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黒い剣士、再び

218.再び荒野へ

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 ‟親愛なるアルフェンへ。
 元気かい? あたし達は珍しく休暇を取ってライクベルンへ遊びに行くことにしたよ。返事が来るのを待っていたら時間がかかるし、この手紙がつくころには船で揺られていると思う。
 一家で行くからよろしくね。お義父さんたちも会いたがっていたけど今回は見送らせてもらったよ。おじいさん達にも会いたいから頼んだよ? カーネリアより”

 「手紙を出してすぐに出発したのかしら? 豪快ねえ」
 「俺が爺ちゃんに手紙を出した時、いつまで経っても返ってこなかったことがあった。……俺が死んでいないかどうかの確認も兼ねているんじゃないかな」
 「アルフェンを助けてくれたご婦人か、挨拶をせねばな」
 「……こっちはいいのか?」

 ‟アルにいちゃんアルにいちゃん! あのね、ルーナもルークもお勉強頑張ってるんだよ! 魔法も覚えたから見せるね! アルにいちゃんアルにいちゃんアルにいちゃんアルにいちゃんアルにいちゃんアルにいちゃん!!”

 「怖いな!? ルーナの手紙だな多分……」
 「あ、妹ちゃん? 物凄く懐かれていたって言ってたよね」
 「今は八歳だっけか? まだ熱が冷めていないんだな……」
 「呪いじゃねえかこれ?」

 ディカルトがルーナからの手紙を見て眉を顰めていたが、あの子なら有り得なくはない。逆にルークは、

 ‟アル兄ちゃんに会うのが楽しみです! ラッド王子も会いたがっていました! 僕も強くなったので見て欲しいな。お姫様がいつも僕にちゅーをしてくるのはなんでか教えて欲しいかも! パパとママは教えてくれないから”

 教えられるか!
 ライラはなにやってんだ……いや、止めろよラッド……。

 ルークは同性というのもあって落ち着いた感じの手紙だったが、ロクでもない感じになっているようで不安だ。母さん的にはお姫様と結婚いいじゃないとか言っていそうなのでアテにならない。父さんも騎士団長なので陛下には逆らえまい。
 
 ま、まあ、個々人の現状は後で聞くとして今は緊迫した状況なので行動を開始すべきだと準備を始める俺達。

 「フォーリアの町が手薄になるが大丈夫か?」
 「スチュアートが連れて来た騎士も居るから大丈夫だと思う。怖いのは黒い剣士が直接こっちに来て俺達とすれ違った場合かな……?」
 「私も戦えますしご心配には及びません! 皆さんこそ気を付けてください!」
 「アル様が残ってくれると安心なんですけどね」

 メリーナが苦笑するがむしろメインは俺なのでそれはできない。
 リンカを置いて行くのは少しだけ不安だが、信じて旅立つしかないのだ。

 「うぉふ!」
 「リンカを守ってくれよクリーガーも」
 「わんわん! ……あぉぉぉぉん!!」
 「わ!? 珍しく遠吠え?」

 クリーガーが裏山に向かって吠えると、山から似たような声が聞こえてきた。
 ……まさか、あいつら……心配でついてきたんじゃないだろうな……
 物分かりのいいウルフ達を思い出し眉を顰める俺。
 まあ、味方ならいいけど。

 メンバーは俺、爺さん、ディカルト、ギルディーラの四人でスチュアートは残ってもらうことにした。槍使いでランク80ある彼には町を守ってもらいたい。

 「残念です……アルベール様と肩を並べて王都の賊を倒したかったのですが」
 「そいつはオレがやるから安心しなって隊長! 自警団の仕事を頼みますぜ! いてえ!?」
 「調子に乗るなディカルト。早死にするぞ? まあお前は見込みがある、死ぬなよ」

 「あなた、アルフェンを頼みますよ」
 「無論だ。この命に代えてもヤツは討つ」
 「ダメです。あなたも無事に帰ってきてください。リンカと待っていますから」
 「む……。承知した」

 出立前の挨拶をそれぞれが行う中、俺もリンカと話すことにした。

 「それじゃ行ってくるよ」
 「うん。気を付けてね? また先に死んだりしないでよ?」
 「そうだな。今の俺には死ぬわけにはいかない理由もできたし……生き延びるために力を使うよ」
 「じゃあ、おまじない。ん……」
 「お、おい……」
 「いいねえアル様!」

 リンカが俺の頬にキスをし、顔が赤くなるのが分かる。
 茶化したディカルトの尻を叩いてから……俺達は出発した。

 「いいのか?」
 「ブルベエェェ!」
 「ペロ、アルフェンをよろしくね」

 俺だけラクダにまたがり歩き出す。
 三頭全員にリンカが名前をつけ、こいつの名前はペロという。残り二頭とクリーガーにも見送られながら町中を歩き、やがて外へ。

 「いってきまーす!」

 町の門からリンカと婆さんを含む町の人間全員に手を振られていた。
 必ず倒す……俺は前を向いて再びサンディラス国を目指す――

 ◆ ◇ ◆

 「まだかなー! ママ、どれくらいで着くのー?」
 「もうすぐ港町だね。手紙はもう届いているだろうから驚いていると思うよ」
 「半年くらい前に手紙をもらっているから流石に生きているだろ。あいつが死ぬとは考えにくい」
 「うん! 僕とルーナをかっこよく助けてくれた兄ちゃんだもん!」
 「エリベール様からの土産も持ってきたし、喜ぶぞきっと!」

 フォーゲンバーグ一家はそんな会話をしながら船に揺られていた。
 まさか、アルフェンが仇敵と対峙することなど知る由もなく。
 






 (一家が総出で来るだと……? 馬鹿な……そんなことは無かったはずだ……。黒い剣士の打倒はそこまで変わってしまったのか? 急がねば――)
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