上 下
229 / 258
黒い剣士、再び

222.決戦の前に

しおりを挟む
 
 リグレットの真実を知り、妹だった紬が文字通り脳内妹になったことに衝撃を受けたものの、全ての決着がついたらその後どうするか考えないといけないかもしれないが。

 これで今度こそライクベルン奪還へ向けて動くことができるようになるが、その前に『ブック・オブ・アカシック』を開いておくことにした。

 「……結局、お前の目的はなんなんだ? 紬がここに居ることをどうして教えてくれなかった?」

 ‟……もちろん、聞かれなかったからだ。この本の目的は『持ち主の知りたいことを教えること』だ。だからここまで来れたのだろう。同時に『持ち主の願いを叶える』という部分もあるがな”

 「俺が誰かを死なせたくない、とか?」

 ‟全てをひっくるめてだ。今回でいえば黒い剣士を倒すこととライクベルンの奪還だろう。そのために必要な知識はいくらでも提供する”

 「ならどうして黒い剣士の情報を俺に教えてくれなかった? 聞いたことがあったはずだぞ」

 ‟持ち主をみすみす死なせる真似をするわけにはいかないのだ。この本の力の源は持ち主の魔力。次に誰が手に入れるかはランダムでいつになるかも分からない。だからこそ即死に繋がることは言及しない”

 「都合がいい、というわけか。なら今回は『勝てる』んだな」
 <そうじゃないと今の言葉がおかしいもんね>
 
 ‟必ず勝てる。自信を持っていい。予測よりも人数が多いのだ、ただ犠牲は出るかもしれない。覚悟を持て”

 「そうなるまえに始末をつけるさ。……オーフ以外は誰が増えたんだ?」

 ‟ゼルガイド達だ。ただ、黒い剣士本人以外で後れを取ることはないだろうから心配はあるまい”

 楽観的だとは思うが、ここまで自信をもって書き込みが出るのも珍しいから本気で予言しているのだろう。
 他になにかすることはあるか聞いたところ、見張りに見つかった場合のみ、ロレーナとディカルト、それとオーフは中庭で火薬を炸裂させて目を引く係にした方がいいとのこと。

 「見つからなければ全員で黒い剣士との戦いか……とりあえずやるしかないな」

 ‟健闘を祈る”

 それを最後にまた沈黙を守る本。
 勝てると断言してもらうことは心強い。たとえ嘘だったとしても、やる気になれるからな。

 「それじゃ、明日は作戦会議を経て出発かな」

 ◆ ◇ ◆

 ――翌日――

 「ではワシとディカルトが先頭に立ち、謁見の間を目指すということで良いですな?」
 「はい。書いてもらいましたが、やはり内部に詳しい方がいいと思います」
 「これでいいー?」
 「上手いなルーク……!?」

 お絵描きの才能があったらしいルークが爺さんの書いた城内部の地図を模写していた。
 一人一枚持っていれば、乱戦ではぐれたとしてもどこかで合流できるし、倉庫の位置が分かれば身を隠すこともできるという算段だが、ルークの図は誰よりも上手かったので採用した。

 「偉い?」
 「おう、自慢の弟だぞ!」
 「やったー!!」
 「ルーナもなでてー!」
 「お前はなんもしてないだろ……」

 その瞬間、俺の背中に飛びついてくるルーナとルークを抱きしめる影が。

 「あああああ! 超かわいいいいいいいい! お姉ちゃんがいくらでも撫でて上げるからね!!」
 「わーい!」
 「いいよー!」

 ロレーナである。
 最初に見た時からかわいいとべたぼれで、ことあるごとに両腕に納めていた。
 よくわからんけど、双子もロレーナは嫌じゃないようで懐いているからちょうどいい。

 『しかし大人しく謁見の間に居ると思うか?』
 「いる、と思う。こっちに将軍をメッセンジャーとして寄越してきたけど殺すことはできたはず。情報が漏れても問題ないと思っているヤツだ、自信があるんだろう」
 「その驕りを後悔させてやらねえとな! 腕がなるぜ」
 『お前も油断するなよ? 取り巻きも将軍クラスらしいからな』
 「ギルディーラの旦那が居りゃ、楽できるだろ? いてえ!?」
 
 無言でチョップを食らい悶絶するディカルト。
 この光景も慣れたなと思いつつ、苦笑していると母さんが俺の肩に手を置いて言う。

 「……いよいよ仇が取れるね。あたし達も全力を尽くすから、死ぬんじゃないよアル」
 「うん。まさかここに来て母さん達と一緒に戦うことになるとは思わなかったけどね」
 「これも神の導きかもな? そういえば国境はどうやって越えるんです?」
 
 父さんが爺さんへ尋ねると、ルークを抱っこしながら口を開く。

 「……無論、正面からだ。あなた方が来てくれたおかげで、少しやりやすくなったわい」
 「?」

 爺さんが珍しくニヤリと笑い『すぐにわかる』と言って攻める準備を進めるよう指示。装備は入念にし、短期決戦ということで水以外の食料は最小限にとどめることに。

 「やれやれ、お前といると退屈しねえな」
 「オーフも付き合いいいよね」
 「ま、金も貰えるしライクベルンが取られたままじゃ、ジャンクリィ王国も面倒に巻き込まれるからな」
 「オーフ達ってどうしてジャンクリィ王国にそこまで従事しているんだ?」
 「……あー、まあ、そのあたりはこの戦いが終わったら教えてやるよ。だから死ぬなよ?」
 「それはフラグだからやめてくれオーフ。こんなことに付き合わせたくはなかったんだけどな」

 『ブック・オブ・アカシック』の予言を信じるなら必要な人材だ。
 俺の寿命が縮んだとしても、オーフとロレーナは無事に帰さないと……

 そして俺達はライクベルンへと向かう――
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~

平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。 三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。 そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。 アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。 襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。 果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。

婚約破棄されたので暗殺される前に国を出ます。

なつめ猫
ファンタジー
公爵家令嬢のアリーシャは、我儘で傲慢な妹のアンネに婚約者であるカイル王太子を寝取られ学院卒業パーティの席で婚約破棄されてしまう。 そして失意の内に王都を去ったアリーシャは行方不明になってしまう。 そんなアリーシャをラッセル王国は、総力を挙げて捜索するが何の成果も得られずに頓挫してしまうのであった。 彼女――、アリーシャには王国の重鎮しか知らない才能があった。 それは、世界でも稀な大魔導士と、世界で唯一の聖女としての力が備わっていた事であった。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

前世は悪神でしたので今世は商人として慎ましく生きたいと思います

八神 凪
ファンタジー
 平凡な商人の息子として生まれたレオスは、無限収納できるカバンを持つという理由で、悪逆非道な大魔王を倒すべく旅をしている勇者パーティに半ば拉致されるように同行させられてしまう。  いよいよ大魔王との決戦。しかし大魔王の力は脅威で、勇者も苦戦しあわや全滅かというその時、レオスは前世が悪神であったことを思い出す――  そしてめでたく大魔王を倒したものの「商人が大魔王を倒したというのはちょっと……」という理由で、功績を与えられず、お金と骨董品をいくつか貰うことで決着する。だが、そのお金は勇者装備を押し付けられ巻き上げられる始末に……  「はあ……とりあえず家に帰ろう……この力がバレたらどうなるか分からないし、なるべく目立たず、ひっそりしないとね……」  悪神の力を取り戻した彼は無事、実家へ帰ることができるのか?  八神 凪、作家人生二周年記念作、始動!  ※表紙絵は「茜328」様からいただいたファンアートを使用させていただきました! 素敵なイラストをありがとうございます!

処理中です...