上 下
111 / 258
ツィアル国

107.反逆の宮廷魔術師を追い詰めろ

しおりを挟む
 『ロラ!』
 『グラディスにいちゃん!』
 
 床に落とされたロラをグラディスが庇うように抱き上げ、まずは事なきを得る。
 
 これは罠で、魔法でロラを攻撃するか呪いでもかけていると思ったが、カーランはブック・オブ・アカシックに釘付けだった。
 そのため俺とグシルスはリスクなくヤツの懐に飛び込んでいく。

 『グラディスは一旦下がれ! ここは俺とグシルスでやる!』
 『承知……! すまん、アルフェン!』

 さすがの身のこなしで俺達とは別の方向に距離を取るグラディス。
 最悪、魔法で攻撃されても自分たちだけに攻撃を受けるように動いていた。

 「とった……! くくく……これで『英雄』へ一歩近づいた」
 「今から後退するけどな! 返してもらうぜ!」
 「下がれ! <エクスプロード>」
 「なりふり構わずかよ!?」

 カーランが振り払うように手を動かし略式詠唱のエクスプロードをまき散らすと、グシルスが驚愕しながら回り込むように駆け抜けていく。
 本チャンの魔法より範囲が狭いので、俺は姿勢を低くして回避し、まずは足を封じるため太ももに剣をぶっ刺した。

 「ぐ……」
 「ナイスだアル! ロッドが無いとガードは無理だな、もらうぜ」
 「舐めるな、人族風情が!! 『敵を破砕せよ』<ファイヤーボール>」
 「なんとお……! ぐはっ」
 「チィ……!?」」

 グシルスが左肩に剣を振り下ろすと同時に、目の前でファイヤーボールを腹に撃たれて吹き飛んでいく。
 鎧を着こんでいるおかげで致命傷にはならないだろうがマントは端から黒焦げになった。
 忌々しい相手が倒れこむのを見て口元に笑みを浮かべるが、それはまだ早いぜ!

 「くらえ!」
 「ぐう……大人しくしていろ……この本さえあれば……」
 「そいつは持ち主を選ぶらしい、どうせお前が持っていても宝の持ち腐れ。本と誘拐した人たちを返してもらうぞ。後エリベールの呪いも解け」
 「そんな我儘は聞けんなあ!! <ロックブラスト>!」
 「岩が……!? 小賢しいぞカーラン!!」

 砕けた壁や柱の岩を炸裂させて俺にぶつけてくる。
 この期に及んでも俺の身体は実験に使居たらしいが、この程度なら少々痛いが我慢すればいいだけ。

 「チェストぉぉぉ!」
 「ぐあああ!?」

 俺の剣がカーランの左胸を切り裂き、頬に血が返ってくる。そしてすぐにカーランの白いローブがじわりと赤く染まっていく。
 魔法には詠唱が必要なので、攻め続けてその隙を与えなければ魔法使い相手の戦いは有利が取れるという理論が実証された瞬間だ。
 その証拠にいくつか魔法を放ってきていたがエクスプロードですらグシルスを倒すまでにはいたっていないほど、略式詠唱で威力の落ちたものは直撃をしないかぎり致命傷足りえない。

 「よし! ……って、こいつ!?」
 「渡さんぞ! <アイシクルダガー>!」
 「うわ!?」

 まだ抵抗するか!?
 氷の刃が肩と左足に刺さり、俺は動きを鈍くする。直後、カーランに首を掴まれて床に叩きつけられた。

 「がはっ!?」
 「つ、摑まえたぞ……く、くく……ちょうどいい……」
 「な、にが……」

 チッ、動けない……
 体重差が大きすぎる。それにしてもちょうどいいとはどういう――

 「な、なんだこの惨状は!?」
 「カーラン様、ご無事ですか!」
 「賊だ、大臣もやられた。こいつらを捕える手伝いを頼む」
 「違う! こいつは――」
 「喋るな!」

 床に顔を叩きつけられ鼻血が出るのが分かった。血から放たれる鉄の匂いと味を感じながらどうするかと思考を巡らす。

 『動くなよ、魔人族の男。死なない程度に痛めつけることはできるんだからな』
 「ぐああ……!?」
 『よせ!』

 グラディスが片膝をついてロラを守るように抱いていると、カーランは別の人物に声をかける。

 「大将、貴様も手伝え」
 「あ? は、はい……!」
 「げほ……。っと、そこまでだ。大将、今がその時だぜ? 聞け! 俺の名はグシルス。シェリシンダ王国の騎士の一人だ!」
 「「「!?」」」

 大将と現場に困惑している兵士達が剣を杖代わりにして立ち上がったグシルスが大声で自身の正体を明かし、全員が彼に注目。
 ここで明かすのはリスクが高い気がするが、策があるのか?

