上 下
236 / 258
黒い剣士、再び

229.圧倒的な力

しおりを挟む

 「我が娘の仇、今こそ!!」
 「黒い剣士、いや女王ヴィネ、覚悟!!」
 「ははっ!!」

 最初に飛び込んだのは俺と爺さん。
 当然だろうここで俺達が行かないで誰が行くというのか?
 最速の動きで左右に展開し、狙いを分ける。

 「チェストぉ!!」
 「くらえ!!」

 爺さんは型を使った鋭い三連撃、俺は片手で首を狙いつつ無詠唱のアイシクルダガーでヴィネの足元を攻撃。
 
 「ほう、速いな!」
 「強がりを!」

 足にアイシクルダガーが刺さり俺と爺さんの剣がヴィネを捉える。この段階まで動きは無しだが、不敵な笑みを浮かべている。
 もらったと思った瞬間、俺は嫌な気配を感じてマチェットで防御。

 「アル!?」
 「ぐ……なん、だ? 爺ちゃん……!」
 「チィ!」

 気づけば俺は3メートルほど吹き飛ばされ床に転がり、爺さんの攻撃も打ち合いになり壁に吹き飛ばされていた。
 だが、そこは爺さん、空中で態勢を変えて壁にを蹴って着地を決める。

 「父さん!」
 「貴様を倒せばアルはなににも縛られずに生きられる。あいつの恨みは俺達のものでもある!! ヴァイクラッシュ!』
 「くははっ!! 面白いことを言う! 人間は誰しもなにかに縛られているものだろう!」

 父さんの両手もちから繰り出される剣技は大岩すら砕く一撃。
 しかし、それを片手で受け止めて笑うヴィネに俺は驚愕する。

 「片手だけで……!? う、動かん!」
 「まだまだ本気ではないだろう? 私の命に届かせるには足りんぞ」
 「まずい……!?」
 「父さんを持ち上げるのかよ!?」

 大剣を掴んだまま父さんを持ち上げ、虹色の剣を突き刺す態勢を取り、慌てて魔法を撃ちだす。それと同時にギルディーラも側面に回り込んで頭を狙う。

 『させると思うか?』
 「ふっ!」
 「なんだ、ファイヤーボールが消えた……!?」
 「荷物は捨てなければな!」
 「チィィ!?」
 
 無造作に投げ捨てられた父さんが床を転がる中、ギルディーラの一撃をヴィネが受け止め、打ち合いが始まる。
 お互い急所を素早く狙い、その一瞬の攻防により剣が火花を散らす。あの虹色の剣が欠けないのも凄いが、ギルディーラとの体格差があるにも関わらず当たり負けをしてないのが敵ながら凄い。
 
 「ハァァァァ!」
 『なんという気迫……! 俺が押し切れんとはな』
 「背後からなら!!」
 「『ブック・オブ・アカシック』の子よ、甘いぞ!」
 「それはどうかな?」
 「む!?」

 ギルディーラすら押し返す相手だ、打ち合いをするのは不利。
 ならばと、背後から迫った俺に蹴りを繰り出してきたヴィネに俺はライティングを顔前に叩きつけ、そのまま脳天へマチェットを振り下ろす。

 「くらえ!」
 「いい攻撃だ、だが私をこの程度で捕まえたと思わんことだ」
 「マジか……!? 見えていないはずだろ! ギルディーラ!」
 『分かっている!』

 目を瞑ったまま俺のマチェットを虹色の剣で受け止め驚愕するが、すぐにギルディーラへ追撃をお願いし、こいつが振り向いて攻撃できないよう鍔迫り合いを継続する。

 「フッ」
 「え!?」
 『なんと!?』

 ヴィネは剣をあっさり手放して床を蹴り右へ移動。
 俺は急に抵抗が無くなったため前のめりにたたらを踏み、ギルディーラの剣が目の前に飛んできた。
 咄嗟にガードして吹き飛ばされる中、視界の端でギルディーラがヴィネに蹴りを入れられ後ずさる姿が見えた。
 目は……まだ閉じている。そのことも凄いのだが、ギルディーラを蹴り一発で下がらせる威力に冷や汗が噴き出す。
 
