上 下
103 / 258
ツィアル国

99.アルフェンの策

しおりを挟む

 門番のところからさらに歩き、王都のギルドへとやってきた俺達。
 彼らの話を聞いてから町を見ると、改めて異質な場所のような感じがして背筋が寒くなる。

 まあ、俺としてはこの国がどうなっても出来ることは無いので、エリベールのためだけに注力するつもりだ。
 国を救うなんて大層なことが、たかだか10歳の子供にできることはない。
 ただ、クソエルフに相応の礼はさせてもらいたいのでこの場にいるわけだが。

 「とりえあず依頼を見てみよう」
 「そうだな」
 
 グラディスが扉を開けて中へ入ると、喧騒に包まれている室内が広がっていた。
 ゲイツの居たギルドに比べれば多い方だが、規模の割には……って感じだな。
 俺が室内を見渡しながらそんなことを考えていると、喧騒が止み、俺達に注目してきた。

 「見たことねえ面だな」
 「まあ、別にそこは気にすることじゃねえが……」
 「なんで子供を肩車した男がギルドへ入って来るんだ? ははっ、子守りは家に帰ってやってくんねえか?」
 「お!? お、降ろしてくれグラディス」
 『分かった』

 そういえば肩車されたままだった……
 俺はしゃがんだグラディスの肩から降りると、こっそりマチェットを取り出して腰に装備。

 『ごめんグラディス。なんか久しぶりに目線が高かったからそのままにしてたよ』
 『別に構わん』
 
 「お、おい、魔人族だぞあいつ……」
 「みたいだな……他の町ならまだしも王都に来ているとは……命知らずか」

 俺が地上に降りて再び並び立つと、どよめきが起こる。
 魔人はどこに行っても恐れられているけど、妙に突っかかってくる奴が居なくなるのはありがたい。
 
 とりあえず、どこも似たようなもんなんだなと思いつつギルドの受付カウンターへと向かう。

 「……なんだ、坊主」
 「俺はアルフェン、こっちは魔人族のグラディスって言うんだ」
 「ギルドカードを持ってんのか? どこで作った?」
 
 ギルドの受付って漫画とかだと女性が多いのにこの世界はいかついのばっかりだな……

 「えっと、ゲイツって人と適正があるか確かめて貰って合格したんだ」
 「ゲイツか!? ほう、見た感じ偽物でもねえし、坊主は戦えるんだな?」
 「一応ね。誘拐されて、身一つになったから嫌でもこうなるさ。グラディスが居なかったら野犬の餌だった」
 「……」

 顎髭を撫でるおっさんと、俺達を興味深げに見てくる冒険者達。
 しばらく無言だったが、おっさんは口元をにやりと歪め、俺の頭に手を置いて口を開く。

 「がっはっは! 生意気な坊主だな! だが、自分のことをよく分かっている。……それに、その魔人族も打算でついてきているわけじゃなさそうだしな」
 「ん」

 俺の頭に手が置かれた瞬間、グラディスが腰の剣に手をもっていき、抜きかけていたのだ。俺になにかあれば容赦しないとでも言いたいのだろう。
 
 「カードがあるなら冒険者仲間だ、歓迎するぜアルフェン。俺はギルドマスターのイゴールだ。冒険者の育成には力を入れていねえから俺一人で切り盛りしている」
 「話が早くて助かるよ、イゴールさん」
 
 俺が握手をしていると、何故か拍手とでかい声で歓迎される。

 「坊主、気合入ってんな! 誘拐されて生き延びたんなら運がいいんだ、冒険者向きだ!」
 「そもそも魔人族と一緒にいる子供ってのがやべえけどな!」

 「そっちの魔人族の兄ちゃんはしゃべれねえのかい?」
 「イゴール『さん』って面かよ、イゴールでいいって」
 「あはは、ギルドマスターだから流石に」
 「ヨロ……シク」
 「喋った!?」

 グラディスが仏頂面で握手を求め、一通り挨拶をしたら元の喧騒に戻っていく。
 
 「よう、騒がしくしちまったな。新しい冒険者ってのも最近は増えなくてな。町で店をやったり雇われたりするヤツらが増えてんだ」
 「安定を求めているってことか」
 「まあ、そんなところだな。ただ、魔物は減らないのに兵士は遠征を出さない。こっちも数に限りがあるから早々出ることもできねえ。見ろよ、この依頼の数」
 「うへえ」

 掲示板に貼られた依頼票を見ると、周辺の町や村といった場所からの依頼で、魔物討伐がほとんどだ。

 「聞いたことも無い魔物もいるな……どれにするか」
 『なんでもいいぞ。ここに書かれている文字はよくわからんから一応、何を倒すかだけ教えてくれ』
 『オッケー。いや、待てよ……』
 
 俺は大量の掲示板からランク分けされた魔物の依頼を数枚はぎ取ってからイゴールの前に置いた。

 「これ全部受ける。まだ陽は高いし、いけると思うんだ」
 「はあ!? ま、まあ、受けるだけなら構わないけどよ……こいつなんて危険度Aランクのスラッシュベアだぞ?」
 「グラディスが居るから大丈夫だよ」
 「こいつもBランクの――」

 と、心配してくれたのか色々と危険な理由と、楽そうな昆虫退治を促してくるが「グラディスが居る」で押し通して依頼を受領することに成功。

 周りの冒険者も心配してくれたあたり、みんないいヤツっぽい。
 冒険者は持ちつ持たれつ、足を引っ張ったら死が早まるとか言ってたなあ。分かる気がする。

 というわけで外に出た俺達は早速依頼をこなしに現場へ向かう。
 その途中、グラディスが声をかけてきた。

 「一気に依頼をこなすのはいいが、なにか理由があるのか?」
 「うん。変な目立ち方はまずいけど、名誉ある目立ちはありだ。今日から面倒そうなのと、数をこなせば一目置かれるはず。もしかしたら、城に入る口実ができるかもしれない」
 「なるほどな。それなら、回転率を上げていくか――」

 なぜかグラディスが張り切って鼻息を荒くし、俺達は魔物退治へとしゃれこむことになった。


 ◆ ◇ ◆

 
 「グラディス! 追い込んだ!」
 「任せろ!」
 「グォォォォ!」

 今回の依頼は四つ。
 その内三つはすでに終わらせ、日が暮れた暗闇で赤い瞳のでかい熊を追い込む俺。
 小規模のファイヤーボールで移動先を封じ、今、グラディスが待ち構えている場所へ誘導できた。

 「すまんな、たぁぁぁぁ!」
 「よっしゃ!」
 「グゴォォォ……」

 四つん這いに眉間に大剣が振り下ろされ、鮮血をまき散らしながら重い体を横たえた。

 「ふう、俺の剣じゃこの毛皮をボロボロにしてしまいそうだったから助かった」
 「いや、お前の歳でこいつに刃を立てられるのが凄いんだがな? ……さて、帰って夕飯にするか」
 「だな。金にもなるし、いいことだな」

 ――俺達は町へ戻り換金すると、キャンプ飯でない食事を摂ってゆっくり休み、翌日からも精力的に活動をすることになる。
 
 さて、これが正解か? 結果は――
 
 
 
しおりを挟む
感想 479

あなたにおすすめの小説

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

悪役令嬢を陥れようとして失敗したヒロインのその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
女伯グリゼルダはもう不惑の歳だが、過去に起こしたスキャンダルが原因で異性から敬遠され未だに独身だった。 二十二年前、グリゼルダは恋仲になった王太子と結託して彼の婚約者である公爵令嬢を陥れようとした。 けれど、返り討ちに遭ってしまい、結局恋人である王太子とも破局してしまったのだ。 ある時、グリゼルダは王都で開かれた仮面舞踏会に参加する。そこで、トラヴィスという年下の青年と知り合ったグリゼルダは彼と恋仲になった。そして、どんどん彼に夢中になっていく。 だが、ある日。トラヴィスは、突然グリゼルダの前から姿を消してしまう。グリゼルダはショックのあまり倒れてしまい、気づいた時には病院のベッドの上にいた。 グリゼルダは、心配そうに自分の顔を覗き込む執事にトラヴィスと連絡が取れなくなってしまったことを伝える。すると、執事は首を傾げた。 そして、困惑した様子でグリゼルダに尋ねたのだ。「トラヴィスって、一体誰ですか? そんな方、この世に存在しませんよね?」と──。

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

Another Of Life Game~僕のもう一つの物語~

神城弥生
ファンタジー
なろう小説サイトにて「HJ文庫2018」一次審査突破しました!! 皆様のおかげでなろうサイトで120万pv達成しました! ありがとうございます! VRMMOを造った山下グループの最高傑作「Another Of Life Game」。 山下哲二が、死ぬ間際に完成させたこのゲームに込めた思いとは・・・? それでは皆様、AOLの世界をお楽しみ下さい! 毎週土曜日更新(偶に休み)

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...