 「知っての通り隣の大陸にある国の騎士だが、ここに居るのはもちろん理由がある。……あのクソ宮廷魔術師が指示を出してとある子供を誘拐してんだが、
 俺はその捜索に狩り出されたって訳。で、その子供はあそこで組み伏せられているヤツで、実行犯はそこの小太りのおっさん冒険者の大将だ」
 
 グシルスが不敵に笑いながら血を吐いて告発する。
 なるほど、大将が実行犯であることを突き止めていたのなら強気発言は可能か。
 後は大将が自白して認めれば、この兵士達が逆に味方に……なるといいけど……

 「くだらない……! おい、大将そんなことは無かった、そうだな?」
 「わ、ワシは……」

 俺と目が合うと慌てて逸らす大将。グラディスに仲間を殺されているから、嘘を吐く可能性は十分にあり得る。青い顔であわあわしている中、一人の兵士が一歩前へ出てカーランへ言う。

 「カーラン殿、誘拐の事実が違うと言うのであればその子供を解放していただきたい。それからシェリシンダ王国の騎士殿と、そこの魔人族の二人にも話を聞くべきでしょう」
 「必要ない」
 「……その二人は王宮の工事に従事していたはず。魔人族の子供は今、初めて見ました。一体どこにいたんでしょうか?」

 あ、この人、俺達を呼びに来た兵士じゃないか。

 というか状況がカーランを追い詰めるような形になってきたな、確かにロラを守る魔人族と、子供に鼻血を出させている宮廷魔術師ではどっちの絵面が悪いかって言ったらそういうことだと思う。

 「どいつもこいつも……私の邪魔をする……! 使いやすいと思ったがこの国はもういいか……」
 「なにを――」
 「『赤き熱、白き光が重なる時、眼前にある全てのものは形を無くす。燃え盛る業炎よ力を与えたまえ……』」
 「……!? まずい! みんな逃げろ!」
 「<エクスプロード>!」

 俺の叫びと同時に、完全版のエクスプロードが完成し、片手を天井に掲げた――
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~

平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。 三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。 そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。 アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。 襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。 果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。

婚約破棄されたので暗殺される前に国を出ます。

なつめ猫
ファンタジー
公爵家令嬢のアリーシャは、我儘で傲慢な妹のアンネに婚約者であるカイル王太子を寝取られ学院卒業パーティの席で婚約破棄されてしまう。 そして失意の内に王都を去ったアリーシャは行方不明になってしまう。 そんなアリーシャをラッセル王国は、総力を挙げて捜索するが何の成果も得られずに頓挫してしまうのであった。 彼女――、アリーシャには王国の重鎮しか知らない才能があった。 それは、世界でも稀な大魔導士と、世界で唯一の聖女としての力が備わっていた事であった。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

前世は悪神でしたので今世は商人として慎ましく生きたいと思います

八神 凪
ファンタジー
 平凡な商人の息子として生まれたレオスは、無限収納できるカバンを持つという理由で、悪逆非道な大魔王を倒すべく旅をしている勇者パーティに半ば拉致されるように同行させられてしまう。  いよいよ大魔王との決戦。しかし大魔王の力は脅威で、勇者も苦戦しあわや全滅かというその時、レオスは前世が悪神であったことを思い出す――  そしてめでたく大魔王を倒したものの「商人が大魔王を倒したというのはちょっと……」という理由で、功績を与えられず、お金と骨董品をいくつか貰うことで決着する。だが、そのお金は勇者装備を押し付けられ巻き上げられる始末に……  「はあ……とりあえず家に帰ろう……この力がバレたらどうなるか分からないし、なるべく目立たず、ひっそりしないとね……」  悪神の力を取り戻した彼は無事、実家へ帰ることができるのか?  八神 凪、作家人生二周年記念作、始動!  ※表紙絵は「茜328」様からいただいたファンアートを使用させていただきました! 素敵なイラストをありがとうございます!

処理中です...