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ツィアル国

82.魔人の住む村

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 「わあ……!」
 「こりゃすごいな」
 「たかーい!」

 ――襲撃からさらに一日と少し。

 俺達は魔人たちが暮らしている山の村へとやってきた。
 道……といっていいのか分からないが一応、馬車が通れる崖のような場所を登り、一日のキャンプを経てここまで来た。
 
 この時点で標高は1500くらいか?
 大した高さじゃないのに一日キャンプしたなんて思うかもしれないが、日本の登山できる山と一緒にしてはいけない。
 直線で登れない上に悪路、さらに魔物も出るしで相当きつかった……。

 まだ上はあるけど、ここに居を構えているらしい。
 ちなみにこの山を越えると、魔人たちがたくさんいる大地が広がっているとグラディスが話してくれた。
 
 さて、とりあえず冒険者達の馬と荷台は接収したわけだが襲撃をしたことに触れないといけないだろう。

 ツィアル国と魔人達の国である‟ザンエルド”は同じ大陸にあるので国交は当然あるのだが、10年ほど前から町で子供が誘拐されることが増えたらしい。
 しかも嫌らしいことに、商人を装って貧しそうな子に物で釣ってから行方をくらますという手口で。
 そのまま商人を追えば良さそうなものだが、そのあたりは考えているようで途中で積み荷を変えたり、船で別の場所へ送ってみたりと一筋縄ではいかないそうだ。

 なので、今回もそういう類で子供が連れて行かれているのかと思ったみたいだが、俺達だったというわけ。
 ひと月に数人、フッと居なくなるので警戒はしているものの尻尾は掴めない、と。

 「おー、帰って来たのかグラディス!」
 「長。ああ、ツィアル国の人さらいを処分してきた」
 「見ろよ、三人だ」

 ザグルスが得意気に笑いながら首を出そうとしたので、俺はニーナたちから見えないよう視界を塞ぐ。

 「?」
 「なんだよ兄ちゃん、景色見たいぜー」
 「うんうん」
 「色々と台無しになるからな? ザグルス、片付けてよ目に毒だ」
 「お、確かにそうだな! アルは賢いな!」
 「ザグルスがアホ……もとい、気が利かないだけだから」
 
 会話が成り立つのは俺だけなので、ニーナたちは笑顔なものの首を傾げている。 
 
 「ははは、誉めるなよ」
 「誉めてないぞ……長、我等の子らは発見できませんでしたが、この子達を保護しました」
 「む……? 人族の子か……」

 俺達を見て難色を示す長と呼ばれたおじさん。
 まあ、誘拐された種族の身としては子供と言えどもいい気はしないか。むしろ同族でやっている愚かな連中と思ってそうだしな。

 「愚かな人間の子を連れて来てどうするのだ? 処分しておいた方が良いと思うがな? 成長して牙を剝くかもしれん」
 「そう言うな長。そんなことをすれば、愚かな者と同列になってしまう。彼らは俺が責任を持って元居た町へ返す。なに、すぐに出立する」
 「……まあ、すぐならいいか」

 目を細めて見てくるおっさんの目は鋭く、ニーナが怖がって俺の後ろに隠れる。
 なんとなく、腹が立ったので俺は一歩前へ出て頭を下げてから口を開く。

 「すみませんね、すぐ出て行くから少しだけ頼むよ。あのままだとこっちの四人はどうなってたか分からないし、グラディスさん達には感謝しかないよ」
 「うお!? こ、小僧、我等の言葉が分かるのか……!?」
 「まあ、一応」

 俺が肩を竦めていると、イレイナさんがおっさんの背中を叩きながら大笑いしていた。

 「この子はアル。めちゃくちゃ賢いんだ。なんか本を読んだだけで話せるようになってさ、私達もびっくりしたよ」
 「痛い痛い!? この馬鹿力め! ……ふん、まあいい。おかしなことをしたら処分するからな!」

 踵を返して去っていくおっさんに俺は舌を出してからかうように見送った。
 そこでザグルスとガブロフも歩き出す。

 「んじゃ、俺達はこれを納めに行くからまたな!」
 「……またな、アル。他の者を守ろうとしたお前の勇気、俺は素晴らしいと思うぞ」
 「ん、ありがとう」
 「あ……」

 ガブロフはフッと笑いながら俺を含めた子供達の頭を撫でた後、片手を上げて去って行った。彼は男の俺から見てもクールでカッコいいキャラである。

 「では俺も戻ろう。グラディス、出るときは声をかけてくれ。必ず行く」
 「ああ」
 「ヒデドン、またな」
 「うむ。ハク、ご飯をいっぱい食べろよ」
 「はーい!」

 毛むくじゃらの髭をしたヒデドンはハクに髭を引っ張られながらも嫌な顔をせず立ち去る。出会った人物の中で、唯一、娘が誘拐されているのが彼で、必死に探しているとはグラディスの言葉。
 
 「はーい、それじゃ子供達は私の家でお風呂とご飯にするわよ! はいはいはい♪」
 「わわ、ちょ、イレイナさん!? 兄ちゃんー!?」
 「わはー! お姉ちゃんの肩車ー!」
 「ふふ、良かったねハクちゃん」
 「うう……魔人がいっぱい……」

 楽しそうにイレイナが四人を引っ張っていき、俺とグラディスが残された。
 最初に目を合わせた人物だが、感情の出し方が下手くそすぎてハクに二回泣かれていたりする。ショックでそれ以来近づいていない。

 「ま、人族……でいいのか? それが誘拐なんてしてたら気に入らないだろうな」
 「まあな。人族とは良好な関係を築いていきたいのだが、これが現実だ。殺すのも気分がいいものではないが、長の命では仕方がない」
 「ふうん、魔人って無敵の存在だと習ったけど、俺達と変わらないな」
 「そりゃあ、エルフ族だって寿命が長い以外はそれほど違いはないし。……【魔神】まで鍛え上げればあるいは――」
 「え?」
 「いや、なんでもない。それより、町に返すまでもう少し我慢してくれ」

 グラディスが俺に向きなおり頭を撫でてくる。
 魔人に会ったら食べられるとは完全なデマだな……っと、町へ帰れるのはいいけど、俺はどうするかな?

 このまま港町に戻っても船でイークベルンに戻れるとは思えない。
 ツィアル国のクソエルフに会いに行くのはアリのような気もするが、冒険者相手でも一人で倒すのはしんどい。
 
 <戻れるなら戻った方が良くないですか?>

 その通りではあるんだけど……ここは『ブック・オブ・アカシック』を頼ってみるか?
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