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ライクベルン王国

174.リンカ

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 屋敷に戻ってから話はとんとん拍子に進み、婆さんやメイド、使用人にイオネア領へ移り住むことを決めたことを告げると驚いていた。
 しかし俺の希望だと告げると、生家がいいですよねと涙ながらに答えが返って来て現在、着々と準備が進んでいるところである。

 ロレーナは復路の手紙をもらうということで城に残っているからここには居ない。

 「婆ちゃんの服多いねやっぱり」
 「若いころは顔を出すことも多かったからねえ。でも、これなんかはマルチナのだね」
 「随分小さいのもありますね」
 「マルチナが小さい頃のドレスだね。女の子の孫ができたら着せようかと思ったんだけど、アルフェンを産んで亡くなったから……。思い出の品として残してあるのよ」

 俺とリンカが手伝いをしている時にクローゼットの片づけをしていると、母さんの服がいくつか出てきて子供のことを話しだす。

 「そうだ、リンカちゃんは子供の頃のマルチナと同じくらいの背格好だし、着れるんじゃないかしら?」
 「そ、そんな!? 思い出の品ですよ、私みたいな者に着せるなんて……」
 「いいのよ、服は着てこそ映えるのだから」
 「ちょっとここはお願いね」
 「いいよー」

 楽しそうに婆さんはリンカを連れて衣裳部屋を出て行き、残された俺は服を箱に入れていく。

 <なんだか嬉しそうですね>
 「母さんが死んで、女の子が居なくなったから寂しかったんだと思う。リンカの境遇を考えると、お互い様って感じだから構いたくなるんだろ」
 <それはありそうですね。そういえばクリーガーはどこいったんです?>
 「あいつは庭に放しているよ。馬も連れて行くし、牧羊犬みたいな感じだな」

 窓の外を見ると、庭師のアンディと一緒にきゅんきゅんはしゃいでいるクリーガーが見えて俺は苦笑する。

 「さて、続けるぞ」
 <ファイトですよー>

 それから二十分くらい経った頃、二人が部屋へ帰ってくる。
 
 <おお!>
 「お……」
 「どう、アルフェン? とても可愛らしいと思わない?」
 「ふぐ……」

 顔を赤くしたリンカが少し俯いて両手を前に組んでいた。少し涙ぐんでいる?
 長い黒髪を首のあたりから二つに分け、薄いブルーのドレスはとても良く似合っていた。

 「凄く似合うよ! 貴族のお嬢様だったのもあるだろうけど、元が可愛いからだろうな」
 「うんうん、アルは分かってるわね。久しぶりにコーディネートを考えるのは楽しかったわ。ウチの子にしたいくらい。ふふ、マルチナの代わりみたいで嫌かしらね」
 「ぞんなごどないでずうううう……! わだじアルフェンとけっこんじてここの子になりまずううう!」
 「いきなりなに言ってるんだ!? ……!?」

 (だったら、わだじを頼れ! これでも企業の社じょうだ……おまえにはわだじがいるじゃないか)
 (そんな泣くなよ……)
 (おまえの……がわりだ……)

 今のは――

 「はいはい、嬉しいわリンカちゃん。少しお茶にしましょうか」
 「あい……」

 昔のこと婆ちゃんは苦笑しながらリンカ抱きしめた後、彼女の肩に手を置いてまた出て行く。
 休憩なら大歓迎だと手に持っていた服を片付けて追いかけた。
 
 気を張っていたのが解けたのか、それとも……?
 短い付き合いだが強くあろうとするリンカがあそこまで感情を出すのは珍しいんじゃないだろうか?
 つか結婚って……なんの話をしていたのか気になるな……。

 あいつもあまりいい境遇とは言えないし、あの取り乱し方は大人になっても泣き虫だった怜香みたいだったなと、なんとなく思い出した。


 ◆ ◇ ◆

 で、五日ほど経ったころ――

 「そんじゃ、わたしは一旦ジャンクリィ王国へ帰るわね!」
 「ああ、ここまでありがとう。オーフによろしく伝えておいてくれ」
 「多分、国境は抜けてるんじゃないかしらね? また落ち着いたらイオネア領の……」
 「フォーリアの町だ。ここから馬車なら3日くらいのところだったかな? 俺もよく覚えてないけど」
 「少し東寄りの場所にあるが、街道の看板を見ればすぐわかるだろう」
 「あ、はい!」

 爺さんが俺の隣に立ってロレーナに告げると、彼女は笑顔で頷き、すぐにリンカの方へ目を向ける。

 「あれれー? ずいぶん可愛い恰好になったわねえリンカちゃん~♪」
 「あ、あんまり見ないでください……ドレスなんてお父さん達が生きていたころしか着たこと無いし……」
 「可愛いー! ねえ、抱っこしていい? 頬ずりしてもいい……!?」
 「あ、やめてください!!」
 「ふぐ……!? いい、パンチ、ね……」

 腰の入った拳がえぐるようにロレーナのお腹に入り、膝からいった。
 実はリンカも剣ランク25はあるので、女の子にしてはまあまあ強い。
 ゴブリンロードとかは無理だけど、一般人クラスなら相手にはならないかな?

 「はっはっは! アルフェンとリンカはワシが鍛えるから、次会う時はもっと強いぞ」
 「ですねえ……ま、わたしは直接戦闘よりも搦め手で攻めるタイプなので! そろそろ行くんでしょ? アルフェンは北、わたしは南ってね」
 「ああ。それじゃ、今度こそ元気で」
 「……また、すぐに会うわよきっと」
 「え?」

 ロレーナは全員と握手をしたあと、南門へと走っていく。
 時折、俺達に振り返って手を上げていたが、やがて見えなくなった。

 「では我々も行くか」
 「だね」
 
 「旦那様とアルフェン様はお強いので護衛などいらないのでは?」
 「引っ越しだから荷物と馬車も多いしな。人数は確保しておきたいのさ」

 箪笥みたいなでかいのは置いて行くとしても食器や服、蔵書なんかはかなりあって、馬車はずらりと五台になった。
 これでもまだ屋敷には荷物があるのだが、国王に屋敷は引き払わなくていいと言われて半分くらいは残してきた。

 いつ帰って来てもいいように……とのことらしく、爺さんはかなり信頼されているようだ。
 前の国王から仕えていて、戦いになれば一騎当千だったみたいだし、裏切りも絶対に無いからなあ。

 「お気をつけて!」
 「ああ、みな元気でな」

 それは門に集まった騎士や兵士を見れば分かる。
 引っ越しのためにかなりの人間が集まってくれたからだ。

 ……もちろん、イーデルンの姿はそこにはない。

 ま、王都から出れば手は出しにくくなるだろうし、俺達に恨みがあるなら向こうからくるだろう。

 「さて、しばらくゆっくりだな。クリーガー、リンカの服が汚れるからいくなよ?」
 「きゅん!」
 「ああ……抱っこしたいのに……」
 「ふふ、次の町で着替えましょうかね」
 「お婆様はどうしてそんなに汚れないのかしら……?」

 むむむ、といつもきれいな婆さんのドレスを見ながら唸るリンカに俺達は肩を竦めて笑っていた。

 そんな調子で俺達は一路、フォーリアの町を目指すのだった。
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