215 / 258
サンディラス国の戦い
208.進展
しおりを挟むギルディーラが立ち去ってから数分。
今度こそ誰の気配もないことを悟り、俺は『ブック・オブ・アカシック』を開いてページをめくる。
「サンディラス国……いや、水神騒動が終わったがこれで良かったのか?」
誰にともなく呟くと、白紙だったページに文字が浮かび上がってくる。俺がここへ来ることに対して渋っている節があったものの応えてくれるらしい。
‟……終わったか。
水神は消えて一件落着か? 『魔神』が居たのだ、それくらいは余裕だろう。見ているだけで終わったのではないか?”
やけに楽勝だっただろうという感じで尋ねてくるのに違和感を覚える。
ここへ来てからどういう経路を辿って今に至るのかを説明してやった。
‟……そんなことがあったとはな。『魔神』は健在しているということか”
「やけにギルディーラを気にするなあ。水神とやりあっても負ける要素はないよ。で、今後は黒い剣士を倒すためウチの屋敷に常駐してくれることになった」
‟そうか。……まあ、問題はないだろう。黒い剣士を倒すなら『英雄』が居るのは好都合。良い味方を手に入れたならサンディラス国へ来て正解だったということか”
「そう思うよ。なんで行かせたくなかったのか分からないくらいだ。で、これからどうするべきかなにか予言はあるか?」
予想外、という言い方だな……。俺がここへ来ることにあまり色よい返事をしていなかったからそもそも『この結末は有り得ない』と言っているような――
‟今のところ脅威は無い。……いや!? 来るぞ、奴が”
「来る? ……まさか……!?」
‟そのまさかだ。黒い剣士が動いていると天啓が来た、いよいよお前の悲願が果たされることになるかもしれんな。ばらまいた情報が伝わったようだな”
マジか……。
しかし文字の浮かび上がり方から嘘では無さそうだ。しかし天啓とはどういうことだ? この本自身に意思があるのはこれまでの経緯から分かっているけど、こいつもどこかからか受信している?
「いつごろ来るかは?」
‟そこまでは……不明だ。幸い味方も多い。ライクベルンに集めておけば勝機はあるだろう。そこまで苦労するとは思えん”
「それは無いだろ、あいつは味方も居たし戦闘力は――」
‟あの場では戦いの経験が浅い者しかいなかったからだな。アルベールが居ればまかた変わっていたはずだ。そしてお前自身も強くなっていて『英雄』であるギルディーラがついているなら勝てないはずは無いだろう”
「……そうか、そうだな」
‟いよいよ悲願が果たされる……”
「あ、おい、待てよ他にはなにかないか? 俺のスキルについてとか」
‟……血を吐いた件か。魔力を調整すれば身体に負担がかからないはずだ。まさかここで使うとは思わなかったが”
「どういうことだ? 俺が他で使う予定でもあったとでも言いたいのか?」
‟……リンカを戦わせなくて済むな、しっかり守るのだぞ”
「おいって! ……くそ、だんまりかよ」
都合が悪くなるとこうなるのは仕様なのか? 後、リンカを気にしすぎだろ……。
それからはさっぱり返事が無く、俺は仕方なく本を閉じてから空を仰ぎ、考える。
黒い剣士がライクベルンへ来る、か。
確かに『ブック・オブ・アカシック』の言う通り戦力は以前に比べて多く強力だ。戻れば爺さんの元部下もいるからな。
「さて、そういうことなら相応の準備をするか……向こうから来るとは好都合だしな。リグレット」
さりげない感じで声をかけてみたが返事は無かった。こいつもよく分からない存在だが……声をかけて出ないのであれば俺ができることはない。
「……戻るか」
明日は出立だし、さっさと寝てしまうのがいいか。長丁場にならなくて良かったと城を見あげながらそんなことを思うのだった――
◆ ◇ ◆
「……水神騒動に関わったことでまた変わってしまったか。エリベールが生き残っただけでここまで変わるとは思わなかったな」
暗闇の中、ベッドの横に備え付けられた簡単な椅子に腰かけてそんなことを呟く男。
「そして『魔神』ギルディーラがライクベルンへ行く、と。黒い剣士を殺すにはちょうどいいが、後で牙を剝かなければいいが。
それでも最終的に笑うのが俺であればなんでもいい――」
そういって男はベッドに寝そべる、人物の手を取って握りしめる。
骨と皮になってしまったその手を――
1
お気に入りに追加
198
あなたにおすすめの小説
復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜
サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」
孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。
淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。
だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。
1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。
スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。
それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。
それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。
増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。
一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。
冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。
これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。
「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~
平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。
三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。
そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。
アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。
襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。
果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。
婚約破棄されたので暗殺される前に国を出ます。
なつめ猫
ファンタジー
公爵家令嬢のアリーシャは、我儘で傲慢な妹のアンネに婚約者であるカイル王太子を寝取られ学院卒業パーティの席で婚約破棄されてしまう。
そして失意の内に王都を去ったアリーシャは行方不明になってしまう。
そんなアリーシャをラッセル王国は、総力を挙げて捜索するが何の成果も得られずに頓挫してしまうのであった。
彼女――、アリーシャには王国の重鎮しか知らない才能があった。
それは、世界でも稀な大魔導士と、世界で唯一の聖女としての力が備わっていた事であった。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。
前世は悪神でしたので今世は商人として慎ましく生きたいと思います
八神 凪
ファンタジー
平凡な商人の息子として生まれたレオスは、無限収納できるカバンを持つという理由で、悪逆非道な大魔王を倒すべく旅をしている勇者パーティに半ば拉致されるように同行させられてしまう。
いよいよ大魔王との決戦。しかし大魔王の力は脅威で、勇者も苦戦しあわや全滅かというその時、レオスは前世が悪神であったことを思い出す――
そしてめでたく大魔王を倒したものの「商人が大魔王を倒したというのはちょっと……」という理由で、功績を与えられず、お金と骨董品をいくつか貰うことで決着する。だが、そのお金は勇者装備を押し付けられ巻き上げられる始末に……
「はあ……とりあえず家に帰ろう……この力がバレたらどうなるか分からないし、なるべく目立たず、ひっそりしないとね……」
悪神の力を取り戻した彼は無事、実家へ帰ることができるのか?
八神 凪、作家人生二周年記念作、始動!
※表紙絵は「茜328」様からいただいたファンアートを使用させていただきました! 素敵なイラストをありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる