157 / 258
中央大陸の戦い
151.行軍開始
しおりを挟む俺が滞在しているオルファの町。
ここがアイゼンの森やスリアン国への最前線なので冒険者や騎士、兵士が集合するには都合が良く、見るからに大規模作戦の様相を伺わせる。
「遠征のお供に~パンはいかがかね~」
「飲み水はあるかい? ひとつ200ルブルだ」
「おいおい、ちょっと高いんじゃないかぁ?」
まだ陽も上がっていないのに、商売人もここぞとばかりに商品を荷車で引いて売り子をしているのでかなりの混雑。
そんな中、俺やオーフ、ロレーナは作戦開始を待つ。
ちなみに総勢で500人弱が南門に居るらしく、先導するのはジャンクリィ王国の数人いる騎士団長の一人だとか。
イークンベルも騎士団長が複数いたのでこういうものだろう。指揮系統が一人だともし不慮の事故で死んだりしたら場が荒れるからな。
「……ちょっと少ないわね」
「スリアン国が関わっているって考えたら確かにそうだな。って、そろそろクリーガーを返してくれよ」
「えー、もふもふしたいのにー」
「きゅん!」
もう満足だろと言わんばかりに鳴いてからポンとクリーガーが俺の胸元へ帰ってくる。そこでオーフが周囲を見渡しながら口を開いた。
「ま、手練れも居るし戦力としては悪くねえ。問題はスリアン国の動向だな」
「ああ。ジャンクリィ王国の国王様も肝が太い」
「?」
俺がコウたちを見て肩を竦める。
動きが速い理由はいくつかあるが、その内の一つは森や山に棲むエルフやウォルフ族達も魔物には困っているはずなので、国として救援すればジャンクリィ王国側に融通を利かせやすくなるんじゃないか? というものだった。
もちろん北側にも遠征に出ているので、南だけを救援に出しているわけではないため、そうなったらいいな程度の結果オーライ狙いというやつである。
一応、『ブック・オブ・アカシック』でこの戦いについて確認したところ、命に関わるようなことは無いと書かれていた。
鵜呑みにするのは危険なので慎重に行動するつもりだが、まあなんとかなるだろう。爺さんについては『わからない』の一点張り。
それとスリアン国はそれほど妙な国って訳じゃないらしいんだが、どうして領地拡大をしようとしているのかは不明とのこと。
戦争を望んでいる……ほど、貧困でも国が狭くもないしな。
この中央大陸のにある三つの国の内の二つがいがみ合う理由もなく、仲も良いとのこと。
まあ、トップが代わると色々考え方も違うだろうしそのあたりだろうか?
とりあえず今やることは魔物討伐。
できるだけ多く倒しておくに越したことはない。
そこで木箱の上にフル装備の騎士が立ち、高らかに声を上げた。
「諸君、早朝から集まって貰いありがたく思う! 我々はこれから国外へと遠征へ向かう。まずはアイゼンの森を目指し、ウォルフ族と接触する。
もし彼等を見つけたら『斬鋼のオーフ』に声をかけてくれ、ウォルフ族の子供達を連れている」
「やあやあ、皆の衆……見世物じゃありませんよ!」
「なんでロレーナがキレるんだよ……」
あの兄妹がいるんだ……みたいな頼もしいとも呆れともとれるざわめきが起こり注目を集める俺達。ロレーナが無駄に威嚇するのをひざかっくんで止めていると、騎士団長が咳ばらいをして話を続ける。
「国境である壁はあるが越えてくる魔物も多い。特にゴブリンは頭も回るから見つけたら報告。必ず集団で戦うことを忘れるな」
「ゴブリンなんているのか……イークンベルやツィアル国には居なかったのに」
「お、見たことないのか? あっちの大陸は確かに少ないと聞いたことがあるけど。オークやトロールはどうだ?」
「その辺も、かな。相手は人間が多かったし」
「なら、いい機会かもね。あいつらは小鬼と呼ばれるだけあって、個々の力はそれほど強くないけど集団になると相当面倒になるの。習性なんかを覚えとくと後で役に立つわ」
聞く限り他種族を平気で殺しにくるあたり、魔人族やエルフ、ドワーフみたいな一種族として見れなくもないが、好戦的で本能に従って生きているため魔物と言って差し支えないとロレーナは語る。
そんな話をしていると演説が終わり、俺達はいよいよ出発となった。
「アル兄ちゃん、食べ物はある?」
「お前は食うことばかりだなセロ。ちゃんと収納魔法に入れているよ」
「わーい! クリーガーよかったね」
「きゅん」
抱っこすると手が使えなくなってしまうので背負えるリュックみたいなカバンを買ってそこにクリーガーを詰めている。
前足と頭だけ出ている子狼は可愛いしかない。
「でもこれで森に帰れるよ、ありがとうアルフェン」
「まあ……乗り掛かった舟だしな。ヴィダーも謝ってたけど、許したのか?」
「怒っても仕方ないし、誘拐されたのは俺達にも油断があったからな。森で油断したら即死だって父ちゃんに良く言われているんだ」
「あー」
誘拐犯に怒るけど、それと同じくらい怒られる事象ってことか。
それでもなんだかんだでグラディス達みたいに必死で探していると思うけどな。
そして――
「回り込め!」
「ドラゴンスネイルには魔法使いがいけ! 盾持ちは庇えよ!」
「ジャイアントタスクが突っ込んでくるぜ」
「マジか、ドラゴンスネイルが居るのに襲ってくるかよ!?」
――出発して数時間で俺達は早速遭遇した。
騎士達のどよめきからして思ったより早すぎる遭遇のようだ。
それと同時に別の魔物が仕掛けてくるのも珍しい光景だと俺は訝しむ。
この前のフェンリアーをドラゴンスネイルが追う、ということなら分かるがジャイアントタスクは人間を主食にしておらず、むしろドラゴンスネイルの餌になる可能性の方が高いのだ。
「数はそうでもないけど、いきなりドラゴンスネイルとは面倒くさいな」
