ~……俺もちょっと友達と話合わなくなってるかも。昔はみんなでゲームとかしてたのにさぁ~大学行ってから女の子の話ばっかり」
「あの前にシュラスコで悪口言うてきた奴らか。あれから音沙汰なしなん?」
「ううん。あのあと個別でバラバラにごめんってライン来てたよ~。根は悪い奴らじゃないんだよねー。ただ大勢だと調子乗っちゃうだけで」
クソガキやな、と顔をしかめた明に、俺もだよ、と駿佑は笑った。
「駿はクソガキちゃうわ」
「え~。俺初めてあきちゃんに年齢言った時にクソガキって言われたよ~」
「誰がこんな可愛い男にクソガキなんか言うねん」
「言ったし」
駿佑はハチミツたっぷりのパンケーキを頬張りながら聞いた。
「ゲイの友達はいないのー? 東京で1番仲良い友達は?」
「えー?」
明は何故か困った顔をした。誰もいないならすぐに、おらん、と言いそうなのにそう言わないということはいるのだろう。明が口にするのを躊躇うような相手とはもしかして、と駿佑は思いついた名前を口にした。
「コタロー?」
明は、うわ、と露骨に嫌そうな顔をした。
「いらん時だけカンええやん……」
「正解?」
「……せやな。まぁあいつはゲイやし大阪の時からよぉ遊んどったし」
駿佑が、あ、と声を上げて申し訳無さそうな顔をした。
「もしかして俺に気ぃ使って疎遠にしてる?」
「ちゃうちゃう。お前に会う前から距離置いてる。一応振られた身やし、あいつ彼氏おるし」
確かに振られたのなら気まずいだろうがもう自分という恋人がいるのなら平気じゃないか、と駿佑は思い至りにっこり笑った。
「じゃあダブルデートしよ~」
ダブル、と両手でピースサインを作った駿佑に明は、は!? と声を上げる。明は苦虫を噛み潰したような顔で、なんでやねん、と言った。
「お前客にはあんな妬いてたくせに、なんでそれは平気やねん」
「だってコタローはあきちゃんのことフってるし彼氏もいるんでしょ?」
ぐ、と言葉を詰まらせたが明は反論した。
「にしても、なんで俺が前好きやった奴を恋人に紹介せなあかんねん。変やんか」
「友達じゃないの?」
「でも俺振られてるし」
「振られたら、友達じゃなくなっちゃう?」
「え~……わからん。俺友達から告られたことないし、自分から告ったんあいつしかおらんもん」
聞き捨てならず、駿佑が反論する。
「俺にも告白したじゃん!」
「え? お前やろ」
「違うよ。俺が先に付き合ってって言ったけど、あきちゃんも俺に付き合ってって言ったもん」
「あれは告ったいうか、返事やないん」
「やだ。告白のカウントに入れる。あきちゃんが今まで告白したのは計2人ね」
妙なこだわりを見せた駿佑に、はいはい、と明は呆れたように笑う。
「話戻るけどさぁ、俺あきちゃんの友達に会ってみたいんだよ。なんか友達といる時っていつもと違う感じになるじゃん。そういうあきちゃん見てみたい」
駿佑は歴代恋人を全員美結に紹介しているし、また駿佑も必ず恋人の友人に紹介されている。駿佑は恋人の友達に会うのも、自身の恋人を友人に紹介するのも好きだった。ええ~、と困った声を上げた明は天を仰ぎ両手で顔を隠す。そしてぽつりと、ごめん、と謝った。急な謝罪に戸惑う駿佑に明はほんの少し声のボリュームを下げて言った。
「コタローとはただの純粋な友達やないねん。付き合ぅてはないけど1回だけヤってる……」
駿佑は、え!と驚きの声を上げた。
「嘘! コタローってそんな感じなの!?あきちゃんヤり捨てされた系?」
「ヤり捨て言うな。誘ったんは俺や」
「ああ~……あんな感じで誘われたら気がなくてもしちゃうよね」
自分が即ホテルのナンパをされた時のことを思い出し駿佑が納得すると明は、それとはまたちゃうねん、とバツ悪そうな顔をした。
「そんなんやなくてもっと強引な感じっていうか……俺が無理やり仕掛けた感じやしあっちは全然望んでへんかったわ」
自分から聞いたものの、駿佑以外のことをそんなに好きだったという明の過去は駿佑をモヤっとさせた。駿佑は念のため確認する。
「……今は引きずってないよね?」
明は、当たり前やん、と笑い飛ばして自分のパンケーキをパクつく。
「ゼロや、ゼロ。未練全くない。片思いなんかもう嫌やわ。めっちゃしんどいもん。何しても全然好きになってもらえんし、それやのに好きなんはやめれんし」
「片想いって大変なんだね~」
そうのたまった駿佑に明は尋ねた。
「お前そんなん今まで経験無いん」
「1回も無いねー。今まで好きになった子はみんな付き合えたよ」
はー、とため息をついた明はナイフとフォークを置いて椅子の背にもたれかかった。