 四人がかりで攻撃したのに涼しい顔をしているヴィネは、目をまたたかせ、剣を拾いながら口を開いた。

 「ふむ、さすがは『魔神』だな。ただの人間なら今ので再起不能だったのだが。将軍、騎士団長、魔神に本の継承者。中々の強さだが、この程度か?」
 「まだこれからよ。あたし達もいるしね」
 「そうだー!」
 『よせ、この女……『英雄』クラスの強さだ。子供たちを連れてこの場を離れた方がいい』

 ギルディーラが睨むようにヴィネを視界から外さずそう言い放つ。俺はともかく、確かに爺さんとギルディーラ、そして父さんを相手に軽くあしらえるのはそのレベルの相手しかいない。
 だけど『英雄』ならギルディーラはそれに相当する力がある。タイマンなら負けはしないと思うのだが――

 「そうだな、君たちの強さはせいぜい90後半といったところだろう。魔神は150といったところか?」
 『……はかったことは無いがな』
 「ワシはそのくらいだろうな。では貴様はどのくらいだというのだ?」

 爺さんが剣を突きつけながら告げると、ヴィネは指を三本立てる。

 「……?」
 「私のランクは少なく見積もっても300。まあ、この装備品も強力だからこれだけで100はあるだろう。毒や麻痺などの状態変化に強く、魔法無効化が付与されている」
 「300……!? そんなでたらめな数値があるか!? 英雄ラヴィーネ=アレルタですら97だったらしいじゃないか!」
 「ふむ、時代は移り変わるものだ。そこの将軍はもう少しすればその領域には行くだろう。そして彼女が97というのは、姿を消す前の情報だ。アテにならんよ」
 「なんだと……? なぜそんなことがお前にわかる?」

 俺が訝し気に反応するとヴィネはくっくと肩を揺らしながら、続ける。

 「何故、か。それはそうだろう。なにしろ私の本当の名前はラヴィーネ=アレルタ。本人がそういうのだから間違いあるまい?」
 「「「な……!?」」」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~

平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。 三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。 そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。 アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。 襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。 果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。

婚約破棄されたので暗殺される前に国を出ます。

なつめ猫
ファンタジー
公爵家令嬢のアリーシャは、我儘で傲慢な妹のアンネに婚約者であるカイル王太子を寝取られ学院卒業パーティの席で婚約破棄されてしまう。 そして失意の内に王都を去ったアリーシャは行方不明になってしまう。 そんなアリーシャをラッセル王国は、総力を挙げて捜索するが何の成果も得られずに頓挫してしまうのであった。 彼女――、アリーシャには王国の重鎮しか知らない才能があった。 それは、世界でも稀な大魔導士と、世界で唯一の聖女としての力が備わっていた事であった。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

前世は悪神でしたので今世は商人として慎ましく生きたいと思います

八神 凪
ファンタジー
 平凡な商人の息子として生まれたレオスは、無限収納できるカバンを持つという理由で、悪逆非道な大魔王を倒すべく旅をしている勇者パーティに半ば拉致されるように同行させられてしまう。  いよいよ大魔王との決戦。しかし大魔王の力は脅威で、勇者も苦戦しあわや全滅かというその時、レオスは前世が悪神であったことを思い出す――  そしてめでたく大魔王を倒したものの「商人が大魔王を倒したというのはちょっと……」という理由で、功績を与えられず、お金と骨董品をいくつか貰うことで決着する。だが、そのお金は勇者装備を押し付けられ巻き上げられる始末に……  「はあ……とりあえず家に帰ろう……この力がバレたらどうなるか分からないし、なるべく目立たず、ひっそりしないとね……」  悪神の力を取り戻した彼は無事、実家へ帰ることができるのか?  八神 凪、作家人生二周年記念作、始動!  ※表紙絵は「茜328」様からいただいたファンアートを使用させていただきました! 素敵なイラストをありがとうございます!

処理中です...