「だな。こいつがこれだけ姿を見せるのもおかしな話だ。それこそ鹿や兎なんかが主食で人間を襲うことは滅多にないんだが」
「とりあえず……倒すしかないな。元凶があると思うか?」
「多分、ね!」
ロレーナが大蛇の口に火薬をぶちこんで発火させる例の戦法で一匹潰す。
他の個体も魔法使いが表皮を剥がし、剣で切り裂かれて絶命。
「あれって皮をあぶって食べると美味しいんだよー」
「ジャイアントタスクの毛皮が欲しいな」
野性味が溢れる兄弟のたくましい言葉を聞きながら、俺達は進む。
まだ遠足気分で進んでいるが――
1
お気に入りに追加
198
あなたにおすすめの小説
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
悪役令嬢を陥れようとして失敗したヒロインのその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
女伯グリゼルダはもう不惑の歳だが、過去に起こしたスキャンダルが原因で異性から敬遠され未だに独身だった。
二十二年前、グリゼルダは恋仲になった王太子と結託して彼の婚約者である公爵令嬢を陥れようとした。
けれど、返り討ちに遭ってしまい、結局恋人である王太子とも破局してしまったのだ。
ある時、グリゼルダは王都で開かれた仮面舞踏会に参加する。そこで、トラヴィスという年下の青年と知り合ったグリゼルダは彼と恋仲になった。そして、どんどん彼に夢中になっていく。
だが、ある日。トラヴィスは、突然グリゼルダの前から姿を消してしまう。グリゼルダはショックのあまり倒れてしまい、気づいた時には病院のベッドの上にいた。
グリゼルダは、心配そうに自分の顔を覗き込む執事にトラヴィスと連絡が取れなくなってしまったことを伝える。すると、執事は首を傾げた。
そして、困惑した様子でグリゼルダに尋ねたのだ。「トラヴィスって、一体誰ですか? そんな方、この世に存在しませんよね?」と──。
悪役令嬢にざまぁされた王子のその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。
その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。
そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。
マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。
人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。
Another Of Life Game~僕のもう一つの物語~
神城弥生
ファンタジー
なろう小説サイトにて「HJ文庫2018」一次審査突破しました!!
皆様のおかげでなろうサイトで120万pv達成しました!
ありがとうございます!
VRMMOを造った山下グループの最高傑作「Another Of Life Game」。
山下哲二が、死ぬ間際に完成させたこのゲームに込めた思いとは・・・?
それでは皆様、AOLの世界をお楽しみ下さい!
毎週土曜日更新(偶に休み)
断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!
柊
ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」
ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。
「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」
そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。
(やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。
※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。
無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す
紅月シン
ファンタジー
七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。
才能限界0。
それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。
レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。
つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。
だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。
その結果として実家の公爵家を追放されたことも。
同日に前世の記憶を思い出したことも。
一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。
その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。
スキル。
そして、自らのスキルである限界突破。
やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。
※小説家になろう様にも投稿しています
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる