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ライクベルン王国

178.懐かしいやり取り

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 「お前は……怜香、なのか? 久遠財閥の総帥、久遠怜香……」
 「……!! ええ、そうよ! やっぱりあなたは和人なのね!」

 その瞬間、リンカが俺を押し倒す勢いで抱き着いてきて受け止める。
 
 久遠 怜香……久遠財閥の総帥で資本金13億はあった大企業で、俺の親友と話し相手だった女性。
 大学からの友人で、俺の事件があってからも支えてくれていたのだが彼女も26か27の時に両親が事故死という不幸に見舞われ、お互いがお互いを支えるようになったんだ。

 元々専務だった叔父さん(凄くいい人)が社長になり、怜香が副社長となって業務を回し、会社は傾くことなく事なきを得た。
 そのころの俺はもうどっぷり裏の世界に居たから怜香とはあまり会うことは無かった。……表立っては。

 彼女は自社に入った後、忙しいのにも関わらず個人的に家族の復讐相手である轟の動向を探ってくれ情報をくれていたのだ。
 もちろん男女の関係が無かった訳じゃないが、寂しさを埋めるみたいな感じだったよ。特に、俺に先が無いのは分かっていたしな。

 そしてあのXデーで最後の顔合わせって訳。
 時系列が分からないからなんとも言えないが、俺と同じ歳なら俺が死んですぐイルネースのところに行ったことに……いや、そういやあいつ気になることを――

 「お前、病気だったんだな……」
 「……ああ、癌でお前が逝った後、二年後に私も死んだよ」
 「はは、今となってはその喋り方も懐かしいな」
 「ふふ、他の社員に舐められないように虚勢を張っていたもん。……こっちじゃクソみたいな叔父相手にこうせざるを得なかったけど!」

 そう言って頬を膨らますリンカは前世の顔の面影は無いのにそう見えてくるから不思議だ。仕草や言動に既視感があったのはこのせいかと納得する。

 会社は良い叔父さんに任せておけば問題ないだろうとのことで、未練はないらしい。
 んで、やっぱりイルネースのところへ呼び出されてこの世界に生まれ、8年は幸せだったけど、両親が死んでから酷いことになった際、精神に限界が来て自己防衛が働いたのか前の記憶を取り戻したそうだ。

 「パン屋さんでバイトしていた時は向こうの発酵技術とかクッキーを作ったりして色々頑張ってたんだけど、叔父が私を売り飛ばそうとしたから逃げてきたのよね」
 「ああ、そりゃ面倒くさいよな……両親が死んだのも叔父のせいだったりしないか?」
 「……あり得るとは思ってる。ワイゲルさんに引き取られてから記憶が覚醒したから調べようもなかったけど」

 12歳ならまあ身動きは取りにくいよなと頭を撫でると顔を赤くして離れた。

 「むう、いざ和人だと分かると恥ずかしい……」
 「そう言われてもなあ。ま、偶然というか奇跡というか……よろしくなリンカ」
 「! ……うん、よろしく! それにしても和人……ううんアルフェンがまた復讐をするような状況ってのが驚いたわ」
 「だな。何の因果なんだか……だけど必ず見つけ出すつもりだ」
 「無理しないでね? 今回は私、フォローできないし……」

 前の時だと『確実に殺せる』状況を作るのに相当尽力してもらったのでその言葉は非常に重い。
 だけど今回は俺自身の性能が高いし、環境は恵まれているのでいずれ、と思う。

 「そういえば……」
 「ん?」
 「もう婚約してるのよね。私が先に出会ってたらお婆ちゃんを喜ばせることができたのに……」
 「あー……ていうかなんて言われたんだよ」
 「えっと、もし復讐を終えたとしてもアルフェンはシェリシンダ王国に戻っちゃうでしょ? とても誇らしいけど、また遠くへ行ったら寂しいわって」

 ああああ!?
 確かにそうだ……ただでさえ娘が亡くなっているのに孫も遠い国に行くのはそりゃ寂しいだろう。自分のことばっかりでその辺は全然考えてなかったなと肩を落とす。
 
 「ぐう……」
 「ぐうの音が出たわね……だから私はあんたと子供を作ってお婆ちゃんが亡くなるまで一緒に居ようかって思ったのよ。だけどエリベール様、でいいよね? に聞かないといけないから先になりそう」
 「お前はいいのか、婆ちゃんのために犠牲になることはないんだぞ?」
 「馬鹿ね、あんたのこと好きなんだから、相手が居なかったら立候補してたって」

 一応、エリベールからはもし他に女が出来たら連れてこいって言ってたからそれは多分問題ない。が、やっぱり顔合わせをしておかないといきなりにゃんにゃんはできない……

 「ごくり」
 「なに、そのごくりと視線!? ご主人様は婚約者がいるのにエッチよクリーガー」
 「きゅうん……?」
 「寝ているクリーガーを起こすなって冗談だよ。今は」
 「今は……。まあ、焚き付けた私も悪いからいいけど」

 クリーガーを抱き上げて口を尖らせるリンカに苦笑しながら答えるが、そこは真剣に考えないといけないかもしれない。

 「うーん、エリベールに会いたいけど帰るのも遠いしな」
 「船が必要だもんね」
 「最悪、南西にある砂漠を越えたら橋がかかっているんだけど、蛮族が居て橋も壊されているんだよな」
 「お手上げ、か。とりあえず黒い剣士を目標にするしかないわね」
 「だな、それじゃそろそろ――」

 俺は頷きそろそろ寝ようかと口にしようとしたところで『ブック・オブ・アカシック』が光り出した。

 「なんだ……?」
 「それ、例の本?」
 「ああ、だけどこんなに光ることは無かったはずだけど……」

 俺が本を膝に乗せてページをめくると白紙だった部分にスラスラと文字が浮かんでくる。

 ‟リンカ=ブライネルと邂逅したなら次のステップへ進める。
 ズレが生じている可能性もあるが、三日は屋敷の整備をした後に領主に会え。
 町の防衛についてはアルベールの元部下であるスチュアートを呼ぶよう進言しておけばなんとかなる。
 イーデルンの動向だけ注意しろ、そこから繋がる”

 いつもより、饒舌に、詳しく『予測』を立てた文字が。
 
 「……お前はもしかして黒い剣士の正体を知っているんじゃないか? 回りくどいことをしないで教えてくれないか」

 ‟……その必要はない。
 だが、リンカが手に入ったことで必ずそれは果たせる。今は準備をしろ
 装備品の見直しなどやってみるといいだろう”

 「……」
 「怪しいわね……知っているけど教えないって感じかしら? かなり強いなら確かに準備は必要だし」

 リンカはそう言うが、こっちには爺さんが居るから簡単には負けないと思う。
 こいつは俺のしたいことをフォローしてくれるが、噂と違い『完全に教えて』はくれない。
 それがどうしてなのかは聞いても答えてはくれまい。

 まあ、いい。
 今は流されておいてやるとしよう……黒い剣士を倒したその後は処分するのも検討するかな?
 
 今日は怜香……リンカと懐かしい話ができたことで許してやろうと口元に笑みを浮かべながら寝るのだった。
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