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運命を操る者

237.再会

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 「……よし、それじゃ今後ともよろしく頼むよスチュアート」
 「手間をかけるな」
 「ははは、とりあえず港町まではご一緒させてもらいますがね」
 「では出発しましょう!」

 リンカが元気に宣言をすると、二頭のラクダが『ブルベェェ』と応えてゆっくり歩き出す。俺がペロに乗りリンカがペルだ。ペラは双子が気に入ったため先にイークンベル王国へ出発していたりする。
 この前ダーハルが来ていた時にラクダにもつがいが欲しいと言うと、

 「大橋が完成すれば連れて行くよ。ボクのつがいにもなってくれ」

 ということなので期待ができそうである。後半部分は無視しておいたが。
 シェリシンダ王国には書状を送り、家族全員でと伝えた。
 許可が下りないということはないだろうが万が一の場合、爺さん達はイークンベルに居を構えることになるだろう。

 そして往路の同行者にはイリーナとスチュアート。
 もちろんマイヤに会うためで、例の港町まで同行してもらう予定だ。
 元々、イリーナの旦那さんは病死しているが記憶の混濁もあるため再婚相手というのは言わず、スチュアートは遠巻きから見守る形になる。
 危ないから護衛をというのが一番大きいかもしれない。

 ギルディーラも一度サンディラス国へ報告へ行くとダーハルと一緒に旅立ったので、ここには俺達家族のみ。

 「馬車と並走するならちょうどいい速度ねラクダって」
 「荷物を持って砂漠を歩くタフさもあるから速度を考えなければ優秀だよな」
 「もうお屋敷から居なくなるのは寂しいですね」
 「わふ」

 イリーナの膝で鼻を鳴らすクリーガー。
 ここ最近はずっと賑やかだったからあの大きな屋敷にスチュアートと二人は広すぎるかもしれないな。使用人は俺達が居なくなったら給金が出なくなるため、他に移ってもらったし。

 「異国か……まさかこんなことになるとは思わなかったな」
 「まあいいじゃありませんか。マルチナ達には申し訳ないですけど、新しい土地というのも面白そうですもの。それに、もう危ないことも起きないのでしょう? アルフェンやリンカと静かに暮らせるならいいわ」
 「フフ、それもそうか。シェリシンダ王国へ到着したら挨拶をせねばな。あの双子もみたいのう」
 「可愛かったですわね」

 爺さんは少し故郷を離れることに寂しさを感じていたようだが、婆さんは意外とフットワークが軽いもんだと驚いた。
 
 そして国境へ辿り着くと――
 
 「……お気をつけて! 今までありがとうございました!!」
 「いつでも帰ってきてくださいよ!!」
 「お元気で!」
 「おう!? 首の長い生き物……!」
 「ブルベエェェ」

 待ち構えていた非番の騎士達が見送ってくれた。爺さんの人徳がなせる業だろう。 
 握手をして別れたのち、ジャンクリィ王国を経由して港町へ。

 「獣人兄弟は元気にしてるかな」
 「弟のセロ君の食欲にはびっくりしたわね。私のお義父さんがジャンクリィ王国と連携して森は平和みたい。オーフさんが言ってたわ。そういえばあの人達とは会わなくていいの?」
 「ふうん、元気ならいいけど。最後に会っておけばよかったかな? オーフ達はどこにいるか分からないからいいよ。なんかあればイークンベル王国の父さんの屋敷に手紙を送ってくれるようになってるから大丈夫だろ」

 まさかディカルトとロレーナが一緒になるとは思わなかったけどなあ。特にロレーナはあんまり好きそうじゃなかったし。
 でも、命がけで一緒に戦った相手というのは吊り橋効果もあったのかもしれない。
 結局ギルディーラをお父さんと呼んでいた理由は不明だった。

 程なくして港町へ到着し、船に揺られてマイヤの居るところへ。
 揺れる船内でクリーガーが興奮か半狂乱してデッキを駆けまわっていたのが可愛かった。

 そして――

 「エイルの港町……久しぶりだな、ここでマイヤに会ったんだ」
 「ふむ、すぐ会いに行こう」
 「はい」

 馬車とラクダを歩かせ注目を浴びる俺達。
 目立っているが一過性のものだと割り切り、覚えている道を辿ってマイヤの自宅へと向かう。

 「お、ちょうどいいところに旦那さんが外にいるな。確か……ハーリィって名前だったっけ? おーい!」
 「ん? ……あ! お前!」
 「わー!」
 「きゅん」

 息子のウェイと遊んでいたハーリィを発見し声をかけると、向こうも覚えていたようで目を見開いて驚いていた。
 瞬間、クリーガーを見た息子は一直線に走ってくる。

 「お前、子供に人気だよなあ」
 「わふん?」
 「まだ小さいし可愛いもの」

 リンカがペルから降りてウェイがクリーガーを触らないように牽制していた。小さい子なので甘噛みでも危険と判断したのだろう。

 「豪華な馬車……本当に貴族だったのか」
 「まあね。マイヤは居る?」
 「今、ちょうど買い物に出たところだ。うちにと言いたいところだが……この人数は流石に入れんしなあ」

 ハーリィが頭を掻きながらそういうが、俺としては馬車もあるし外で待っていても構わないので少し端に寄せて待たせてもらうことにした。

 「お、おい。いや、坊ちゃんあそこにいるのはもしかして……」
 「気持ち悪いな!? 殴りかかって来た威勢はどうしたんだよ……。そうだ、似てるだろ?」

 ハーリィが言わんとすることは分かったので頷くと、その人物であるイリーナがウェイを見て口を開く。

 「あの、お子さんを抱いてもよろしいかしら?」
 「あああ、は、はい!! もちろんでございます!!」
 「ありがとうございます」

 にっこりと微笑んでからクリーガーを撫でたそうにするウェイを抱っこして目線を一緒にする。

 「あう?」
 「初めまして、私は――」

 と、言ったところでなにかが落ちる音。
 そちらに目を向けると頭を抑えて目を丸くするマイヤの姿が、あった。

 「う……お、かあさん……?」
 「マイヤ……!! よく無事で……」
 「ああ……頭が……そう、そうだ……ハッキリ思い出した……アル様にアルベール様……お母さん! お母さん!!!」
 「マイヤ! 良かった……本当に良かった……」
 「ママ、ないてるの? いたいいたい?」
 「違うのよウェイ嬉しくても泣くことがあるの……うわあああああああん」

 マイヤはイリーナに駆け寄り抱き合って大泣きした。
 あの状況でイリーナが助かっていたのは奇跡に近いので、当時を思い出したマイヤにが生き残り再会できたことも奇跡と言っていいだろう。

 「ぐす……良かったわ」
 「本当にな……」

 俺達は落ち着くまで見守ることにした。
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