89 / 258
ツィアル国
85.旅の開始
しおりを挟む最初に村まで来た道を今度は下っていく。
馬車も馬も無いので、身軽ではあるが、町まで一度はキャンプになりそうだ。
接収した馬車があれば休むのに少しは安全だが、ニーナ達が使うため持っていかれたのと、馬車は目立つので断念した。
ま、めちゃくちゃ急ぐ旅でもないので疲れたら休みつつまずは‟大将”達が目指した町へ行くことに決めた。
グラディスという10歳の俺には心強すぎる味方がいるので大将をとっ捕まえて吐かせるのもアリか。俺の中身は35歳だから、こいつより年上なんだが。……だよな?
「……グラディスって何歳なんだ?」
「いきなりなんだ? 今いくつだったかな……多分103歳くらいだったはずだ」
「あ、そうか」
エルフと一緒で寿命が長いんだったな。
カーネリア母さんより若いから……えっと、多分30行ってないくらいか?
ふむ、精神的余裕は俺の方が上だな、きっと。
「なんで得意気なのか分からないが、疲れたら言うんだぞ」
「ありがとう。一日くらいなら大丈夫だよ、鍛えているし」
「あの夜も思ったが、アルの剣は立派だな。見たことのない形をしているのも興味深い。イークンベルではそれが基本なのか?」
「いや、これは俺のワンオフ武器なんだ。もっと大きくなったらしっくりくると思う」
少しだけマチェットを鞘から抜いて笑うと、グラディスが貸してくれというので腰から外して鞘ごと渡す。
立ち止まってから抜いた後、目を細めてから軽く振る。ああ、キレイな太刀筋だなと思っていると小気味よい金属音と共に俺に返してくれた。
「……どこで作ったんだ? 切れ味、重さ、グリップ。どれをとっても申し分ない。さぞや名匠に違いない……俺も一本欲しい」
「あー、これは俺が産まれた時に両親にもらったんだ。だから出所は分からない」
「そうか……ご両親に話しを聞きたいものだ。まだ健在なのだろう?」
咄嗟についた嘘に食いつく。よほどこのマチェットが気に入ったようだが、まさかいつの間にか手にしたとは言いにくい。
なので真実を話しておこうと思う。
「実は、イークベルン王国の両親は本当の両親じゃなくて――」
一通り、ここまで来た経緯を話す俺。
こう改めて話すと、俺って他人が耳にしたら不幸というか不遇というか波乱万丈だと思う。
冷静に話せるのは中身がおっさんだからで、本当に10歳なら屋敷襲撃で死んでいるだろう。イルネースが馬鹿笑いするのが目に見える。
で、全部の話を聞いたグラディスが顔を逸らした。
「あれ? グラディス、泣いているのか?」
「くっ……大変な人生だったのだな……」
ホントに泣いてた。
「はは、身体がでかいのに涙もろいんだな」
俺は苦笑しながらグラディスの背中を叩いて歩くように促す。
するとグラディスは突然、俺を抱え上げて肩車を始めた。
「なんだよ!?」
「アルは偉いな。両親が殺され、復讐に身をやつしても他人を思いやれる。それは誰にでも出来ることじゃない。今、こうして苦難にあっても泣き言も言わず前を向いている」
「ま、まあ、くよくよしても仕方ないからな。だけど、俺は必ず黒い剣士を見つけ出して……殺す」
グラディスの頭を掴んで声を低くして呟くと、彼は軽く頷いて口を開く。
「ふむ、それはそれで調査してもいいかもしれないな。カムフラージュにもなる」
「というと?」
「ギルドだ。ツィアル国の王都は難しいかもしれないが、今から行く町ならまだカードを作りやすいはずだ。本当の名前、アルフェンで登録すれば、名前だけで判断はできないだろう」
おお、そりゃいい案だ。
どこまで着いて来てくれるか分からないが、金を稼ぐ手段として冒険者として活動をすること自体いつかはと考えていた。
イークンベルでゼルガイド父さんに言ったら金は心配するな、騎士を目指せって真顔で言われたからな……一旦ライクベルンに帰るってのに……。
さて、そんな状況でグラディスが完全に味方になってくれたのでこれから安心して冒険者としてやっていこうと思う。
確かにアルとしか呼ばれていないからアルフェンと登録しておけば、顔を見られるまで……いや、クソエルフは顔を知らないから、なんか功績を立てれば城に近づけるか……?
