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中央大陸の戦い

154.そして三つ目の勢力

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 「うう……」
 「や、やられたあ……」
 <うわあ……死屍累々って感じですねえ>

 魔物達も引いて静寂を取り戻した山では怪我人が呻いていた。
 約500人くらいの行軍だったが、少し減った気がするのはゴブリンにさらわれた女性と、重傷を負ってコテージに入っている人がいるからだろう。

 とりあえず軽傷はポーション。
 中~重傷者には回復魔法で治療をしているが、手が足りないので俺も進言して手伝っていたりする。

 「とりあえずマナが続く限りやるよ」
 「お前、ベルクリフの素養があったのか。無詠唱といい、末恐ろしいヤツだな」
 「だが、回復魔法使いが攫われている今、ありがたい。俺は騎士団長のフェイバンだ。無理はするなよ」
 「おうおう、忙しいねえ」
 「茶化すな。後で打ち合わせに参加してもらうぞオーフ」

 フェイバンがオーフに指を突き付けてから顔を顰めて場を去っていく。
 彼がここに居たのはウォルフ族と話をしていたからだったりする。
 コウとセロが俺のそばに居たので親父さん達も離れなかったのでここで事情を話すことになったのである。

 ウォルフ族はコウとセロを探しに来た……というわけではなく、狩りに出ていたところでこの騒ぎに遭遇したのだそうだ。
 そこへ居なくなったと思っていた兄弟の匂いがあったのでさあ大変。魔物を蹴散らしながら山を登って来て、先ほどの顛末である。
 
 親父さんとセロがあんなんだったしウォルフ族は武器とか使わないのかと思ったけど、控えていた別のやつらは斧やら剣を持っていたので親父さんが特殊なようだ。
 まさかボロいラーメン屋によくある往年のマンガの技を生で見ることが出来るとは思わなかった。

 「ここまで息子たちを連れて来てくれて感謝する」
 「ああ、気にしないでくれると助かるよ。色々あってのことだから」
 「そうかなのか?」
 「いやいや父ちゃん、アルが居なければ船でどうなっていたか分からなかったぞ」
 「ご飯一杯もらったよ!」

 コウとアルが俺に助けられたことを報告すると、親父さんがいきなり俺を抱きしめてきた。

 「そうかそうか! ありがとうアル君!」
 「うわ!? まだ治療中だから!? あとめちゃくちゃ獣臭っ!?」
 「あはは、クリーガーも嬉しそうだよ」
 「きゅんきゅん!」

 親父さんが離れるとクリーガーが俺の膝に乗って尻尾を振っていた。
 それを見て親父さんはまた口を開く。

 「ほう、フェンリアーの子か。アル君のか? 毛皮は高級品だぞ」
 「きゅん……!?」
 「怯えさせるな!? 成り行きでついてきたんだよ。やらないからな?」
 「……」

 そっぽを向く親父。
 なんか良からぬことを考えていたな? まあ、口にしなかったから良しとしよう。
 
 「それにしてもスタンピードか、魔物が多いからそう言われれば納得だが……ゴブリンが多かったのは気になるな」
 「そうなのか?」
 「ああ、数もそうだが魔物と一緒に攻撃してくることは滅多にない。魔物でも人でも、戦って傷ついた獲物を後から狙う方が楽だと分かっているから奴らだ」
 「確かにそうね。警戒はしていたけど、あの数はちょっとびっくりしたわ」

 と、ロレーナが肩を竦めて親父さんに同意する。
 なるほど、ずる賢いってのは基本だと考えていいんだなゴブリンは。
 
 とまあ、そんな感じで先ほどの戦闘について考察を深めつつ親父さん達と話を進める。
 彼等は狩りの獲物を持ち、息子二人を連れて森に帰るだけなのだが、さっきの騎士団長との話でゴブリンを探すのを手伝って欲しいという依頼を受けて留まっている。
 兄弟がそうだったがゴブリンの匂いを辿れるのはでかい。
 
 「それじゃちょっと行ってくるわ」
 「はーい」

 そこでオーフが打ち合わせに行き、俺も回復魔法に戻る。
 幸い死者は居ないようだが、リタイア組は30名くらいいるようだ。
 腕がもげたり……みたいなのもないのは幸いで、治療が終わればまた復帰できるだろう。

 ……ただ、連れ去られた人はどうなるか分からないが。

 さて、打ち合わせが終わるまで適当に時間を潰していると、太陽が少しだけ傾いた辺りでオーフが戻ってくる。

 「この後どうするか決まった?」
 「ああ、ウォルフ族に先導をお願いして連れ去られた人の救出にあたる。見捨てるわけにはいかねえからな」
 「うむ。だが時間が勝負だ、急いだほうがいい」
 「すまねえ、お礼はジャンクリィ王国からきちんとするって言ってたから期待してくれ。それじゃ説明するぞ――」

 ――作戦としてはシンプルで、数人のウォルフ族を連れてゴブリンの住処へ近づき、襲撃するだけ。
 やつらは夜行性らしく、昼活動する奴等と交代で巣を守るのだとか。
 連れ去られた女性はまあ、その、エロい感じになるらしいが、あくまでも捕えた奴らがメインなので、一日経過するまでは手を出されないハズとのこと。
 故に、時間との勝負なのだ。

 「ハイクラスが使えるアルフェンは同行してもらう。ロレーナもな。コウとセロは無理しないでいいぞ」
 「父ちゃんが行くし、俺達も役に立つよ!」
 「まあ、危なくなったら逃げろよ? こっちは全員で行くわけじゃない」

 人質が居る以上派手に動けないから仕方ないか。
 救出する人数は各パーティに話を聞いて人数は把握できているので、それを助けたら一網打尽にしてやるつもりである。

 「ふう、マナを結構使ったから役に立てるか分からないけど」
 「剣もいけるからなアルフェンは。二時間後に作戦決行だ、少し休んでおいていいぞ」

 オーフに気を遣ってもらい俺は少し仮眠をとることにした。


 ◆ ◇ ◆


 そして予定通り作戦開始。
 ウォルフ族の若い衆を数人と、俺達は50名程度の戦力でここまできていた。

 「……こっちだ。だんだん近づいて来た、油断するなよ」
 「……」

 親父さん……ザイクが目を細めて静かに口を開く。
 さすがというか的確に近づいているらしく、俺達は無言で頷いて身をかがめる。
 日没まではまだ早いが、アジト付近で潜入機会を伺う予定となっている。

 「緊張するな。人質が居た戦いなんてのは珍しくないけど」
 「なんだそりゃ。お前、復讐以外にも修羅場をくぐってきてんのか?」
 「ま、それなりに……ってなんだ、あいつら?」
 「あん? ……おいおいこっちに来るぞ!?」

 少し離れた場所に騎士や冒険者が歩いているのが見え、俺達は一斉に目を向ける。
 すると、髭のおっさんが目を見開いて驚いた後、剣を抜いて駆け出して来た……!?
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