「腹立つやっちゃなー。まぁ俺もその1人やからわかるけど……そら好きなるわこんなかっこええ可愛い奴に好き好き迫られて好きならん奴この世におらんやろ」
「あきちゃんも好きになっちゃったもんね」
「そうや、可愛い彼氏にメロメロや」
明はいつしか、好き、と言うことにすっかり抵抗がなくなっていた。以前は外にいるときはもう少しよそよそしくされていたのだが、周囲に人が少なければ恋人として振る舞ってくれるようになっている。
「両想いだね」
にっこりと笑って語尾にハートマークがつきそうな甘い声で言った駿佑に明は、はー、とため息をついて頭を抱え、ぼそっと言った。
「今のお前可愛すぎて無理……俺もうお前の一挙手一投足が全部ツボやねんから気をつけろや」
「どう気をつけるの。てか彼氏がツボっていいことじゃん」
「もし俺と別れたなったらボコボコにシバき回して縛って海に捨ててくれ」
「なにそれ怖」
急に何でそんな物騒なことを言うんだと駿佑が怪訝な顔をしていたら明がぽつりと付け加えた。
「そんぐらいされなもう……別れられへんかもしれへんから」
そう言った明のシュンとした顔を見た瞬間、駿佑はまるで胸の奥を鷲掴みにされたような心地になる。悲しい顔はさせたくないはずなのに、この人にこんな顔をさせているのは自分なのだと思うと駿佑は胸が高鳴った。
「……引くなや」
黙ってしまった駿佑に、引いてしまったんだと解釈した明が茶化すように駿佑の足をテーブルの下で軽く蹴る。
「冗談やし、真に受けすぎ。ほんまにお前が別れたい言うたら2秒で別れたるわ」
そう言った明は寂しそうで駿佑は咄嗟に、やだよ、と言った。
「嬉しかったから、冗談にしないで」
ふい、とそっぽを向いた明の耳の先が赤くなっているの事に気づいた駿佑が、ねぇねぇ、とご機嫌に尋ねる。
「今まで付き合った中で俺のこと1番好きー?」
肯定してもらえる気満々で尋ねた駿佑に、明は躊躇いがちに言った。
「好きなったやつと付き合うん、初めてやから。1番も何もお前しかおらんわ」
目を丸くした駿佑は口元を手で覆いぽつりと呟いた。
「え、嘘、じゃあ俺が初めての彼氏ってこと?」
「……昔に適当に付き合ぅた奴省いたら、そうなる」
駿佑の胸が甘く高鳴る。付き合ってからの明は本当に可愛くて、そんな明の一面を知っているのは自分だけだと知って駿佑は浮かれた。
「俺も彼氏は初めてだよ~」
駿佑が女性遍歴を除外してそう言ったら明ははにかむように笑った。その表情がまた可愛くて駿佑はしみじみと言った。
「コタローがなんであきちゃんと付き合わなかったのか本気で謎すぎる。ゲイだったんでしょ。こんな可愛いあきちゃんフるとかありえない」
「まぁ、シンプルにタイプちゃうかったんやろ。見た目も中身も。あいつ俺に世話焼かれんのも嫌みたいやったし」
明は手を伸ばして、駿佑の口元についていた生クリームをおしぼりでぬぐった。
「俺は嬉しいけどなー。今のとか、キュンってする」
そらよかった、と明は笑う。
「まぁ俺、あいつには結構やらかしたしな。コタローの彼氏に嫌がらせもしてたわ」
何したの、と尋ねられた明は、今では反省してんで、と言い訳してから言った。
「コタローのスマホで彼氏をブロックと着拒したりー、彼氏に意地悪して嫌なこと吹き込んだり」
わるー、と駿佑は声を上げる。
「悪者じゃん。それサメ映画だと1番に食べられるやつだよ」
「そうや。ゾンビ映画でも即死や」
「それか人のこと踏み台にして生き残るんだけど最後の最後に感染しちゃう人かな」
「それ1番嫌やん」
「俺がつい推しちゃうタイプの人~」
あは、と笑った駿佑に明は躊躇いがちに言った。
「お前が嫌ちゃうんやったら連絡取ってみてもええ? コタローと。俺が復帰する店コタローと一緒の歌舞伎町やからそのうちばったり会うときあるかもしれんし……。先に謝っとくわ。で、ちゃんと彼氏やって駿のこと紹介する」
今は孝太郎がまだ寝ているだろうから、と家に帰ってから夕方くらいに電話することになった。電話をかける前に駿佑が孝太郎を見てみたいと言ったので、明は以前働いていたホストクラブ【FRONTIER】のホームページを開いて在籍一覧を出す。明が孝太郎の写真を駿佑に見せると駿佑は、うわ、と声を上げた。
「髪ピンクだ……イケイケじゃん……」
駿佑が想像していたより孝太郎はTheホストという風貌だった。サイドを片方だけ刈り上げていて髪は派手なピンク色。ハイブランドの服をかっこよく着こなしている。しかし明は笑って否定した。
