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中央大陸の戦い

147.ジャンクリィ王国の南へ

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 「来たか」
 「金のためにな」
 「!? ……ふん、この前から思っていたけど、面白い奴だなお前」
 「ま、護衛はきちんとやらせてもらうけどな。改めて自己紹介する。アルフェンだ」
 「ヴィダー=オルソンだ。よろしく頼む」

 南門へ向かうと約束通りオーフとロレーナが待ち、雇い主であるヴィダーが相変わらず……いや、前よりは幾分マシになった彼と握手を交わして馬車へ乗り込む。

 馬車で移動中に一応ギルド印の契約書を確認してサイン。これで正式にヴィダーに雇われたことになる。
 内容もシンプルで屋敷まで送り届けてくれれば7万ルブル支払うというもの。
 ただ、道中の魔物は多いため、立ちはだかる魔物を倒せば追加報酬をくれるというのは破格だと思う。

 ……逆を言えばそれくらい魔物が増えているということになると考えるべきだ。
 それとは別に面倒ごとってのが気になるが、ま、そこはなるようになるだろう。

 「あふん……」

 暖かい日差しが窓から入って来ると、クリーガーがシートで丸くなって寝始めると、ロレーナがふにゃっと破顔する。

 「可愛い~。そういえば聞きたかったんだけど、アルフェン君はなんでライクベルンへ行くの?」
 「あれ? 故郷だって言わなかった?」
 「そうだっけ。で、旅に出てて帰るってこと?」

 そう尋ねられてどう答えるか考える。
 そこでよく考えたらこの二人は二つ名を持つような冒険者だ、もしかするとあの黒い剣士についてなにか知っているかもしれないな……。

 「実は――」

 俺はここに至るまでの経緯を話す。
 エリベールとか家族のあたりは省いて、家が襲われたことと流されてイークベルン王国でしばらく過ごしていたこと、そして黒い剣士と『ブック・オブ・アカシック』についてを。
 
 「それはまた……」
 「言うな坊ちゃん。可哀想だとか思うところはあるが、こいつはそんな言葉を求めているんじゃない。欲しいのは情報、それと力だ」
 「オーフ……」

 厳しい物言いだが確かに同情よりも情報と復讐を成す力がなによりも重要だ。
 ロレーナがオーフを寂し気な目で見るのでこの二人にもなにかあったのかもしれないなとか考えていると、オーフが口を開く。

 「……黒い剣士の噂は聞いたことがあるぜ。北の寒い地域で黒い装備をつける国があるらしい。だから覚えていたな」
 「黒い鎧なんて珍しくないんじゃない?」
 「ううん、北って雪国だから風景に溶け込んで奇襲できる白い鎧を着ける国の方が多いの。だから目立つ黒い鎧を装備するのは変なのよね」

 迷彩と考えればロレーナの言うことには納得できる。
 とはいえ、好戦的かつなにかを探しているのに、尋ねるのではなく夜襲をかけて惨殺するというあたり、元々おかしいやつらなので『変』なのは当然と言うところだろうか。

 「ヴィダー様、オーフ殿、魔物が!」
 「任せとけっ! ロレーナ、アルフェン援護を頼むぜ! うひひ、金が向こうからやってきた!」
 「今日もビール飲めるのね……!!」

 うん……こいつらのテンションが分からない……オーフとかたまにスイッチが入ったみたいにいいことを言うんだけど、今はちゃらんぽらんな感じだ。
 後で二人のことも聞いてみるかと、止まった馬車から飛び出して魔物を蹴散らす。

 前を見るとデカいカエル型の魔物が街道のを塞ぐように立ちふさがり舌を出していた。

 「ヒヒーン!?」
 「おう、こいつか!」

 舌が馬に巻き付いているところを見ると、腹を空かして動物を狙った魔物のようだ。
 すぐにオーフが舌を切断するとそのままカエルへ肉薄していく。

 「メタノフロッガーは珍味だ、今日のつまみが決定だぁぁぁぁぁ!!」
 「いやっほぉぉぉぅ!!」
 「いや、だからなんなんだよそのテンション!?」
 「ゲロォ!?」

 だが、そのテンションなのに二枚目の舌の攻撃を難なく躱しながら接近していくオーフ。それに気づいたカエルは強大な体で体当たりを仕掛けるが、それを回避するロレーナ。
 しかしカエルもアホでは無かったようで、そのまま一足飛びで高く飛び上がって狙いの馬に接近する。

 「ひい!?」
 「アルフェン!」
 「問題ないよ!」
 「ふえ!?」

 俺はカエルにゲイルスラッシュを撃ち込み、後方に押しやりながら手足を切り裂く。少々見た目が可哀想になったが、こっちも馬を食われるわけにはいかないからな。

 「おお、すげぇ! オーライオーライ!!」
 「ゲコォ!?」

 オーフが剣を構えて落下するカエルに対してフルスイングすると、木に叩きつけられたカエルは嫌な音を立てて動かなくなった。
 
 「ふう……我ながら頑張ったわね」
 「ロレーナはなんもしてないけどな」
 「テンション上げてたじゃない。あとは……」

 その自覚はあるのか。
 その言葉と同時にロレーナが視線を別の方へ向けると、他にもいたらしいカエルが一匹逃げ去り、もう一匹は逃げようとしたところで後頭部にダガーを受けて絶命していた。

 「やるね」
 「まあねえ♪ いいお金になるし、もうけもうけ!」
 「そっち頼むわ」

 ロレーナがガッツポーズをしながら軽い足取りで駆け寄り、オーフはすでに一匹目の解体を始めていた。手早い……!?

 「アルフェン君、手伝ってー」
 「呑気だな……」

 まあ、そんな騒ぎの中でもずっと眠っていたクリーガーが一番呑気だったわけだが。
 さらに言うとヴィダーは今回も空気だった。道中はそれなりに話してはいたが、あまり込み入った内容は口にせず、もっぱらロレーナが絡んでくることが多かったせいもある。
 

 その後も何度か魔物と遭遇して倒しまくる羽目に。ただ、オーフとロレーナが破格に強いのであまり苦労せずに進むことができた。
 それにしても俺は母さんやグラディスといった能力の高い人と一緒に組むことが多いのは僥倖だなと思う。
 この世界に来てからそれなりに不遇な人生を歩んでいるが、それと同時にエリベールとのことなどもあるので優遇されている部分もある。
 
 それ故に、両親が殺されたことがやはり納得がいかないものだ。
 爺さんもどうなっているか分からないしな。
 ウチの家族だけが不幸って訳ではないが、どうして……と思うことはあるな。

 さて、それはともかく王都から五日ほどかけてようやくジャンクリィ王国はボルヴィット領へ到着……する直前で、俺達はまた魔物と戦うことになる。

 「オーフ殿! 前の馬車が魔物に襲われて立ち往生しているようです!」
 「やれやれ、町はすぐそこだってのに、運がないねえ向こうもこっちも」
 「いいから行くぞ。クリーガーは大人しくしてろよ」
 「きゅん!」

 俺達は最後の一仕事だと馬車を降りて戦闘を開始。
 最後の報酬ってところだと思っていたのだが、魔物とは別に驚くべきことが――
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