「よし、それでいこう」
「どうした、小便か? 頭にするのはやめてくれよ」
「しないよ!?」
そんなやり取りをしながら山を下り、まだ血痕の残るあの現場を通り過ぎてキャンプをやった後、さらに歩くこと数時間――
「ふう、やっと見えてきたな」
「ああ。ベッドが恋しいだろう」
「そんなにやわじゃないっての。行こう」
町の入り口が見えてくると、わくわくしてくるのは仕方がない。
門番からの質疑応答はグラディスがをさっさと終えてくれ、町の中へ。
……魔人ではあるけど、いがみ合っているわけではないらしい。あくまでも誘拐事件に関りがある者を調べているということだ。
国としてきちんと抗議しているが、それが変わらないため、こうしてグラディスたちが秘密裏に動いているのだとか。殺すこともあるのが物騒だが……
「……普通の町だな」
「それはそうだろう……ほら、宿に行くぞ」
「ギルドは?」
「もう日が暮れる。今日のところは疲れているだろうから宿で休むといい」
そう言って俺の背中をポンと軽く押して歩くことを促す。
生活レベルはイークンベルの町と変わらないので普通と称した俺。
そう思えば港町があそこまで寂れていたのは逆になにがあるのか?
いや、この町もどこか怪しい場所があるのかもしれない……貴族だけが旨味を吸う国、か。
俺はフードで口を隠し、目だけで周囲を確認しながら宿へと向かった。
1
お気に入りに追加
198
あなたにおすすめの小説
復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜
サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」
孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。
淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。
だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。
1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。
スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。
それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。
それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。
増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。
一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。
冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。
これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。
「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~
平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。
三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。
そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。
アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。
襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。
果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。
婚約破棄されたので暗殺される前に国を出ます。
なつめ猫
ファンタジー
公爵家令嬢のアリーシャは、我儘で傲慢な妹のアンネに婚約者であるカイル王太子を寝取られ学院卒業パーティの席で婚約破棄されてしまう。
そして失意の内に王都を去ったアリーシャは行方不明になってしまう。
そんなアリーシャをラッセル王国は、総力を挙げて捜索するが何の成果も得られずに頓挫してしまうのであった。
彼女――、アリーシャには王国の重鎮しか知らない才能があった。
それは、世界でも稀な大魔導士と、世界で唯一の聖女としての力が備わっていた事であった。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。
前世は悪神でしたので今世は商人として慎ましく生きたいと思います
八神 凪
ファンタジー
平凡な商人の息子として生まれたレオスは、無限収納できるカバンを持つという理由で、悪逆非道な大魔王を倒すべく旅をしている勇者パーティに半ば拉致されるように同行させられてしまう。
いよいよ大魔王との決戦。しかし大魔王の力は脅威で、勇者も苦戦しあわや全滅かというその時、レオスは前世が悪神であったことを思い出す――
そしてめでたく大魔王を倒したものの「商人が大魔王を倒したというのはちょっと……」という理由で、功績を与えられず、お金と骨董品をいくつか貰うことで決着する。だが、そのお金は勇者装備を押し付けられ巻き上げられる始末に……
「はあ……とりあえず家に帰ろう……この力がバレたらどうなるか分からないし、なるべく目立たず、ひっそりしないとね……」
悪神の力を取り戻した彼は無事、実家へ帰ることができるのか?
八神 凪、作家人生二周年記念作、始動!
※表紙絵は「茜328」様からいただいたファンアートを使用させていただきました! 素敵なイラストをありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる