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ライクベルン王国

165.人を操る本

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 「町に戻る……のは危険か?」
 <いえ、人が多い場所の方があの人達も手を出しにくいかと。他国で暴れまわる道理はありませんし>
 「確かに。とりあえず町に避難するか」

 町に迷惑がかかるかと考えたがリグレットの言うように追ってきたとして、他国の町で暴れる頭の弱いやつが責任者だとは思いたくないが、大勢の人間が居る前で処刑宣言をするようなやつだし、油断はできない。

 「お、戻って来たのか? ライクベルンへは行けるようになってただろ?」
 「ちょっと忘れ物をね」

 折れた剣を見せると門番は『そんなんじゃ命がいくつあっても足りないぞ』と苦笑しながら通してくれる。

 「きゅーん」

 あの男の剣幕に委縮してしまったクリーガーの背中を撫でながら町の中へ入り、再び宿へ向かう……のはちょっと早いかとギルドへ足を運ぶことにした。
 ここのギルドには行ったことないけど、どこも似たようなもんだし馬車を止められる場所があるはずだからだ。

 まだ朝の喧騒の中を警戒しながらゆっくり進む。
 やがてギルドへ到着し、馬車を止める裏庭を使う許可をもらったので、さっそく荷台に寝転がって『ブック・オブ・アカシック』を開くことに。

 「なんか浮かんでくるかな……?」
 <予測しかできないですしねえ>

 俺はディカルトという男のことと反逆罪とされている理由を念じて本を開く。
 すると、これまでとは違いスラスラと記載が出てくる。

 ‟ついにここまで来たか。
 ライクベルンへ入るための障害はディカルトのみ。イーデルンがアルベールを失脚させて将軍に成り上がったが、アルベールやお前が目障りなため消そうとしていると思っていいだろう。
 ジャンクリィ王国にいる間は手を出せないから国境を抜ける方法考えるといいだろう。リンカが居ない今、ディカルトを殺すのが手っ取り早い。
 もしくは今からでも遅くない、リンカを連れてくるべきだ”

 黒幕がイーデルンということを聞いて
 「なんでここにあの子の名前が出てくるんだ? リンカが居ればなにか変わるってのか……?」
 <ちょっと執着っていっていいレベルですよこれ>

 ‟……彼女の機転で国境を抜けられるはずなのだ”

 「今回ばかりは流石に信じがたいぞ。わざわざ戻るならリンカよりも大人であるオーフとロレーナに打診をした方がいいだろう。そもそもリンカとはそれほど話していないし、連れて行く理由がない」

 ‟まあ、いい。恐らく因果は巡る。突破するならディカルトを殺せばいい。勢いはあるがゴブリンロードを倒した今のお前なら十分やれる”

 はぐらかしたな……。
 具体的な方法としてはヤツを殺せば、という情報のみというのも寒気がするな。
 ゴブリンロードを倒したことを知っているのは、まあいいとしてリンカに拘る理由はなんだ?
 彼女にも生活や家族が居るはずだし、ついてくる理由も現状は無い。
 それに今からスリアン国へ行くという選択も無い。

 「さて、どうするか……?」

 近場ならオーフに頼むのがいいかもしれない。
 それこそコウやセロのように樽にでも入って――

 「おい、誰かに頼んで輸送って手段は使えるか?」

 ‟それは――”


 ◆ ◇ ◆

 「チッ、ガキのくせに腕が立つ。流石はアルベール将軍の孫ってことか。いや、魔法を使っていたからそういうわけでもないか」
 「ディカルト殿、アルベール様へ伝達をせねばなりますまい。心配しておられたのは知っておりましょう。それに……私は彼が反逆罪として追われていることを知りませんでした。その説明もお聞かせ願えますかな?」

 イーデルンとは別に副隊長としてアルベールに仕えていた重槍使いのスチュアートが目を細めて説明を求める。

 彼はアルベール派として将軍についた際、国境警備へと回した。
 スチュアート以外にもアルベールと親和な者は目立たない部隊や辺境へと再編。
 イーデルンがやりやすい、ほぼ私兵のような形になっている。

 そんなイーデルン派のディカルトはスチュアートへ笑いながら返す。

 「お前達が知る必要はない。イーデルン様の直属である‟イーデルン親衛隊”しか真相は知らないからなあ?」
 「……アルフェン君は大洪水に巻き込まれて流された。他国から戻って来てもおかしくはない。行方不明だった子供に反逆罪とはどういうことかと聞いているのだ」
 「あ? やんのか? ガキは処刑、これは決まったことだ」
 「ならば陛下へ確認させてもらう。休みをもらおう。今すぐにだ……!」

 スチュアートがディカルトの目の前に立って睨みつけるが、涼しい顔で口元に笑みを浮かべて彼の胸板に指を置いて告げる。

 「そりゃ無理ってもんだ。俺とお前はここでガキを待つ。なに、伝令はちゃんと出すさ」
 「なんだと……?」
 「くく、これは命令だ、無視したらお前達家族も反逆とみなされるぜ? おい、お前はイーデルン様へこのことを報告だ」
 「ハッ!」

 スチュアートは『伝令もイーデルンの息がかかったものか』と苛立ちを見せていた。将軍となったイーベルンとは旧知の仲だが、まさかこんなことをするとは思っていなかった。

 (ヤツもアルベール将軍を慕っていたはずなのだがな……。まあ、いい。ディカルトより先にアルフェン君を見つければ――)


 ◆ ◇ ◆ 

 
 ――結局『ブック・オブ・アカシック』が役に立つ情報を他に出すことは無かった。

 予言ではやはりリンカを頼るべきと言う。
 むしろどうしてゴブリンロードを倒した時に連れて行かなかったのか、と再三浮き上がって来たが彼女も居る俺が違う女の子を連れて行く理由がないのだ。
 一番はエリベールに悪いというのもあるけど。

 「しかしぶっ殺すってのはまたマズイだろ……それこそ反逆者にされちまう」
 <ですよね。ライクベルンへ入るだけならそれでもいいですけど、その後がありますしおじい様とおばあ様になにかあっても嫌だし>
 「その通りだよ」

 ‟まずはどんな手を使ってでもライクベルンへ戻ることだ。黒い剣士は必ず現れる”

 「ふうむ……」
 「よう、難しい顔をしているなアルフェンよ」
 「クリーガーちゃん♪」
 「! きゅんきゅん!」
 「うわあ!? びっくりした! あれ? オーフにロレーナじゃないか!?」

 ‟なに……? オーフとロレーナがそこに居るのか? オーフはゴブリンロードに殺されたはずじゃ――”
 「なんだと? あ!」

 なんか不穏なことが書かれていた気がしたけどすぐに消えてしまった。
 殺された、ってどういうことだ?
 
 それよりも二人だと俺はオーフに話しかける――
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