「イケイケなんは見た目だけやで。性格ごっつい真面目で地味。イケイケの真逆や」
孝太郎の写真をしげしげと見て駿佑が言った。
「顔はちょっと俺と似てるかもだけど……でもなんかコタローオシャレな感じだし俺、負けてない?」
駿佑が弱気を見せると明は、どこがや、と怒る。
「お前世界一可愛いのに負けてるわけ無いやろ。てかこいつの着てる服全部俺がやったやつやしな。こいつがオシャレなんは俺のセンスや」
「そうなんだ……ってこれ全部ハイブランドじゃないの? 総額凄そうだけど」
駿佑がめざとく突っ込むと明はバツ悪そうに口をつぐんだ。明の反応に、もしかして、と駿佑は尋ねた。
「……コタローに貢いでた? このトレーナーだけでも普通に10万とか越えるでしょ。服爆買いしてた時期に俺ここの買ったことあるから値段知ってるよ」
明は、貢ぐとかちゃうわ、と否定する。
「そんな変なんやなくて、こいつゲイやって公表してしもてるからもうめっちゃ売上低かってん! ビビるくらい。せやから金無くて飯は食えへんわずっとしょぼい安もん着てるわで客にも後輩にも舐められてて可哀想やったから、ちょっと飯連れてったりお下がりやー言うて嘘ついて服買うたったりしててん。それだけや」
「何で嘘ついたの。わざわざ、お下がりだー、なんて」
「はー? そんなん変やんか。謎に急にハイブラ新品プレゼントとか引くやろ。ただの後輩に。しかもあいつゲイなん俺知ってて俺バイなんあいつ知ってんのになんか変な感じなるやろ。意味深やん」
「素直に言ってたら、す……」
好かれてたかもよ、と言いかけて駿佑は口をつぐんだ。自分と出会わず他の男と恋人同士になってたかも、なんてifは軽口でも言いたくなかったからだ。急に黙り込んだ駿佑に明が、ごめん、と謝った。
「気ぃ悪した? 変な勘違いせんといてや。駿もぉ服自分で買ったやつよぉけ持ってるから気ぃ回らんかっただけやねん。なぁ、他のなんかプレゼントさせて。時計でもアクセサリーでも何でも買ったるから今度パーッと買い物行こ。せやから……」
めずらしく慌てた様子の明に駿佑は、ふ、と笑った。
「いいよ。何も買わなくて。欲しい物はもう自分でだいたい買っちゃってるし。お金で買えないもの、ちょうだい」
「ええで。なにがええん」
駿佑がずいっと明に距離を詰めて耳打ちする。
「あきちゃん」
明は耳を赤らめながら、それはもうお前のやって、と返す。
「じゃあやっぱりお金で買えるのにしよっかな。あきちゃんの仕事の時用のパンツ買ってよ。もー外で絶対ズボン脱げないよーな布少ない恥ずかしいやつ」
「ッなんで俺そんなん履いて仕事せなあかんねん」
「浮気防止?」
にこにこと笑う駿佑に、アホか、と明は切り捨てる。
「浮気なんかあるわけ無いやろ。俺ほんまに駿のモンやし、他一切興味ないわ」
そうはっきり言ってもらえて駿佑は満足していた。そろそろ電話しよ、と言いながら怪しい手つきで明の胸元を弄ってきた駿佑に、こら、と明は注意をする。スピーカーにして電話をかける。数コール鳴った後で、はい、と少し低めの声が聞こえた。明は、もしもし、と話しかけた。
『明さん、どうしました?』
孝太郎の声がスピーカーで部屋に響く。
「や、別にどうって事はないねんけど……とりあえず先に謝っとくわ。前いろいろごめんな」
明がそう謝ると孝太郎が、え!? と声を上げた。
『どうしました!? なんかありました!?』
「別に。あの彼氏にも謝っといて」
『え……なんなんですか。怖いですって』
紹介が待ちきれなかった駿佑が隣から、こんにちは、と口を挟んだ。電話口の孝太郎が少し戸惑いつつ、こんにちは、と返す。
『明さん、誰とおるんですか?』
「あ~……その、俺の彼氏」
え! と孝太郎は驚いたがすぐに、ああ、と納得した声を上げた。
『なんや、彼氏できたからそんな急激に丸なったんですね! 何かあったんかと思て心配したやないですか』
「別に、元々丸いやろ」
『ナイフくらい尖ってましたよ』
駿佑が横から口を挟む。
「ねー、あきちゃん。フェイスタイムにしてよー」
「ああ。コタロー、ええか?」
孝太郎が了承したので、明がテレビ電話に切り替える。画面に映った駿佑を見て孝太郎が、こんばんは、と挨拶する。画面越しに見る孝太郎はホームページで見た写真より柔らかい雰囲気をさせていた。これがあきちゃんの好きだった人か、と駿佑は眺める。
『わー。明さんの彼氏、かっこいいですね』
そう爽やかに褒められて明が得意げに、せやろ、とドヤる。孝太郎は嬉しそうに笑った。
