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ツィアル国

103.国を亡ぼすために

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 ――王宮内 地下通路――

 「アルフェンと言ったか、この五日間観察をしていたが本当にただの冒険者のようだ。だが、魔法の素養はかなり高い……マナの制御が恐ろしく上手かったな。あの素養、そして若い体はいくらでも欲しい。顔の傷は気になるが、実験材料として早いところ捕まえておくか」

 陽も入らない王宮の地下通路を歩きながらカーランはぶつぶつとそんなことを口にしていた。
 ここは地下。彼が捕えた女子供を閉じ込めておく場所で、今日の『材料』を取りにきたところだ。

 「……しかし、一番欲しいアルという子供が居なければ実験意欲沸かないな。口減らしはせねば国庫に影響するからやらざるを得んが……。あれから10日近く経つというのに大将のやつはなにをしているのだ?」

 本人からも監視者からの連絡も無く、苛立ちを隠さないカーラン。
 実のところ、大将に付いていた監視は酒浸りの状態の彼を見て報告することが無いので放置していたりする。
 
 一人呟きながら、カーランはとある牢へ到着する。

 「……! あ、あなたが犯人ですね……こ、子供たちには手を出さないで、ください!」
 「……」
 
 村から攫ってきた人族の牢。
 魔人族が攫ったという捏造が欲しいため、定期的に攫うよう指示を出しているカーラン。今回はたまたま、目の前で睨みつけるオリィの村だったわけである。
 彼は子供を守るように立ちはだかるオリィを見た後、呟く」

 「……ただの人間には意欲が沸かん。アルフェン……あいつなら少しは面白い結果になるか? しかし魔人族の男が邪魔だな……む」
 「……ひっ……」
 「その魔人族の子を使うか――」


 ◆ ◇ ◆

 「あー、疲れたな……」

 風呂上りの俺はベッドに倒れこむとそのまま眠ってしまいそうな心地よさを感じて目を瞑る。

 ――現場仕事も慣れたもので、通訳をしながら簡単な土壁塗りくらいはできるようになってきた。
 金もきっちり払ってくれているので、飯を食って風呂に入り、ゆっくり休む。
 心地よい疲れの中、俺は明日の予定を考えていた。 

 「明日は魔法で固めるかな。外壁は手でやるより速いし。うん、だんだん楽しくなってきたな……って、違う!? クソエルフをなんとかしないといけないんだよ俺は!?」
 「どうした、でかい独り言だな?」
 「ああ、ごめん。ちょっと労働の喜びをかみしめていた」
 「たまにおかしなことを言うなアルフェンは」

 クスリともしないグラディスの言葉に言い返すことができず、俺は再びベッドに寝転がり、今度こそ次の手を考える。

 昨日、グラディスが寝た後に読んだ『ブック・オブ・アカシック』によれば、もう少し働いていればカーランに呼び出されるらしい。
 が、そこでは倒すことが出来ず、牢屋でオリィ達を逃がすのが目的だ。
 
 きちんと逃げ切れるそうで、できればそこでヤツがどれほど強いのかを確認したいところ。
 というか本当に尋ねたことしか書いてくれないのは不便だが、何も知らないよりマシと思うべきなのか……。
 ところどころ怪しい記述もあるのが気になる。
 
 それと、さすがに何度か読んで気づいたのだが『誰かが書いている』ような文章なんだよな。

 ‟村の人間はまだ無事なはず。カーランに呼ばれたら、王宮に泊めてもらい地下へ行くといい。グラディスは必ず連れて行くこと”

 とかな。
 エリベールの【呪い】についてはまったく無反応なので、知識が出鱈目。
 持ち主が知りたい情報が浮かび上がる、というのはぶっちゃけ7割くらいしか合っていない。
 まあ、教えてくれないものは教えてくれないので怒っても仕方がない。

 「明日に備えて寝るか……」
 「……夜分遅くに失礼します。ルイグラス様の使いで来ました。アルフェン殿のお部屋で間違いないでしょうか?」
 「……アルフェン、下がっていろ」

 グラディスが剣に手をかけた状態で応対すると、屋敷で見た護衛の人だった。
 そんなわけで、屋敷を出て五日目の夜、俺のところへルイグラスの使いがやって来たというわけ。
 
 <なにか進展があったんですかね?>

 リグレットが頭の中でそんなことを呟く中、護衛の人は話し始めた。

 「ルイグラス様が各地へ話をしに行って分かったことがありましたので、そのご報告と今後の対応についてです」
 「他の領地はどうだったんだろ? 貴族だけが裕福に暮らしているって話」
 「それが――」

 この人の話によると、貴族の件は半分当たりで半分ハズレ。
 魔人族の住むザンエルドの国に近い領地が三つほどありそこは、魔人族の子や人を攫う役割を与えられていたらしい。
 その領地は国……いや、カーランから資金調達が出来るため金回りが良かったのだとか。
 ルイグラス達の領地は放置され、そこにばかり金を費やしていたから冒険者に払う国庫はないのではとの見方だ。

 「そういうことか……でもよくこの短期間で調べられたね」
 「一つ、良心の呵責に苛まされていたところがありましてね、少し突いたら青い顔で吐きましたよ」
 「それでも優秀すぎると思うけど……」
 「それを言うならルイグラス様です。彼が護衛をあまりつけずに話し合いにいったわけですから」
 「だな。で、今後の対策とは?」
 「カーランの討伐になります」
 「!」

 おっと、大胆な話が浮いて来たぞ?
 話を聞いてみると、魔人族を攫わせていた貴族の状況告発にその他の単純に金の無い貴族達を従えて国に談判をするのだそうだ。
 そこで国王に問うてカーランを差し出せば良し。もし従わない場合は……

 「王宮を制圧するのか」
 「ええ。あらゆる領地から兵士と護衛を集めれば十分な力になります。一応、秘策もあります故」
 「そっか。俺は数日の間にカーランに呼ばれる可能性があるから、その後突撃になるかな? 王都から逃げてくる形になるから、俺も参加させてもらう」
 「ほう? まあ、問題ないかと思います。私は先行してきましたが、すでに動いています。数日中にはここへルイグラス様がやってくるでしょう」

 なるほど、そりゃ頼もしいや。
 だけど俺は一つ、気がかりなことがあったのでそれを告げておく。

 「オッケー。……だけどカーランは【呪い】の使い手だ。その仲間になった貴族は注意した方がいい。俺はガーゴイルをけしかけられたことがあるからな」
 「【呪い】、ですか……? そんなことが……」
 「俺の目的の一つはあいつの解呪法を知ることなんだ。だから、ヘマはできないし、しない」
 「わかりました、お伝えしておきましょう」

 手遅れかもしれないけどな、とはあえて言わない。慌てて戦意が崩れるのもまずいからな。

 ――かくして、俺が思うよりも大規模な反攻作戦になる話を聞き、グラディスと共に気を引き締めて、その日は寝た。
 図太いとかいうなよ? 睡眠は大事なんだぜ?

 そしてさらに二日後、予定調和のカーランに呼び出される日になったのだが――
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