上 下
256 / 258
運命を操る者

250.奪還戦

しおりを挟む

 「アル!」
 「心配するな、そこで待っててくれ!」
 「チッ、さすがに『俺』か」

 狭い部屋でのエクスプロードは避けにくいため相手を蹴散らすには最適だ。
 しかし同じ威力で無詠唱を使える同一存在である俺はエクスプロードを放ち相殺する。
 すぐに散開して目標を散らす中、俺は煙の中を前進してマチェットを振り下ろす。
 
 「ふん!」
 
 斬撃による風切り音と金属のぶつかる鈍い音が部屋に響く。その間を縫って爺さんがリンカを確保すべく移動するのが視界の端に見える。
 目的はリンカの救出なので『俺』を必ず倒すということもない。

 だが――

 「そう簡単にことが運ぶと思うな!」
 「うお!?」
 「きゃ……!?」

 俺を蹴り飛ばして爺さんに斬りかかる『俺』。
 そのままリンカを抱え、隣の部屋に穴を空けて逃げ出した。

 「判断が早い……!」
 「お兄ちゃんもう止めて!!」
 「紬か……お前を利用したことは悪いと思っている……こっちの世界で死んだお前の魂を神の力で送り込んだ……」

 紬もこの世界で『誰か』だったらしいことを匂わせる。……誰だったんだ?
 城を破壊しながら進む『俺』に、こういった野戦に強いオーフが並ぶ。

 「償いと懺悔は一人でやりな!」
 「オーフ……! ……ダメなんだよ、俺はもう止まるわけにはいかないんだ!」
 「オレも居るぜ!」
 「む……! 以前とは違い鋭い……!」

 オーフもディカルトも『生き残った』が故にランクを上げているのだ、こいつが相対した時と違うのは明白。
 そこへいつの間にか回り込んでいたラヴィーネが仕掛けた。

 『諦めろ私の子孫、アルフェン。この世界のお前は私と同じ……運命というものに遊ばれたのだ。別世界を混乱に入れるのは間違っている』
 「お前が言えたことか! 人の両親を殺したお前が!!」
 『分かっている、それでもこちら側のアルフェンからリンカを奪うのは違うと言っている!』
 「くそ……!」
 「こっちの私は死んだのよ! 『私』に失礼だと思わないの!」
 「どいつも邪魔ばかりする……! 普通に暮らしたいだけなのにどうしてこうなる!!」

 リンカもウェディングドレスをボロボロにしながら逃げ出そうとするが鍛えた時間が違うリンカでは振りほどけないようだった。
 ラヴィーネが足止めをしてくれ、俺と爺さんも追いつく。見ればいつのまにか二階の踊り場へと来ていた。
 
 「こんな雪国から逃げるのも大変だろう。諦めろ」
 「まだだ……。マスタークラスの魔法を味わえ!」
 「なに!?」

 エクスプロードよりもさらに強い熱量を帯びた炎が解き放たれる。
 当たればやけどじゃ済まないソレを俺も魔法で打ち消そうとするも少し弱まった程度で襲い掛かって来た。
 
 『なんの……!!』
 「ギルディーラ!」
 
 大剣を振り回して勢いをさらに殺してくれたおかげで肌の表面をチリチリと焼く程度に収まった。
 四人は生身……だがラヴィーネは――

 『私には効かんぞ!』
 「死人が!!」

 ――炎が渦を巻いた瞬間に飛び込んでいた。
 確かにあの雪山を軽装で移動してきたのだから装備にかすでに死んでいるからか感覚はないと見ていいのか。

 「リンカを守りながらよくやっていると思うけど、ここまでだ!」
 「はは! これでも一人でこっちのラヴィーネを殺した俺に勝てるつもりか!」
 『往生際が悪い……が、確かに強い』

 ラヴィーネを魔法で牽制しながらギルディーラを退ける。
 大技を仕掛けたいがリンカに当たらないようにするのは難しいので魔法は使えない。
 逆に狭い通路でリンカを連れている『俺』はこちらに手加減無しで攻撃ができるためハンデとしてはかなり痛い。
 オーフとディカルトの斬撃もいつもより鈍いのはそのせいだろう。
 でも長引かせるのは得策じゃないと俺は左手に魔力を収束させ、姿勢を低くして飛び込んでいく。

 「リンカ、怪我をしても治してやるからな!」
 「うん! 私には構わず思い切りやって!」
 「お前……!? リンカを傷つける気か!」
 「それこそお前が言えたことかぁぁぁぁぁぁ!!」
 
 俺は足元にエクスプロードを放ち、『俺』と俺、そしてリンカを巻き込んで爆発する。
 直後、巻き上がったリンカにアイシクルダガーをスカートや肩口へ放ち、離れた場所にある柱へ縫い付けた。
 リンカのドレスは焼け焦げ、彼女も擦り傷や火傷の痕が。気絶はしていないようだが顔を歪める姿に胸が痛くなる

 「オーフ! ディカルト!」
 「「任せろ……!!」」
 「なんて馬鹿な真似を!? リンカ!」
 「追わせると思っているのか!」
 『全力で倒させてもらう!』
 「爺ちゃん、ギルディーラ……!」

 全身から煙を出しながら駆け出そうとする『俺』へ二人が立ちはだかり、攻め立てる。治療のためその横をすり抜けてリンカの下へ走る俺。

 あの一瞬と躊躇わない一撃が勝負の明暗を決めた。
 手加減の必要が無くなった二人にラヴィーネが加われば止められる人間などいない。
 それでもなお、腕を切られても肩から血を噴出させながらも抵抗を止めない『俺』
 『英雄』と『魔神』である両者も足が下がるほど、魔法と剣で暴れる。

 そして、打ち合いの末に爺さんの剣が真ん中から折れた。

 「どけ爺ちゃん! リンカが居ないと俺は!!」
 「アルフェン! この世界のリンカはもうおらぬのだ! 現実を……受け入れろ! お前はアルフェン=ゼグライト、ワシの孫なのだろうが!」
 「……!?」
 「あ!?」
 「ぐぬ……!」

 折れた剣を捨てた爺さんは防御もなにもせず、腹に剣を受けた。
 
 「馬鹿……者が……!」
 「あ、あああ……じ、爺ちゃん……。もう……たくさんだ……みんな……消えちまえ……!」
 「マズイ!? リンカを頼む!」
 「おいアル!?」
 「お兄ちゃん!」

 あれを……あの右腕の力を解放させるわけには……いかない!!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~

平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。 三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。 そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。 アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。 襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。 果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

婚約破棄は誰が為の

瀬織董李
ファンタジー
学園の卒業パーティーで起こった婚約破棄。 宣言した王太子は気付いていなかった。 この婚約破棄を誰よりも望んでいたのが、目の前の令嬢であることを…… 10話程度の予定。1話約千文字です 10/9日HOTランキング5位 10/10HOTランキング1位になりました! ありがとうございます!!

婚約破棄されたので暗殺される前に国を出ます。

なつめ猫
ファンタジー
公爵家令嬢のアリーシャは、我儘で傲慢な妹のアンネに婚約者であるカイル王太子を寝取られ学院卒業パーティの席で婚約破棄されてしまう。 そして失意の内に王都を去ったアリーシャは行方不明になってしまう。 そんなアリーシャをラッセル王国は、総力を挙げて捜索するが何の成果も得られずに頓挫してしまうのであった。 彼女――、アリーシャには王国の重鎮しか知らない才能があった。 それは、世界でも稀な大魔導士と、世界で唯一の聖女としての力が備わっていた事であった。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

処理中です...