『なんかテンション上がります。明さんに彼氏紹介されるの』
「ほんまかー? まさかテンション上がってくれる思わんかったわ」
『だって初めての事ですし。俺ばっかり幸せやったら気ぃ使うやないですか』
「そんなん、なんも気ぃ使うことないわ。俺今めっちゃ幸せやから」
元想い人に堂々とノロケてくれた明に駿佑は嬉しくなり、えへへ、と笑って抱きつく。
「俺も幸せー。だいだいだーいすき」
「こら! 電話中にやめぇ」
孝太郎が、え! と驚いた声を上げた。
『なんなんですか今の優しい怒り方。てか初めて見る顔してましたよ。めっちゃくちゃデレデレやないですか』
駿佑は、キョトン、と返した。
「あきちゃんいつも俺にはこんな感じだよ」
衝撃です、と驚く孝太郎に嬉しくなり、駿佑はさらに自慢した。
「2人の時はもっとにゃんにゃんだよ~めちゃくちゃ可愛い」
孝太郎が飲んでいた飲み物を、ぶは、と噴き出した。ゲホゲホ、と画面の向こうでむせている。恥ずかしい事をバラされた明がたまらず、おい、と駿佑にツッコむ。
『ふふ……明さん、彼氏にはにゃんにゃんしてはるんですか?』
孝太郎は耐えきれない、というように息を漏らして笑っている。
「……笑うなや」
『いや、笑わん方が難しいですって。イメージちゃいすぎますよ。明さんがにゃんにゃんて。どっちか言うたら虎とかライオンのイメージやったのに』
明は、それより、と強引に話題を変えた。
「あの彼氏とは順調なん?」
『春さんですか? めちゃくちゃ仲良いですよ。たぶん明さんとこに負けてないくらいです。うちもにゃんにゃんです』
「おい、早速いじってくんな。どつき回すぞ」
駿佑が、ねえ、と身を乗り出して話しかけた。
「今度ダブルデートしませんか?」
明は、無理やったらええねんで、と付け加えた。
「俺たぶんコタローの彼氏に嫌われてるやろ」
『いや、そんなことないと思いますよ。春さん明さんの事気にしてましたし。いきなりおらんなったから……。せやから彼氏もおって元気やって聞いたら喜ぶと思いますよ』
「……お人好しやなぁ。お前とよう似合ってるわ」
そうですか? と孝太郎は幸せそうに笑う。
『すみません、そろそろ仕事行かな。また春さんに会えるか聞いておきますね』
「おお。いきなり変な電話して悪かったな」
『いえ。ごちそうさまでした。近況知れてよかったです。また馴れ初めとか聞かせてくださいね』
じゃあ、と電話を切る。駿佑は甘えるようにぐりぐりと頭を腕に押し当てながら尋ねる。
「久しぶりに喋ってコタローへの気持ち、ぶり返さなかった?」
明が駿佑の頬を愛でるように揉む。
「無いし。お前そんな心配すんのにダブルデートしよ言ぅたん」
「だってあきちゃん喋ってる時すごい楽しそうだったから」
「そら後輩やもん。でももう全然変な気ならんわ。横にこんなとびきり可愛い奴おるから。お前のおかげで、やっとただの先輩後輩に戻れたわ」
明が駿佑の頬を掴んで引き寄せ、キスをした。
「もうこんなんしたいん、駿だけや。俺駿しかもうあかん。東京まで来てよかった……。駿に会えてもう一生分の運使い果たした気ぃする」
明は甘えるように何度もついばむようなキスを繰り返す。日ごとに明の愛情表現が大胆になっているのを感じる。明から甘えることが増えて、駿佑はそんな嬉しい変化を見せてくれた明にいっそうのめり込んだ。さらに明は事あるごとに駿佑を、特別、と言う。そして駿佑しか駄目だ、とも繰り返す。それらの言葉は替えのきかない深い愛情に飢えていた駿佑の心を満たした。
「俺もあきちゃんが東京来てくれて、よかったよ。もうあきちゃんいない生活とか考えられないし」
「お前は俺おらんでもそのうち俺くらい世話焼きな彼女できてたと思うけど」
「またそんな事言って。俺はあきちゃんがいいって言ってるじゃん。ネガティブなにゃんにゃんだねー」
駿佑はあやすようにキスを返す。春さんも会いたいって言ってます、と孝太郎からあらためてダブルデートの誘いが来たのは翌日のことだった。
「地毛、黒なんだね~」
明は、ふは、とおかしげに笑った。
「いやいや今さら何やねん。知ってるやろ」
「わかってたんだけどさ。あきちゃん金髪似合ってるから地毛っぽいんだもん」
「そのうちやめるけどなぁ。ハゲるん怖いから」
真顔で言い切った明に駿佑は噴き出した。
「笑い事ちゃうわ。俺の地元のツレでめちゃくちゃ後頭部薄なってきた奴おって、そいつもずっと金髪やったんや」
ひとしきり笑ってから駿佑は尋ねた。
「ね、あきちゃんの友達の話聞きたい。1番仲良しの友達は?」
明は、1番~? と少し考える。
