上 下
113 / 258
ツィアル国

109.思いがけないこと

しおりを挟む

 「ここで終わらせる!!」
 「子供は大人しく言うことを聞いていればいい! 『火は力となる<ファイアアロー>!」
 「<アクアフォーム>!」
 「無詠唱……!? それに防ぐだと! ならば――」

 俺を捕まえたいカーランは未だに殺さないようにミドルクラス程度の魔法を使ってくるが、呪いの解き方が判った今、俺が手加減する必要は無い。
 
 というわけで俺の気力が持つ間にこいつ倒さないといけないので、ファイアアローをアクアフォームでかき消しながら手足の一本はもらうつもりで斬りかかる。
 
 だが、浅い。

 出し過ぎた血が体力を奪い、思った動きが出来ていないからである。
 ローブの端を切り裂いたところでカーランが後ろの飛びのき、そこで顔を覆っていたフードが外れた。

 「……!」
 「くっ、見るな……!」
 
 カーネリア母さんと同じく長い耳とオレンジに近い髪の色。
 耳はエルフだと知っていたから問題ないし顔もエルフらしく美形なおっさんだが、左の額から頬、眉間のあたりに酷いやけどの痕が残っていた。
 
 ……それがなんなのかは取り押さえてからでいい。よほど見られたのが嫌だったようで俺を裏拳で殴りつけたのがその証拠だ。
 
 「下手に出ていればつけあがる……! 『敵を破砕――」
 「遅い! <ファイヤーボール>!!」
 「ぐ……『――せよ』<ファイヤーボール>」
 「チッ! たあああああ!」
 「馬鹿な!? 腕が吹き飛ぶぞ!?」

 カーランが目を見開いて叫ぶが、それくらい考えている。
 左肩にぶつかる瞬間、小規模のアクアフォームでファイヤーボールを受けて爆発の衝撃をある程度殺す。

 「ぐううううう……!?」
 「お前のは身体は貴重なんだ! もう動くな! 傷つけさせるな!」
 「うるせぇ!! お前が実験台にした人間は全員貴重な存在だったんだ、てめぇの都合で選別するんじゃ……ねえぜ!!」

 そのままカーランへと突撃し体当たりをぶちかますと、バランスを崩したカーラン。
 そこへマチェットを振り下ろし、梟のペンダントを切り裂いた。

 「これで……エリベールの、ウトゥルン家の呪いは終わりだ!」
 「な!? お前が何故それを……これか、『ブック・オブ・アカシック』か!」
 「その反応で十分だ、後はお前を――」
 
 せめてあと一撃、こいつの足を斬ってやればと思ったが不意に目の前が霞んだ。
 そう、身体に限界が来たからである、
 それでも、あの時に防具を買っていなければアイシクルダガーで動けなくなっていたはずなので、ここまでやれれば上等なのかもしれない。

 「ぐ……」
 「く、くく……ここまでだな、アル。予定とかなり変わったが……」
 「は、なせ……」

 カーランはふらつきながらも俺を小脇に抱えて歩き出す。
 
 「この剣もなかなかの切れ味だ、持って行くか……」
 「カーラン、そこで止まれ!」
 「子供を床に降ろして手を頭の後ろに――」
 「邪魔だ! 『燃え盛る業炎よ力を与えたまえ』<エクスプロード>!」
 
 薄目で前を見ると、爆発で兵士達が一瞬で吹き飛ばされているところだった。
 そして満足気……いや、狂気の笑い声声を上げながら魔法を連続であちこちに放ちだした。

 「はははは! アルを手に入れたのだ、よく考えれば破壊しつくしても構わないではないか! ははははは!!」
 「や、止めろ……無駄に攻撃する必要は……ないだろ……」
 「黙っていろ!」
 「あぐ……!?」

 カーランが俺を殴りつけて黙らせてきた。
 そのまま兵士や騎士が立て続けに出てくるが、困惑する彼らとカーランでは初動が違う。
 
 「く、くそ、魔法使いはまだ来ないのか!」
 「伝達が遅れているようで……しかし来たとしても、宮廷魔術師を相手にどこまでやれるか……」
 「根性を見せんか! 魔法が飛んでくる前に抑えればよかろう! 囲めば四方に撃つことはできまい。カーランめ、やはり逆賊であったか……」

