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中央大陸の戦い

133.取引

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 <……それ、読むんですか? 私は最近、嫌な感じしかしませんけど>
 「嫌な感じとかわかるんだな……。いや、俺も最近の本は感じ悪いなと思うけどな」

 マイヤの件はかなり腹が立ったので投げ捨てたくらいにはあまりいい感情はない。
 しかし先のことをある程度予測して教えて貰えるのは犠牲者を減らしたりする意味では助かるのだ。
 エリベールや誘拐された子供達に【呪い】の詳細、カーランについてなど有用な情報が無かった訳じゃない。

 あれ、まてよ? よく考えると大局的な話は有用だけど個人的なことだと冷たい気がしないか……?

 「……ふむ。今後注意してみるか。とりあえずマイヤについて報告してみて反応を確かめよう。ブックよブックよブックさん、俺に相応しい女性はだあれ?」
 <なんですかそれ……>

 俺が本を開きながら冗談めかして鏡よ鏡的な感じの言葉を口にする。
 すると白いページに文字が浮かび上がり――

‟リンカ=ブラネイルだ”

 ――知らない名前が出ていた。

 「誰だよ!?」
 
 なにか反論があるのかと思ったが、淡々と文字を浮かび上がらせていく『ブック・オブ・アカシック』

 ‟中央大陸のどこかで会うことになる同年代の女の子で、お前は彼女を助けなければならない。いいな、必ずだぞ。黒い剣士を倒すには必要な人材であり、エリベールと共に大切な人物になるだろう”

 「これって……」
 <浮気の斡旋……!>
 「違う!? いや、違わないのか……? というか必ずってどういうことだ? 情報を知っているからか?」

 ‟……ああ、うん、そんなところだ”

 「嘘くせえ!!!!」
 <ものすごいざっくばらんに返してきましたね……。嫌な予感しかしませんけどどうしますか?>
 
 リグレットが『うわぁ……』というような声色で俺に尋ねてくるが、ことは黒い剣士に関わることなら無視もできない。
 
 「その、リンカってヤツはどこにいるんだ?」
 
 ‟中央大陸に入れば分かる。大丈夫、彼女はお前とは馬が合うというやつだ”

 「えらく言い切るな……それくらい重要だってことか? もし出会わなかったり大事な人として扱えなかったらどうなるんだ?」

 ‟後悔するだろう。少なくとも黒い剣士を追うなら必要になるはずだ”

 <どっちでも良さそうな感じしません?>
 「確かに。まあ、その時に決めればいいか、どこで会えるかは……相変わらずだんまりだし、見た目を含めて絶対そうなるとは限らないだろうし。
 それよりエリベールはもう大丈夫なんだろうな? 後、カーランの『英雄』を作るって話はどれくらい信憑性があったのか分かるか?」

 先のことはいいとして、エリベールやカーランのことを尋ねてみることにした。
 この先、エリベールが危機に晒されたりすることがあるなら先手を打っておきたい。

 すると――

 ‟シェリシンダ王国はエリベールが生き残ったことによって未来が変わったのでどうなるかは不明。
 『英雄化』は人工的に行うことは難しい。が、できなくはない。カーランのミスは種族を……例えば人族と魔人族、エルフといった他種族との交配を極めて強い者を作ろうとした。
 しかし、それだと時間がかかりすぎ、隔世遺伝でしか強くならないかもしれないし、そんな存在が産まれないかもしれない。
 だから数十年、子供の選別をして――”

 そこで俺はおかしな話ということに気づき、ストップをかけた。

 「ちょっと待て。交配も考えていたみたいだが、カーランは俺を媒介して英雄を作ろうとしていたぞ? 子どもの力をどうにかして抽出するような実験をしていたみたいなことを言っていた」

 そういうと、本は少し間があってから文字を浮かび上がらせる。

 ‟考え方そのものが違うのか。やはり過干渉は良くないのかもしれないが、もう止めることはできない。一つ、提案をしたい”

 「あ?」
 <なんだこいつ>

 ‟出来る限り本を開ける状態にして持ち歩いて欲しい。選択を迫られる状況ですぐに助言できるようにだ。そうすれば危ない橋を渡らずに済む可能性が高くなる
どうだろうか”

 リグレットがポツリと呟いたが確かに『なんだこいつ』って話だ。
 まさか持ち歩けとか指示されるとは思わなかった……。
 そこで俺は以前から懸念していたことを聞いてみることにした。

 「……お前、一体何者なんだ? 未来を予測していると思っていたが、どうも歴史を知っていて『そうならないよう』に俺を動かしている気がする。
 予測はそうかもしれないが、俺の質問に対してリアルタイムで書き込んでいるんじゃないのか?」

 ‟そうではない。アルフェンが主になったということを予測して、聞いたことから意見を導いているに過ぎない。……本にマナを込め、持ち歩いてくれればもう少し先が分かるかもしれない”

 要求が増えたな……。
 持ち歩くのは悪い案じゃない。何故ならこれが『ブック・オブ・アカシック』だということを知らしめることが出来るからだ。
 マナを込めるデメリットは今のところ無いが、なにかを隠し事をしている気もするので憚られるのだ。

 だが、これはこいつを試すいいチャンスかもしれない。
 味方なのか敵なのか……

 <アル様、いいんですか?>
 「……とりあえずは」
 
 俺はマナを本に込めると、辞書サイズだった本が小さくなり、懐に入れられる程度の大きさへとなった。

 ‟感謝する。……次の停泊先では特になにも起こらない。その次も。東の港へ到着してからギルドへ行くといいと出ている”

 「占いかよ!? それに東の港町まで降りるつもりは無いからなんも起こりようがないだろうが」

 捨てても戻って来るしなあ。
 まあ俺を破滅させようという訳では無さそうだが、こういう曖昧で適当加減が、人を不幸にするいわく付きの本と言われるのかもしれない。
 今度、今までどういった人物についていたか聞いてみるとするか……

 「ふあ……」

 とりあえず東の港町までゆっくりするかとベッドに倒れこみ、俺は眠りについた。

 その日は何故か、前世で協力者と恋人のような関係だった怜香との馴れ初めの夢を見ていた――


 ◆ ◇ ◆

 ――???――

 「来たぞ来たぞ……! ついにアルフェンのマナを本と繋げることが出来た……!! エリベールが生き残り、ツィアル国との絆もある。魔人族も協力してもらえそうな体制がある……これなら……」
 
 薄暗い地下室で無精ひげを生やした妙齢の男が本を開いた状態で震えていた。
 
 「あと少し……この体、もってくれよ――」

 涙をこぼし、背後のベッドに横たわる人物に近づき、男は口元を不敵にゆがめていた――
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