「1番とかわからんわ。地元のツレはもうグループやから、みんな同じくらい仲ええで。早々に身ぃ固めて結婚して子供おる奴多いからあんまり会わんけどなぁ」
「その中に東京にいる人いないの?」
「いや、みんな大阪」
「そっかぁ。寂しくない?」
明は、別に、と首を傾げた。
「年々話合わんなってるしなぁ。会うん年1とかでちょうどええくらいや。嫁とか子供の話されても俺わからんし」
「あ~……俺もちょっと友達と話合わなくなってるかも。昔はみんなでゲームとかしてたのにさぁ~大学行ってから女の子の話ばっかり」
「あの前にシュラスコで悪口言うてきた奴らか。あれから音沙汰なしなん?」
「ううん。あのあと個別でバラバラにごめんってライン来てたよ~。根は悪い奴らじゃないんだよねー。ただ大勢だと調子乗っちゃうだけで」
クソガキやな、と顔をしかめた明に、俺もだよ、と駿佑は笑った。
「駿はクソガキちゃうわ」
「え~。俺初めてあきちゃんに年齢言った時にクソガキって言われたよ~」
「誰がこんな可愛い男にクソガキなんか言うねん」
「言ったし」
駿佑はハチミツたっぷりのパンケーキを頬張りながら聞いた。
「ゲイの友達はいないのー? 東京で1番仲良い友達は?」
「えー?」
明は何故か困った顔をした。誰もいないならすぐに、おらん、と言いそうなのにそう言わないということはいるのだろう。明が口にするのを躊躇うような相手とはもしかして、と駿佑は思いついた名前を口にした。
「コタロー?」
明は、うわ、と露骨に嫌そうな顔をした。
「いらん時だけカンええやん……」
「正解?」
「……せやな。まぁあいつはゲイやし大阪の時からよぉ遊んどったし」
駿佑が、あ、と声を上げて申し訳無さそうな顔をした。
「もしかして俺に気ぃ使って疎遠にしてる?」
「ちゃうちゃう。お前に会う前から距離置いてる。一応振られた身やし、あいつ彼氏おるし」
確かに振られたのなら気まずいだろうがもう自分という恋人がいるのなら平気じゃないか、と駿佑は思い至りにっこり笑った。
「じゃあダブルデートしよ~」
ダブル、と両手でピースサインを作った駿佑に明は、は!? と声を上げる。明は苦虫を噛み潰したような顔で、なんでやねん、と言った。
「お前客にはあんな妬いてたくせに、なんでそれは平気やねん」
「だってコタローはあきちゃんのことフってるし彼氏もいるんでしょ?」
ぐ、と言葉を詰まらせたが明は反論した。
「にしても、なんで俺が前好きやった奴を恋人に紹介せなあかんねん。変やんか」
「友達じゃないの?」
「でも俺振られてるし」
「振られたら、友達じゃなくなっちゃう?」
「え~……わからん。俺友達から告られたことないし、自分から告ったんあいつしかおらんもん」
聞き捨てならず、駿佑が反論する。
「俺にも告白したじゃん!」
「え? お前やろ」
「違うよ。俺が先に付き合ってって言ったけど、あきちゃんも俺に付き合ってって言ったもん」
「あれは告ったいうか、返事やないん」
「やだ。告白のカウントに入れる。あきちゃんが今まで告白したのは計2人ね」
妙なこだわりを見せた駿佑に、はいはい、と明は呆れたように笑う。
「話戻るけどさぁ、俺あきちゃんの友達に会ってみたいんだよ。なんか友達といる時っていつもと違う感じになるじゃん。そういうあきちゃん見てみたい」
駿佑は歴代恋人を全員美結に紹介しているし、また駿佑も必ず恋人の友人に紹介されている。駿佑は恋人の友達に会うのも、自身の恋人を友人に紹介するのも好きだった。ええ~、と困った声を上げた明は天を仰ぎ両手で顔を隠す。そしてぽつりと、ごめん、と謝った。急な謝罪に戸惑う駿佑に明はほんの少し声のボリュームを下げて言った。
「コタローとはただの純粋な友達やないねん。付き合ぅてはないけど1回だけヤってる……」
駿佑は、え!と驚きの声を上げた。
「嘘! コタローってそんな感じなの!?あきちゃんヤり捨てされた系?」
「ヤり捨て言うな。誘ったんは俺や」
「ああ~……あんな感じで誘われたら気がなくてもしちゃうよね」
自分が即ホテルのナンパをされた時のことを思い出し駿佑が納得すると明は、それとはまたちゃうねん、とバツ悪そうな顔をした。
「そんなんやなくてもっと強引な感じっていうか……俺が無理やり仕掛けた感じやしあっちは全然望んでへんかったわ」
自分から聞いたものの、駿佑以外のことをそんなに好きだったという明の過去は駿佑をモヤっとさせた。駿佑は念のため確認する。
「……今は引きずってないよね?」
明は、当たり前やん、と笑い飛ばして自分のパンケーキをパクつく。
