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中央大陸の戦い

156.狡猾なる者と予測された者

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 コウ達ウォルフ族の後を追い、ゴブリン達のアジトへと向かった俺達。
 スリアン国の人間が増えた代わりに、負傷者を置いていくという状況なのでピリピリしている。
 
 「……近い」
 「承知した。みんな、準備はいいな?」
 「おう」
 「もちのろんよ♪」

 山の中腹にすり鉢状になった場所があり、上からそっとのぞくと――

 「ギャッギャッ!」
 「ギヒヒイヒ」
 「いやあ……」

 ――服を破られあられもない姿となった女性たちがはりつけにされていた。
 顔を舐めたり乳を揉んだりしている醜悪な面は、俺達を鼓舞するには十分である。

 「野郎……俺のお気に入りのソニアちゃんになにしやがる……」
 「オーフ、個人的な恨みはいいから!? で、どうするフェイバンさん?」
 「予断を許さない状況だ、やつらのアジトを一気に叩く。装備品が良い騎士が先行し、次いで兵士、冒険者の順で攻撃を仕掛ける」
 
 騎士団長のフェイバンが俺達に告げる。
 その際、すり鉢状になっている四方から攻撃を仕掛けて混乱を狙うとのこと。
 まずは近接が飛び込み、後から湧いて出た奴らを弓兵と魔法で追撃という形を取るらしい。

 「あんたたちは見ていてくれ、危なっかしいと感じたら手伝ってくれると助かる。逃げてもいい」
 「馬鹿を言うな。自分たちだけ逃げるなどできようはずもない、見くびるでないわ!」
 「承知した。……では10分後に決行だ」

 それぞれが取り囲むように位置につく。
 やつらも気づいているという想定で動くため、油断はない……はずだ。
 少なくともオーフ、ロレーナは――

 「ソニアちゃんソニアちゃん……」
 「くっくっく……金のなる木がウロウロしているわねえ」

 ――ダメそうだ。

 とりあえず俺は頑張ろうと思う。
 すると、先ほどの女の子が俺に声をかけてきた。

 「あなたも行くのか?」
 「え? ああ、もちろん。今回の仲間だからな、見捨てるわけにはいかないだろ」
 「そうか。私達はバックアップをする。気を付けてな」
 「うん、ありがとう」
 「きゅん!」
 「ふふ、可愛いな。お前も戦士なのか」

 なんでわざわざ俺に話しかけてきたのかは分からないが、心配してくれていることは嬉しいので礼を言っておく。
 すると、女の子はクリーガーを撫でたあと微かに微笑んでから離れていった。

 可愛い子ではあるが、今はそれどころじゃない戦闘員が持ち場についたのを確認したフェイバンは片手を振り下ろしながら声を上げた。

 「……かかれっ」

 雄叫びは無し。
 俺達は滑るように崖を降りると背中を見せている奴を優先的に狙う。
 焚火の灯りはあるが、こちらの正確な数は把握できず困惑するゴブリンは格好の的となり、あっという間に二十体ほどいたゴブリンが全滅する。

 「大丈夫か!」
 「え、ええ……」
 「ソニアちゃーん!!」

 「怖かったようロレーナ!」
 「よしよし、良かったわね」
 「……」

 ソニアちゃんとやらは抱きしめようとしたオーフをすり抜けてロレーナへ。
 うん、まあそんなもんだろう。
 固まったオーフは放置しておき、女性たちを解放することを早急に行う俺達。

 そんな中、フェイバンが一通り息の根を止めたのを見て追撃を号令する。
 
 「まだあの中にいる人質を救出するぞ! 続け!」
 「ほら、行くってよオーフ」
 「おう……」
 「ここでいいところ見せればいいじゃないか」
 「……! そうだな! いいこと言うなアルフェン君!」
 「やかましい、急ぐぞ!」

