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中央大陸の戦い

152.本命の在処

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 「ふう……きっついな……」
 「きゅん」
 <アル様、10時の方向!>
 「オッケー」

 「あはははは! 爆発ぅ!」
 「元気だなあいつ……」

 さて、4日ほど行軍したところでアイゼンの森の手前にある丘陵へと到着した俺達。
 例の魔法コテージがいくつか用意されていたものの、500名全員を収容できるほどの数も規模も無いのでローテーションで使用。
 見張り&テント組は魔物との連戦で疲労が完全には抜けないので、俺も肩で息をするくらいには疲れていた。
 
 ちなみに女性は優先的にコテージなのでロレーナはとても元気だったりする。
 女性も80人くらいいるので占有されていたとしても仕方がないことだろう。

 この丘陵も高いところなら魔物を発見しやすいが、低いところだと強襲されてしまうため高台にいる冒険者たちが頼りである。
 ただ、漏れなく疲弊しているので自分の身は自分で守ることをしっかりやらねばならない。
  そんな行軍4日目は負傷者もわずかに増えて来たあたりで夜を迎えることとなる。
 
 「そういやゴブリンが出てこないな」
 「多分、森に潜んでいるのよ。今回は見かけたら始末するくらいで考えておけばいいかな? やっぱり動物や昆虫型の魔物が増えているからそっちの駆除が先決よ」
 「ゴブリンは嫌な臭いするから俺達がすぐ分かるよ」
 「へえ、やっぱ嗅覚が凄いんだな」
 「うん! はぐはぐはぐ!」

 コウがそういうならそういうものなんだろう。
 逆に言えば獣人兄弟がいればゴブリンの気配は分かるってわけだから心強い。

 「きゅんきゅん!」
 「ん? どうした、飯は食ったろ。セロの食いっぷりに触発されたか?」
 「きゅーん!」
 「クリーガーも分かるって言ってるよ!」
 「そうなのか?」
 「きゅん♪」

 どうやらそうらしい。
 だが――

 「お前は喋れないしなあ……」
 「きゅん!? ……きゅーん」
 「あ、拗ねちゃった。ダメだよ、アル君。赤ちゃんには優しくしないと」

 そう言われても事実だしな。
 まあ、気遣いは嬉しいので引き寄せて頭を撫でまわしてやる。

 「きゅぅぅん……♪」
 「男の子なんだから撫でられてうっとりするのもどうかと思うが」
 「いいじゃない可愛いし」

 機嫌はなおったみたいなので膝の上に乗せて焼いた肉を食う。
 派手に野営をしているが全員高台にいるので強襲はされにくい。
 というか支給された干し肉と、ちょっとした野菜が入ったスープ、それとパンだけじゃ元気は出ないからな。
 セロは少し食べすぎな気がするが、コウいわくいつものことだそうなので将来が楽しみではある。

 そんな感じでくつろいでいると、俺達が囲んでいる焚火にオーフが戻って来た。
 これから本格的に眼下に広がるアイゼンの森へ入るため、各パーティのリーダー格が集まって話し合いをしていたのだ。

 「おう、食ってんな。ベリモットの旦那からの食料は助かるよな」
 「セロの胃に入りまくっているけどな。で、これからどうするって?」
 「先頭を進む騎士団が言うには向かって西にある山側からの襲撃が多いらしい。だからそっちへ戦力を集中して、東のアイゼンの森は警戒程度にとどめるってよ」

 山側か……森なら平地だけど、山になると格段に戦いにくくなるからケガ人の注意をした方がいいかもしれないな。
 俺も使えるけどまだ大したことないから不安だ。セラフィムはあるが、俺自身動けなくなる可能性があるからいざってとき以外は封印推奨だしなあ。

 俺が山の方に目を向けてそんなことを考えていると、ロレーナがセロの頭を撫でながら笑顔で言う。

 「なら、ウォルフ族とは後で邂逅する感じね。コウとセロちゃん、もう少し待ってね」
 「だいじょうぶー! 森まで行けば一人でも帰れるよ」
 「だな。でも、アル達を父さんに紹介したいから落ち着くまでついていくぞ」

 ……経緯を考えるとあんまりいいことにはなりそうにない。が、発端のヴィダーは居ないので俺が助けたってあたりを強調すれば受け入れてもらえるかな?

 「とりあえず、だ。これだけ魔物が徘徊している理由は必ずある。油断なく、見て行こうぜ」
 「オーフはホント、酒が入って無けりゃいいんだけどな」
 「んだと!?」
 「本当だよねー」
 「いや、ロレーナはもっとひどいからな!?」

 しれっと兄を生贄にした酷い妹に驚愕しつつ、俺達は収納魔法から取り出した毛布にくるまって寝ることに。
 明日から激戦が予想されるということで、交代組もきっちり寝ることになり、翌日の出発はそれなりに陽が高くなってからだった。

 「こうやってみると結構な数が居るよな」

 緩やか丘陵を下り、半月状に展開した部隊は慎重に歩を進める。
 俺達は中間くらいの位置に居るので少し先を歩く人達を眺めていると改めてこの作戦は重要だと分かる。

 そして――

 「……まずいな」
 「分かるかアルフェン」
 「なになに? どしたの?」

 山を登り始めてから少し経った頃、後ろを見た俺が呟くと、オーフも意図に気づいたのか声をかけてくる。
 首を傾げるロレーナに向けて口を開く。

 「見ろよロレーナ、遅れてきた人が居るから段々と乱れて来ただろ? こうなると奇襲された時に分断されやすいから危険なんだ」

 これは騎士である父さんも言っていたし、集団登山で遭難する人達の典型でもあるからよくわかる。
 どの程度まで登るかによるが本命が居るなら休憩を挟まないとまずい気がする。
 
 「……!! アル、気をつけろゴブリンが近い!!」
 「なに!?」

 特に、と考えていたところでコウが耳と尻尾をぴんと立てて犬歯をむき出しにして叫び出し、俺達は咄嗟に構える。

 ――すると後方で叫び声が響いてきた。

 「うおおおお!? て、敵襲だ!」
 「ゴブリンだ! 多いぞ!」

 警戒はしていたのでパニックにはなっていないが、悲鳴に近い声も聞こえる。
 コウの言う通り相手はゴブリンだが、

 「チッ、来やがっただと? 森に居る線が濃厚だって言ってたのによ」
 「ぼやいても仕方ない、援護に行かないと」
 
 ここには居ないはずだと考えていたオーフが舌打ちをしながら大剣を抜く。
 俺も剣と魔法で迎撃を仕掛けようとしたが、今度は上からも声が聞こえてくる。

 「こいつら……!? 待ち伏せだと!」
 「魔物がなだれ込んでくる!? 後方の者達! 散れ! 左右に散――」
 
 最後まで聞こえなかったのは魔物たちの足音のせいで、乗じたゴブリンもあちこりから湧いて出てくる。

 「きゃあああ!?」
 「狙いは女か、守れぇぇ!」

 場は一気に混乱に陥った――
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