「ゼロや、ゼロ。未練全くない。片思いなんかもう嫌やわ。めっちゃしんどいもん。何しても全然好きになってもらえんし、それやのに好きなんはやめれんし」
「片想いって大変なんだね~」
そうのたまった駿佑に明は尋ねた。
「お前そんなん今まで経験無いん」
「1回も無いねー。今まで好きになった子はみんな付き合えたよ」
はー、とため息をついた明はナイフとフォークを置いて椅子の背にもたれかかった。
「腹立つやっちゃなー。まぁ俺もその1人やからわかるけど……そら好きなるわこんなかっこええ可愛い奴に好き好き迫られて好きならん奴この世におらんやろ」
「あきちゃんも好きになっちゃったもんね」
「そうや、可愛い彼氏にメロメロや」
明はいつしか、好き、と言うことにすっかり抵抗がなくなっていた。以前は外にいるときはもう少しよそよそしくされていたのだが、周囲に人が少なければ恋人として振る舞ってくれるようになっている。
「両想いだね」
にっこりと笑って語尾にハートマークがつきそうな甘い声で言った駿佑に明は、はー、とため息をついて頭を抱え、ぼそっと言った。
「今のお前可愛すぎて無理……俺もうお前の一挙手一投足が全部ツボやねんから気をつけろや」
「どう気をつけるの。てか彼氏がツボっていいことじゃん」
「もし俺と別れたなったらボコボコにシバき回して縛って海に捨ててくれ」
「なにそれ怖」
急に何でそんな物騒なことを言うんだと駿佑が怪訝な顔をしていたら明がぽつりと付け加えた。
「そんぐらいされなもう……別れられへんかもしれへんから」
そう言った明のシュンとした顔を見た瞬間、駿佑はまるで胸の奥を鷲掴みにされたような心地になる。悲しい顔はさせたくないはずなのに、この人にこんな顔をさせているのは自分なのだと思うと駿佑は胸が高鳴った。
「……引くなや」
黙ってしまった駿佑に、引いてしまったんだと解釈した明が茶化すように駿佑の足をテーブルの下で軽く蹴る。
「冗談やし、真に受けすぎ。ほんまにお前が別れたい言うたら2秒で別れたるわ」
そう言った明は寂しそうで駿佑は咄嗟に、やだよ、と言った。
「嬉しかったから、冗談にしないで」
ふい、とそっぽを向いた明の耳の先が赤くなっているの事に気づいた駿佑が、ねぇねぇ、とご機嫌に尋ねる。
「今まで付き合った中で俺のこと1番好きー?」
肯定してもらえる気満々で尋ねた駿佑に、明は躊躇いがちに言った。
「好きなったやつと付き合うん、初めてやから。1番も何もお前しかおらんわ」
目を丸くした駿佑は口元を手で覆いぽつりと呟いた。
「え、嘘、じゃあ俺が初めての彼氏ってこと?」
「……昔に適当に付き合ぅた奴省いたら、そうなる」
駿佑の胸が甘く高鳴る。付き合ってからの明は本当に可愛くて、そんな明の一面を知っているのは自分だけだと知って駿佑は浮かれた。
「俺も彼氏は初めてだよ~」
駿佑が女性遍歴を除外してそう言ったら明ははにかむように笑った。その表情がまた可愛くて駿佑はしみじみと言った。
「コタローがなんであきちゃんと付き合わなかったのか本気で謎すぎる。ゲイだったんでしょ。こんな可愛いあきちゃんフるとかありえない」
「まぁ、シンプルにタイプちゃうかったんやろ。見た目も中身も。あいつ俺に世話焼かれんのも嫌みたいやったし」
明は手を伸ばして、駿佑の口元についていた生クリームをおしぼりでぬぐった。
「俺は嬉しいけどなー。今のとか、キュンってする」
そらよかった、と明は笑う。
「まぁ俺、あいつには結構やらかしたしな。コタローの彼氏に嫌がらせもしてたわ」
何したの、と尋ねられた明は、今では反省してんで、と言い訳してから言った。
「コタローのスマホで彼氏をブロックと着拒したりー、彼氏に意地悪して嫌なこと吹き込んだり」
わるー、と駿佑は声を上げる。
「悪者じゃん。それサメ映画だと1番に食べられるやつだよ」
「そうや。ゾンビ映画でも即死や」
「それか人のこと踏み台にして生き残るんだけど最後の最後に感染しちゃう人かな」
「それ1番嫌やん」
「俺がつい推しちゃうタイプの人~」
あは、と笑った駿佑に明は躊躇いがちに言った。
「お前が嫌ちゃうんやったら連絡取ってみてもええ? コタローと。俺が復帰する店コタローと一緒の歌舞伎町やからそのうちばったり会うときあるかもしれんし……。先に謝っとくわ。で、ちゃんと彼氏やって駿のこと紹介する」
