131 / 258
アルフェンの旅立ち
125.旅の開始
しおりを挟む「アル坊ちゃん、お気をつけて!」
「またな! みんなによろしく!」
馬車でここまで送ってくれた使用人、ピオンに船から手を振って出航。
帰りは適当な冒険者を雇って帰るらしい彼ともここでお別れだ。
ちなみにここまで誰もついてこなかったのは別れが惜しくなるのと、こっそり乗って来そうというのがあり、俺が屋敷での挨拶にしたのだ。
「久しぶりに一人か。大森林以来だな」
<そうですね。まあずっと私が居るんですけど>
「それは論外だろ」
ドヤ顔が目に浮かぶようなリグレットの言葉に適当なツッコミを入れつつ、港町に降り立つとそのまま乗合馬車とやらの発着場へ向かう。
カーランが存命していた時は貿易と交流を差し止めるため中止していたらしいが、今では復旧して各町への導線として使われている。
<お金、殆ど置いてきたんでしょう? 乗って大丈夫なんですか?>
「まあ……グラディスと合流したらツィアルで依頼でもすれば稼げるんじゃないか?」
金は心もとないが、歩いて移動する危険に比べればマシというものだろう。
ギルドから護衛として冒険者も乗り込んでいるため御者もにっこりの仕様のようだ。
「ここから魔人の国、ザンエルドへ行けるのか。ツィアルの王宮からとは別ルートだったからなあ。おじさん、ザンエルド行きは何時に出る?」
「お、坊主は魔人の国に行くのか、物好きだな。……って、冒険者か。なら納得だ。もう10分もすりゃ出発だ」
「ああ。あんまり乗り手が居ないんだな」
「国交が復旧しても誘拐事件だなんだで商人以外は近寄ろうとはしないからな」
御者のおっさんの説明にそれはあるかもと納得しながら金を払い、簡易的な屋根がついただけの荷台へと乗り込む。
護衛の冒険者が二人と商人風の男が一人、それと俺を乗せた乗合馬車は程なくして出発。
ゆっくりポクポクと二頭の馬が進み、町を離れて魔人族が居を構えていた山の方角へと向かっていく。
基本的にかなり南までいかないと、どのルートを通っても山を越えるかトンネルをくぐるしかない。
ツィアル国から出発した時はゆうに三日はかかったので、ここからだと五日くらいはかかりそうだ。
「お客さんが少ないけど採算取れるの、これ?」
「国がケツを持ってくれるから心配は無用だぜ、坊主。護衛賃金もだよな」
「ん? ああ、そうだな。ギルド経由でもらえるようになってんだ。しっかし国が正常に戻って良かったよな」
「だな。一年前とは比べ物にならないくらい待遇が良くなったもんな。なんか悪の宮廷魔術師を倒したのは子供と魔人族の男って話だろ? そいつらに感謝しないと」
……なんか噂になってるのか。
どこから漏れたのか分からないけど、名前が知られていないから素知らぬ顔をしておけばいいな。
「まあ、平和になったならなんでもいいよ」
「そのとおりだぜ。お前は魔人の国になにしに行くんだ?」
「人に会いにちょっと……。そういえばずっとこのままザンエルドの王都まで行くのかな?」
冒険者ギーガに聞かれたことを適当に返し、御者に質問を投げかける。
色々聞かれても面倒が増えそうだしな。
「いやいや、とりあえずトンネルを抜けた先の国境にある魔人族の町までだよ。休憩しながらだからこっちの町で二泊してトンネルを抜けるまでがウチの仕事だ。
そこからは魔人族の町の乗合馬車に乗り換えてくれ」
「あー、だから料金はそれなりなのか」
「そういうこった。馬もへばっちまうし、俺達も宿代や飯代が高くつくからな」
ってことらしい。
危険な仕事だから報酬も悪くないが御者も楽じゃないと笑いながらぼやいていた。
ある程度は出るらしいが、国がまともになって間もないので節約したいのはみんな一緒らしい。
「あんたは荷物が多いけど、商人かい?」
「ええ、向こうには珍しい食べ物や衣服があるらしいので交易にと思いましてね。こっちの食料も向こうでは採れないものがありますしチャンスではないかと」
「あー、そういやグラディスの服って民族衣装っぽかったなあ」
「おや、君は魔人族とお知り合いで?」
おっと、つい口が滑ったか。
「そんなところ。命の恩人でね、故郷に帰ってたんだけど無事な姿を見せておきたいんだ」
「へえ、誘拐事件の時にさらわれでもしたのか? 案外、国を救った魔人族だったりしてな! ははは、そりゃねえか!」
「もし同じ場所が目的地なら商談させてもらいたいですね」
「そ、そうだな……さて、ひと眠りするかー」
「おう、魔物が出たら任せとけ!」
もう喋るのは止めとこう……身バレしていいことって無さそうだしな。
幸い護衛も居るしのんびりさせてもらおうかね。
<フラグじゃないですよね……?>
嫌なことを言うな……その言葉がフラグだぞ?