 おお……なんかカイゼル髭のおっさんが熱血的なことを言う……頑張れ……
 と、思っていたが、

 「消えろ……!」
 「撤退、てったぁぁぁい!」

 あっさりアイシクルダガーとファイヤーボールの雨を撃ち込まれ、回り込むどころか撤退した。
 無理か……まだ遠巻きに見てはいるが、こいつを止めるほどの力は無さそうだ。
 
 「……っく」

 身体は動かない、か。
 どうする、このままじゃ俺は実験材料。どこへ行くかも分からない……。
 
 ま、エリベールの呪いが解けたからとりあえずは目的達成だな。
 みんなには悪いけど簡単に殺されることはないだろうし、このまま一緒に行って後で脱出を考えるか。

 俺がそんなことを考えていると――

 「がっ!?」
 「ええ!? ぶっ!?」

 俺を抱えている左肩が、レーザー光線のようなもので貫かれた!
 取り落とされた俺は顔から床に落ち、直後、背後から久しぶりの声が――

 「ゼル、あいつを」
 「あたしはアルを回収するわ」
 「ああ」
 「なんだ、お前達は……!? 速――」

 目だけをカーランに向けていたが、入って来た映像はここに居るはずの無いゼルガイド父さんが、魔法を撃とうとしていたカーランの右腕を吹き飛ばすところだった。
 変な形になっていたので間違いなく折れていると思う。
 
 そして、

 「アル! アル!」
 「カーネリア……母さん、なんで……」
 「喋らないで、ポーションを使うから」

 なぜかカーネリア母さんの姿まであった。
 幻覚かと思ったが、傷口にポーションをかけてくれ、飲ませてくれたところで俺はようやく意識がはっきりする。

 「ぷは……!? ど、どうやって来たんだよ!?」
 「話は後……と、言いたいところだけど、これで終わりかしらね」

 「わ、私は、英雄を――」
 「うるさい! ウチの子をあんな目に合わせた報いは受けてもらう!」

 俺が目を向けた先ではゼルガイド父さんがカーランの首を掴んで足を引っかけると、そのまま組み伏せ顔面をぶん殴った。
 一撃でカーランの身体はビクンと跳ねた後、動かなくなる。

 「逃げられないように足首を折っといてよゼル」
 「そうだな」
 「うわ……」

 冷淡に会話する夫婦。旦那は妻の言うことを受けた後、骨が折れる嫌な音がした。
 
 そんな二人だがカーランを縛り上げた後、俺を抱きしめて涙を流しながら口を開いた。

 「良かった……生きていたよゼル……」
 「ああ……流石、ウチの子だ……」


 ――俺はいつか出て行く他人だとずっと自分に言い聞かせてきた、双子にも、爺さん達だってそうだ。拾われただけであの家には本来居場所なんてない。
 みんなにもいつか元の国へ帰ると言っていたし。

 だけど二人が本気で泣くのを見て、俺はみんなにとっても分け隔てることなく『家族』だったらしい。
 
 それが頭に閃いた時、俺は子供らしく涙を流しながら答える。

 「ありがとう、父さん、母さん……」

 自然とそう口から出ていた。
 本当の家族だと、俺が意識した瞬間のような気がした――
しおりを挟む
感想 479

あなたにおすすめの小説

婚約破棄は誰が為の

瀬織董李
ファンタジー
学園の卒業パーティーで起こった婚約破棄。 宣言した王太子は気付いていなかった。 この婚約破棄を誰よりも望んでいたのが、目の前の令嬢であることを…… 10話程度の予定。1話約千文字です 10/9日HOTランキング5位 10/10HOTランキング1位になりました! ありがとうございます!!

そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』 フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。 それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。 そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。 イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。 異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。 何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

【完結】貴方たちはお呼びではありませんわ。攻略いたしません!

宇水涼麻
ファンタジー
アンナリセルはあわてんぼうで死にそうになった。その時、前世を思い出した。 前世でプレーしたゲームに酷似した世界であると感じたアンナリセルは自分自身と推しキャラを守るため、攻略対象者と距離を置くことを願う。 そんな彼女の願いは叶うのか? 毎日朝方更新予定です。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

婚約破棄ですって!?ふざけるのもいい加減にしてください!!!

ラララキヲ
ファンタジー
学園の卒業パーティで突然婚約破棄を宣言しだした婚約者にアリーゼは………。 ◇初投稿です。 ◇テンプレ婚約破棄モノ。 ◇ふんわり世界観。 ◇なろうにも上げてます。

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

処理中です...