今は孝太郎がまだ寝ているだろうから、と家に帰ってから夕方くらいに電話することになった。電話をかける前に駿佑が孝太郎を見てみたいと言ったので、明は以前働いていたホストクラブ【FRONTIER】のホームページを開いて在籍一覧を出す。明が孝太郎の写真を駿佑に見せると駿佑は、うわ、と声を上げた。
「髪ピンクだ……イケイケじゃん……」
駿佑が想像していたより孝太郎はTheホストという風貌だった。サイドを片方だけ刈り上げていて髪は派手なピンク色。ハイブランドの服をかっこよく着こなしている。しかし明は笑って否定した。
「イケイケなんは見た目だけやで。性格ごっつい真面目で地味。イケイケの真逆や」
孝太郎の写真をしげしげと見て駿佑が言った。
「顔はちょっと俺と似てるかもだけど……でもなんかコタローオシャレな感じだし俺、負けてない?」
駿佑が弱気を見せると明は、どこがや、と怒る。
「お前世界一可愛いのに負けてるわけ無いやろ。てかこいつの着てる服全部俺がやったやつやしな。こいつがオシャレなんは俺のセンスや」
「そうなんだ……ってこれ全部ハイブランドじゃないの? 総額凄そうだけど」
駿佑がめざとく突っ込むと明はバツ悪そうに口をつぐんだ。明の反応に、もしかして、と駿佑は尋ねた。
「……コタローに貢いでた? このトレーナーだけでも普通に10万とか越えるでしょ。服爆買いしてた時期に俺ここの買ったことあるから値段知ってるよ」
明は、貢ぐとかちゃうわ、と否定する。
「そんな変なんやなくて、こいつゲイやって公表してしもてるからもうめっちゃ売上低かってん! ビビるくらい。せやから金無くて飯は食えへんわずっとしょぼい安もん着てるわで客にも後輩にも舐められてて可哀想やったから、ちょっと飯連れてったりお下がりやー言うて嘘ついて服買うたったりしててん。それだけや」
「何で嘘ついたの。わざわざ、お下がりだー、なんて」
「はー? そんなん変やんか。謎に急にハイブラ新品プレゼントとか引くやろ。ただの後輩に。しかもあいつゲイなん俺知ってて俺バイなんあいつ知ってんのになんか変な感じなるやろ。意味深やん」
「素直に言ってたら、す……」
好かれてたかもよ、と言いかけて駿佑は口をつぐんだ。自分と出会わず他の男と恋人同士になってたかも、なんてifは軽口でも言いたくなかったからだ。急に黙り込んだ駿佑に明が、ごめん、と謝った。
「気ぃ悪した? 変な勘違いせんといてや。駿もぉ服自分で買ったやつよぉけ持ってるから気ぃ回らんかっただけやねん。なぁ、他のなんかプレゼントさせて。時計でもアクセサリーでも何でも買ったるから今度パーッと買い物行こ。せやから……」
めずらしく慌てた様子の明に駿佑は、ふ、と笑った。
「いいよ。何も買わなくて。欲しい物はもう自分でだいたい買っちゃってるし。お金で買えないもの、ちょうだい」
「ええで。なにがええん」
駿佑がずいっと明に距離を詰めて耳打ちする。
「あきちゃん」
明は耳を赤らめながら、それはもうお前のやって、と返す。
「じゃあやっぱりお金で買えるのにしよっかな。あきちゃんの仕事の時用のパンツ買ってよ。もー外で絶対ズボン脱げないよーな布少ない恥ずかしいやつ」
「ッなんで俺そんなん履いて仕事せなあかんねん」
「浮気防止?」
にこにこと笑う駿佑に、アホか、と明は切り捨てる。
「浮気なんかあるわけ無いやろ。俺ほんまに駿のモンやし、他一切興味ないわ」
そうはっきり言ってもらえて駿佑は満足していた。そろそろ電話しよ、と言いながら怪しい手つきで明の胸元を弄ってきた駿佑に、こら、と明は注意をする。スピーカーにして電話をかける。数コール鳴った後で、はい、と少し低めの声が聞こえた。明は、もしもし、と話しかけた。
『明さん、どうしました?』
孝太郎の声がスピーカーで部屋に響く。
「や、別にどうって事はないねんけど……とりあえず先に謝っとくわ。前いろいろごめんな」
明がそう謝ると孝太郎が、え!? と声を上げた。
『どうしました!? なんかありました!?』
「別に。あの彼氏にも謝っといて」
『え……なんなんですか。怖いですって』
紹介が待ちきれなかった駿佑が隣から、こんにちは、と口を挟んだ。電話口の孝太郎が少し戸惑いつつ、こんにちは、と返す。
『明さん、誰とおるんですか?』
「あ~……その、俺の彼氏」
え! と孝太郎は驚いたがすぐに、ああ、と納得した声を上げた。
『なんや、彼氏できたからそんな急激に丸なったんですね! 何かあったんかと思て心配したやないですか』
「別に、元々丸いやろ」
『ナイフくらい尖ってましたよ』
駿佑が横から口を挟む。
「ねー、あきちゃん。フェイスタイムにしてよー」
「ああ。コタロー、ええか?」
