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中央大陸の戦い

143.旅は道連れ

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 「おい、無事かお前達ぃぃぃぃぃ!?」
 「あー、坊ちゃん血を見るのダメですもんねえ」
 「ロレーナ、介抱しといてくれ。こっちは俺達がやる」
 「へーい」

 近づいてきた馬車はもちろんヴィダーのもので、降りて来たヤツは現場のぐちゃぐちゃになった解体現場を見て登場後数秒でダウンした。
 
 さて、オーフとロレーナの手際の良さのおかげで解体はあっという間に終わり、子狼の親は申し訳ないが毛皮と尻尾を頂き埋葬準備をしてやった。

 「お別れだ」
 「きゅーん……」

 状況を理解しているようで、か細く鳴いた後は俺の足元にすり寄ってきたので埋めてしまい、最後に地面を水の魔法で血を洗い流した。

 で、ヴィダーも目を覚ましたところで話をすることに。
 
 「なんでまた追いかけて来たんだよ。もう話は終わったろ?」
 「実は途中まで一緒の道なのよね、だから追いつくかどうかチキンレースを……」
 「すんなよ!? じゃあたまたま方向が同じだったってのか」

 ロレーナがイシシと嫌な笑いをしながら訳のわからないことを言い、それを窘めながらオーフが口を開く。

 「ま、そういうこった。次の町は王都だが、その後に南へ行く道があるんだよ」
 「新手のストーカーかと思った」
 「あんな凶悪な魔物と一緒にするな……」
 「ふふん」

 ストーカーという言葉はないがカマキリっぽい『デスストーカー』とかいう魔物が居るらしい。
 何故かロレーナが勝ち誇った顔をしているのが腹立ったのでとりあえず頬を引っ張っておいた。

 「ぎゃあああああ!? ギブ、ギブ!?」
 
 満足したので俺はしゃがみこんでから子狼と目を合わせて呟く。
 
 「さて、後はこいつの処遇か」
 「きゅん?」
 
 なに? とばかりに首を傾げてつぶらな瞳を向けてくる。
 かなり可愛いが魔物は魔物。とはいえ殺すのはしのびないため、群れに返したいところだ。

 「お前、匂いとかで仲間の位置を追えないか?」
 「きゅんきゅん!」
 「お、いけそうか……?」

 鼻をふんふんと鳴らしながら歩き出したのでもしかしたら近くにいるのかもしれない。すると木の陰から数頭の狼が姿を現す。
 
 「良かった、戻ってきたのか。ほら、今のうちに帰れ、攻撃したりしないからさ」
 「きゅん」

 子狼が駆け出し、途中で俺へ振り返る。
 手を振ってやると仲間のところへ走っていった。

 「きゅんきゅん」
 「わふ」
 「わぉん?」
 「きゅん」

 他の個体より大きな狼……ボスだろうか? そいつが子狼に鼻を近づけてからわんわん鳴き、それに呼応するように口を開く子狼。

 「なんか話してるわね?」
 「親が居なくなったし、どこの子か確認している、とか?」
 「……いや、どうかな」

 オーフが顎に手を当てて目を細めると、ボス狼が子狼を咥えてこっちに歩いてきた。

 「なんだなんだ?」
 「おん! ……わおおおおおおん」
 「「「あおおおおおおん」」
 
 何故か子狼を俺の前に置いてから遠吠えをする狼達。
 魔物が寄ってくるんじゃないかと思えるような声量だったが、すぐに止め、子狼をその場に残して立ち去って行った。

 「お、おい、こいつはどうするんだよ!?」
 「きゅん!」
 「多分、ついてくるんじゃないか? お前が群れを助けたと認識したんだよあいつら。で、このチビが主としてアルフェンを選んだんだ。フェンリアーはそういう習性がある」
 「マジか……」
 「きゅんきゅん♪」