――と、思っていたのだがどうやらそれは当たったらしい。
突然の振動で俺は荷台の壁に頭をぶつけて目を覚ます。
「どわ!?」
「おっと、起こしちまったか。魔物に襲われている最中でな、しっかり掴まってろよ!」
「おお……」
冒険者の二人組が弓を構えて射る先にはでかいカラスの魔物、ラージレイヴンが旋回しながらカーカーと鳴いていた。
「来るぞ……!」
「任せとけ!」
「ガァァァァ!」
でかいカラスが耳障りな声を上げながら急降下して馬を狙う。
こいつらは死体なら人間を食うが生きている者は餌として見ないので、馬を食うため襲撃してきたようだ。
一人が顔を屋根から出して弓を撃ち、もう一人が御者台から狙いをつける。
ただ、馬達は焦っていて、御者のおっさんも目標を逸らそうと蛇行運転に切り替えているので狙いを定めにくいみたいだな。
「馬が殺されるのは色々と困るし、手伝おうか」
「剣じゃ無理だ、いいって」
「いい人だなあんた。大丈夫俺には魔法もある」
「お……!?」
俺は御者台から顔を出し、馬達の身体をアクアフォームで包んでやる。
防御魔法としてはそこまで優秀ではないものの、爪とくちばしの攻撃を多少緩和してくれるし、警戒するはずだ。
「ガァァァァ……」
「おお、怒ってるな。さて、あんまり肉は美味しくないけど素材は高く売れるから見せしめに狩っておくか」
「落としてやるぜ」
「オッケー、なら援護する。くらえ……<ライティング>!」
右手に光球を作りだして空に放り投げ、カラス達の目の前で眩しい光が包み込む。
「ガァァァァ!?」
「カァアァ!?」
「おおおお! 今だ……!」
「いけえええ!」
二人が連続して射かけ、一羽に集中してぶっ刺さると力尽きて落ちて来た。
残りはそれを見て驚いたのか、あっさりと散開し場に静寂が戻る。
「ふう……」
「やるなお前! 傷も少ないし分け前と行こうぜ、なあ!」
「だな」
「年若いのにいい腕をしていますね。その素材、私が買いましょう。助けられましたし」
「はは、飯代ゲットだな」
一旦馬車を止めた俺達は、獲物を解体していく。
これくらい能天気な方が気は楽か?
そう思いながら旅は進み、ザンエルドの国境を越えた町へと到着。
「気を付けてな坊主!」
「ありがとよ!」
「また帰る時に乗ったら会えるかもなー!」
「では私もここで少し露店を出してきましょうか。ご縁があれば、また」
「ああ」
御者と冒険者二人と別れ、商人はこの町で商売をするということでやはり別れた。
再び一人になり乗合馬車を継いで俺は王都のグラディスの家の扉を叩いた――
1
お気に入りに追加
198
あなたにおすすめの小説
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
悪役令嬢を陥れようとして失敗したヒロインのその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
女伯グリゼルダはもう不惑の歳だが、過去に起こしたスキャンダルが原因で異性から敬遠され未だに独身だった。
二十二年前、グリゼルダは恋仲になった王太子と結託して彼の婚約者である公爵令嬢を陥れようとした。
けれど、返り討ちに遭ってしまい、結局恋人である王太子とも破局してしまったのだ。
ある時、グリゼルダは王都で開かれた仮面舞踏会に参加する。そこで、トラヴィスという年下の青年と知り合ったグリゼルダは彼と恋仲になった。そして、どんどん彼に夢中になっていく。
だが、ある日。トラヴィスは、突然グリゼルダの前から姿を消してしまう。グリゼルダはショックのあまり倒れてしまい、気づいた時には病院のベッドの上にいた。
グリゼルダは、心配そうに自分の顔を覗き込む執事にトラヴィスと連絡が取れなくなってしまったことを伝える。すると、執事は首を傾げた。
そして、困惑した様子でグリゼルダに尋ねたのだ。「トラヴィスって、一体誰ですか? そんな方、この世に存在しませんよね?」と──。
悪役令嬢にざまぁされた王子のその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。
その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。
そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。
マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。
人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。
くじ引きで決められた転生者 ~スローライフを楽しんでって言ったのに邪神を討伐してほしいってどゆこと!?~
はなとすず
ファンタジー
僕の名前は高橋 悠真(たかはし ゆうま)
神々がくじ引きで決めた転生者。
「あなたは通り魔に襲われた7歳の女の子を庇い、亡くなりました。我々はその魂の清らかさに惹かれました。あなたはこの先どのような選択をし、どのように生きるのか知りたくなってしまったのです。ですがあなたは地球では消えてしまった存在。ですので異世界へ転生してください。我々はあなたに試練など与える気はありません。どうぞ、スローライフを楽しんで下さい」
って言ったのに!なんで邪神を討伐しないといけなくなったんだろう…
まぁ、早く邪神を討伐して残りの人生はスローライフを楽しめばいいか
断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!
柊
ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」
ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。
「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」
そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。
(やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。
※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。
無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す
紅月シン
ファンタジー
七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。
才能限界0。
それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。
レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。
つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。
だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。
その結果として実家の公爵家を追放されたことも。
同日に前世の記憶を思い出したことも。
一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。
その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。
スキル。
そして、自らのスキルである限界突破。
やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。
※小説家になろう様にも投稿しています
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる