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ツィアル国
89.村と言語
しおりを挟む「意外と居合わせないな」
「森は広いから、出くわすのはあまりない。魔物は動物だったころとは違い、夜の方が活発になる。狙い撃つなら夜だが――」
「それだと俺達が不利、だろ?」
俺の返しに満足だといった感じで頷くグラディス。なんか道中ずっとうんちくを講釈してくれ、冒険者の心得のようなものを聞いたが、為になるものばかりだった。
そんな俺達は二頭目を倒した後、荷車を引きながら最低討伐数の三頭目を探していたのだが、見つからない。
そろそろ二時間は経過するが、気配すらなかった。
俺としてはゲームみたいにもっと遭遇するもんだと思っていたんだが、グラディス曰く、魔物も警戒するので気配を殺して歩かないと向こうが逃げることもあるのだとか。
<半日出会わないとかもあるらしいですね>
「それで三頭討伐は難しいよなあ。やりたがらないわけだ」
「なんだ?」
「いや、なんでもない。っと、煙が上がっているぞ!? 山火事か!」
ふと空を見ると灰色の煙が立ち昇っていたので、俺は驚いて声を上げる。
山火事の勢いはとんでもないことを知っているので尚のことだ。
だが、冷静なグラディスが口を開く。
「近くにある村から上がっているのだろう。パンか鍛冶か……わからんがその類のものだろう」
「村か……そういえば立ち寄れって本が言っていたような……? グラディス、ちょっと休憩しないか? 被害受けているなら出現するかもしれないし」
「む、そうだな。まだ陽は高いし、一休みといくか。ああ、その時はアルフェン、通訳を頼むぞ」
「え?」
いそいそと荷車を引いて前へ出ると、グラディスがそんなことを言いだしたので首を傾げる。
「俺は人間の言葉はそれなりにしか話せない。早口だと理解も難しいんだ。だから通訳を頼みたい」
「お安い御用だ! グラディスには世話になっているし」
実際そうだからなあ。
日はまだ浅いが、こいつが困っていたら俺は助ける。と思うくらいには恩があるのだ。
ちなみに、ギルドは色々な種族が来るので言葉は喋れるのでゲイツは違和感なく聞けたというからくりである。
そうこうしているうちに村の柵が見えて来たが、それと同時に地響きのような振動と、悲鳴が聞こえて来た。
「きゃあああああ!」
「グラディス!」
「ああ……!」
荷車を引いている俺はすぐに動けないので、グラディスが一気に駆け出し村へと向かう。
遅れてついていくと、悲鳴があった地点へ行くと、柵が破られているのが見え、急いで現場に向かうと――
「ふう……」
もう終わっていた。
地面には尻もちをついている女性と、相変わらず一撃で落としたと思われるジャイアントタスクの頭が転がっていた。
『ダイラアヤ』
「は? え?」
「大丈夫か、って言ってるよ」
「え? 子供……? ええっと、はい……」
「おーい、今の音はなんだ!?」
「あ、みんな! 今魔物が――」
腰が抜けたのか、女性は尻もちをついたまま駆けつけて来た村人へ声をかける。
俺達はすぐに囲まれ事情を聞かれた。
「ま、魔人……」
グラディスの角を見て魔人ということを訝しんでいたが、女性が魔物を倒したのは彼だと言ってくれたおかげで警戒と緊張が少し解けた。
「ふむ、助かったようだ。あれを倒せないとは言わんが、被害はそれなりにでる。それを一撃とはな」
「気にするなってさ。俺達、ちょうどこいつを討伐する依頼を受けているんだけど、ちょっと休憩がてら村に寄らせてもらったんだ」
「君も冒険者かね? もちろんだ、そこで提案なんだが倒した個体と、その荷台にあるジャイアントタスクの肉と素材、買い取らせてもらいたいのだが、どうだろう?」
「え?」
グラディスに通訳すると、
「いいんじゃないか? 討伐した証である牙をもっていけば依頼自体は終わったことになる。こんなに食えないし、欲しい分を売り払うといい」
とのことだった。
相場はグラディスに聞けばいいし、小遣い稼ぎといくか。
「オッケー、こっちの兄ちゃんの知っている相場とすり合わせて行こうか」
「ふっふっふ、元気な子じゃのう。ワシは村長のザーイと言います」
「俺はアルフェン。こっちはグラディスだ」
「よろしくお願いします。では、こちらへ。オリィ、ウチへ案内して差し上げなさい」
「はい、お父さん!」
おっと、村長の娘さんだったのか。
16歳くらいか? マイヤとはぐれたのは何歳だっけ……となんとなく思い浮かべるような笑顔をした子だ。
とりあえず休憩させてもらいますか。
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