 オーフの尻を蹴飛ばして洞穴へと向かう。
 しかし、先に入った人間が血まみれになって外へはじき出されて来たことで場が戦慄する。

 「ぐあああ!?」
 「うぐ……」
 「!? 一体なにが――」
 「おい、フェイバン前だ! ……チッ!」

 オーフが叫びながらフェイバンの下へ走る。
 先ほどのふざけた空気は無く、洞穴から出て来た異形の存在の一撃を大剣で受けた。

 「ぐうう……!? こ、こいつは――」
 「ゴブリン、なのか……!?」
 「グハハハハハ!!」
 「うおおおおお!? 下がれ、みんなぁぁぁ!」

 洞穴からゆっくりと出てきたのは体長2メートル近くある巨大なゴブリンだった。
 他のゴブリンと違うのは身体の大きさだけでなく皮膚の色もそうで、通常のゴブリンがこげ茶に近い色をしているが、こいつは肌が緑と紫が混じったようななんともいえない色をしていた。

 そして、信じられない光景がもう一つ。

 「あ、ううう……」
 「ああああ……」
 「グヘヘヘ、人間はうめぇなあ……」
 「く、食ってんのか!?」

 片手に棍棒、もう片方にさらった人間を引きずりながらそんなことを言う。
 うめき声の方を見ると、腕や足をもがれた人が、居た。
 さらにこいつは言葉を操る……間違いなく元凶と言える存在だ……!
 流石に背筋が凍る。
 後方では女性が吐いている声も聞こえてくるが、それも無理はない。

 <か、かなりやばくないですかね>
 「ああ、背筋が凍ったぜ……」
 
 冷や汗をぬぐっている手が痺れたのか、手を振りながらオーフが目を細める。

 「……てめぇはキングか?」
 「ぐぎゃぎゃぎゃぎゃ! そんなチンケなもんじゃねえぜ俺はよう! ゴブリンロードってやつらしいぞ?」
 「……」
 
 顔を顰めるオーフ。
 こいつが冗談を交えないところを見ると相当やばい敵だということが分かる。
 
 「やばそうなやつってのは分かった。とりあえず、あの二人を助けないと」
 「し、しかし、あの様子だともう……」
 「俺に考えがある。少なくとも死んでいなければ手はある」
 「……むう……ここは撤退すべきだが……」
 
 フェイバンの判断も決して責められるものではない。勝ち目が薄いなら全滅するより遥かにマシ。
 だけど、慰み者ならまだしもまさか生きたまま食らうとは思っていなかった。
 
 「こいつをこのままにしとくと後がまずいんじゃないか? 誰か救援に回せばいいと思う」
 「……確かに。子供に諭されるとは、ゴブリンロードと知って臆していたようだ。すまない。
 聞け、ジャンクリィ王国の者達と冒険者よ! 我らはここでゴブリンロードを討伐する!」
 「ぎゃっぎゃ……できるかな? ピィィィィ!」
 
 フェイバンの鼓舞に対し、にたりと血を滴り落としながらゴブリンロードが口笛を吹く。

 その直後――

 (魔物が集まって来た!?)
 (怯むな! ……くっ、ゴブリンもだと!?)
 (こんなにいるのか!?)

 すり鉢の上に居る弓兵やあの女の子、おっさんの焦る声が響いていた。
 そして、崖のあちこちからゴブリンが飛び出してくる。

 「ぎゃははははは! お前等は誘い込まれたんだよ! 女を置いて行けば見逃してやってもいいがなあ?」

 ――なるほど、相当に頭がいいらしい。だけど、その提案にのってやるわけには、いかない。

 「答えは……ノーだ!」
 「んな!? 魔法!? 詠唱は!?」
 「行くぞ……!! 人質は返してもらう!」
 「ガキがぁ……」

 俺のファイアーボールが顔を直撃し苛立つゴブリンロード。
 大したダメージが無いことに驚いたが顔には出さず、駆け出し、

 「怯むなよ! 背中を取られないように戦え!」
 「「「「おおおおおおおおおお」」」」

 戦いのゴングが鳴った!
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