孝太郎が了承したので、明がテレビ電話に切り替える。画面に映った駿佑を見て孝太郎が、こんばんは、と挨拶する。画面越しに見る孝太郎はホームページで見た写真より柔らかい雰囲気をさせていた。これがあきちゃんの好きだった人か、と駿佑は眺める。
『わー。明さんの彼氏、かっこいいですね』
そう爽やかに褒められて明が得意げに、せやろ、とドヤる。孝太郎は嬉しそうに笑った。
『なんかテンション上がります。明さんに彼氏紹介されるの』
「ほんまかー? まさかテンション上がってくれる思わんかったわ」
『だって初めての事ですし。俺ばっかり幸せやったら気ぃ使うやないですか』
「そんなん、なんも気ぃ使うことないわ。俺今めっちゃ幸せやから」
元想い人に堂々とノロケてくれた明に駿佑は嬉しくなり、えへへ、と笑って抱きつく。
「俺も幸せー。だいだいだーいすき」
「こら! 電話中にやめぇ」
孝太郎が、え! と驚いた声を上げた。
『なんなんですか今の優しい怒り方。てか初めて見る顔してましたよ。めっちゃくちゃデレデレやないですか』
駿佑は、キョトン、と返した。
「あきちゃんいつも俺にはこんな感じだよ」
衝撃です、と驚く孝太郎に嬉しくなり、駿佑はさらに自慢した。
「2人の時はもっとにゃんにゃんだよ~めちゃくちゃ可愛い」
孝太郎が飲んでいた飲み物を、ぶは、と噴き出した。ゲホゲホ、と画面の向こうでむせている。恥ずかしい事をバラされた明がたまらず、おい、と駿佑にツッコむ。
『ふふ……明さん、彼氏にはにゃんにゃんしてはるんですか?』
孝太郎は耐えきれない、というように息を漏らして笑っている。
「……笑うなや」
『いや、笑わん方が難しいですって。イメージちゃいすぎますよ。明さんがにゃんにゃんて。どっちか言うたら虎とかライオンのイメージやったのに』
明は、それより、と強引に話題を変えた。
「あの彼氏とは順調なん?」
『春さんですか? めちゃくちゃ仲良いですよ。たぶん明さんとこに負けてないくらいです。うちもにゃんにゃんです』
「おい、早速いじってくんな。どつき回すぞ」
駿佑が、ねえ、と身を乗り出して話しかけた。
「今度ダブルデートしませんか?」
明は、無理やったらええねんで、と付け加えた。
「俺たぶんコタローの彼氏に嫌われてるやろ」
『いや、そんなことないと思いますよ。春さん明さんの事気にしてましたし。いきなりおらんなったから……。せやから彼氏もおって元気やって聞いたら喜ぶと思いますよ』
「……お人好しやなぁ。お前とよう似合ってるわ」
そうですか? と孝太郎は幸せそうに笑う。
『すみません、そろそろ仕事行かな。また春さんに会えるか聞いておきますね』
「おお。いきなり変な電話して悪かったな」
『いえ。ごちそうさまでした。近況知れてよかったです。また馴れ初めとか聞かせてくださいね』
じゃあ、と電話を切る。駿佑は甘えるようにぐりぐりと頭を腕に押し当てながら尋ねる。
「久しぶりに喋ってコタローへの気持ち、ぶり返さなかった?」
明が駿佑の頬を愛でるように揉む。
「無いし。お前そんな心配すんのにダブルデートしよ言ぅたん」
「だってあきちゃん喋ってる時すごい楽しそうだったから」
「そら後輩やもん。でももう全然変な気ならんわ。横にこんなとびきり可愛い奴おるから。お前のおかげで、やっとただの先輩後輩に戻れたわ」
明が駿佑の頬を掴んで引き寄せ、キスをした。
「もうこんなんしたいん、駿だけや。俺駿しかもうあかん。東京まで来てよかった……。駿に会えてもう一生分の運使い果たした気ぃする」
明は甘えるように何度もついばむようなキスを繰り返す。日ごとに明の愛情表現が大胆になっているのを感じる。明から甘えることが増えて、駿佑はそんな嬉しい変化を見せてくれた明にいっそうのめり込んだ。さらに明は事あるごとに駿佑を、特別、と言う。そして駿佑しか駄目だ、とも繰り返す。それらの言葉は替えのきかない深い愛情に飢えていた駿佑の心を満たした。
「俺もあきちゃんが東京来てくれて、よかったよ。もうあきちゃんいない生活とか考えられないし」
「お前は俺おらんでもそのうち俺くらい世話焼きな彼女できてたと思うけど」
「またそんな事言って。俺はあきちゃんがいいって言ってるじゃん。ネガティブなにゃんにゃんだねー」
駿佑はあやすようにキスを返す。春さんも会いたいって言ってます、と孝太郎からあらためてダブルデートの誘いが来たのは翌日のことだった。
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