 何故か嬉しそうに俺の足元をぐるぐる回りながら鳴く。
 うーむ、これから先で子狼を連れて戦うのは大変なんだが……

 「ロレーナ、貰ってくれないか?」
 「ええ!? そりゃ可愛いから欲しいけど、多分めちゃくちゃ鳴くよこの子? 脱走して追い続けるかも」
 「そういうものか」
 「まあ押し付けられて迷惑かもしれないけど、大きくなったら狩りもできるしなによりハクがつくわ! フェンリアーに認められるってなかなか無いもの」
 「こいつがねえ……」
 「きゅーん」

 俺の身体によじ登ろうとするので抱っこしてやると顔を舐めようと暴れる。
……さっき、身を挺して囮になってくれたし、躾ければいいか。

 「……言っとくが、俺の旅は過酷だぞ? 死ぬかもしれない。それでもいいか?」

 言葉はわからないだろうけど真剣な声で語りかけてやる。
 すると子狼はわかったといわんばかりに大きく鳴いた。

 「きゅん……!!」
 「はあ……まあ、人間じゃないだけマシか」
 「なに? 死ぬようなことをするのアルフェン君?」
 「ま、俺にもいろいろあるんだよっと、雄か」
 「きゅ~ん」

 じたばたとする子狼とじゃれているとヴィダーが声をかけてきた。

 「おい、アル。お前これからどうするんだ? 乗合馬車を飛び降りたんだろう」
 「うーん、まあ下車したのは俺だし歩いていくよ」
 「ふん、ここから王都まではもう少しかかる。夜の森は危険だ、僕の……わ、私の馬車に乗っていけ」
 「いいのか?」

 俺が聞き返すとヴィダーは頷いて踵を返す。
 そのやりとりを見ていたオーフとロレーナがくっくと笑いながら後をついていった。

 「アルフェン君、はやくー」
 「いいのか本当に……?」

 行先は同じだから問題ないが、こいつらとこんなに顔を合わせることになるとは思わなかった。
 それとあのお茶らけていたオーフとロレーナの実力が高いこともだ。

 「きゅんきゅん」
 「んふ、懐いているわね。いいなあ、フェンリアーの子供って美味しいらしいのよね……」
 「きゅん!?」
 「いきなり酷いな……」
 「冗談ヨ」

 口ではそんなことを言いながらタゲを外さないロレーナには気を付けよう。
 それはともかく、オーフに……と言いたいところだがまた空気になりそうなヴィダーに声をかけた。

 「それにしても、お前も分からないやつだよな。誘拐みたいな大それたことを企てる割にはわきが甘い。目的もしょうも無い理由だし、これがおおごとになっていたら両親にも迷惑がかかるんだぞ?」
 「うぐ……」
 「もし、あいつらの親がガチギレして追いかけてきたら殺されるぞマジで。俺ならそうする」
 「おおう、怖いねえ」

 子狼のことがあったこともあり、俺が睨みつけているとオーフが肩を竦めて口笛を吹いた。

 「だいたい、雇われているにしても進言くらいはした方がいいんじゃないか?」
 「ま、あんまり酷い時は言うようにしているけどな。獣人の誘拐は、多分その内分かる」
 「なんだって?」
 「まあまあ、王都へ行って美味しいものを食べながら、ね? ヴィダー様、いいですよね」
 「……まあな」

 どういうことだ?
 俺は子狼と顔を見合わせてから首を傾げる。友達が欲しいってのはフェイクってことか……?

 そんなことを考えつつ、雑談をしながら王都へと向かうことになった。
 
 獣人のことは教えてくれなかったがオーフ達のことは聞くことができ、彼の剣ランクは66と中々高いことが分かり、ロレーナは40とそれなりだが魔法も使えるのでその分を補っているようだ。
 あの硬いドラゴンスネイルに剣を突き立てたのは剣の性能もさながら、腕もあったというわけである。

 「ヴィダー様の土地で採れるシルバーオブシディアンって石で作った剣でな、俺の宝物さ」
 「そうそう、オーフはこれで髭を剃るからねえ」
 「剃らねえよ!? ズタズタになるわ!?」

 よく分からないが仲がいいのは良いことだ。
 そんなこんなで、俺達はジャンクリィ王国の王都へと到着した――
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