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ツィアル国

72.我が家へ

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 「結局、我々の出番はありませんでしたな」
 「往復の護衛というだけでもありがたいです。出しゃばらないのは大人だなって思いましたよ」
 「シェリシンダの騎士達も優秀ですからね。野盗戦でお役に立てたのはアル様とエリベール様の護衛として努めることができて光栄ですよ」

 途中の町で一泊してそろそろイークベルン王国へ到着する馬車内。
 ゼルガイド父さんの部下である騎士とそんな話をしながらゆっくりと進んでいた。

 実際、向こうについてからはグシルス達、シェリシンダの騎士達が大活躍で、俺達の護衛としてついてきた彼らはずっと後衛で見守ってくれていた。
 決して役に立たなかったわけではない。

 「……ヴィクソン家のことは解決したとしても、大変な事態であることに変わりはありませんね。ゼルガイド団長と陛下に報告をお願いします。シェリシンダは友好国、二国が協力すればツィアル国の侵攻も防げましょう」
 「ですね。……ツィアル国……カーラン、か」

 イケメンと言って差し支えない副団長の神妙な顔に、俺は窓の外に目を向けて生返事をする。

 というのも、宿で一人になった時、ツィアル国の前に宮廷魔術師であるカーランを倒す必要があるがその青写真が見えないからだ。

 あと四年と見るか、四年しかないと見るか……
 あれだけ大見えを切った以上、呪いを解くために奔走しなければいかんのだが、方法がなあ……

 「さて、長旅お疲れさまでした。このままお屋敷につけますから」
 「ああ、ありがとうございます。ウェンツさん達もゆっくり休んでください」
 「はは、次期シェリシンダの国王様にそう言ってもらえるとは、ますます光栄ですね」
 「や、やめてくれ……」
 「いいと思いますけどね私は。お似合いですよ」

 副団長め、いつか弱みを見つけてその笑顔をひきつらせてやる……
 などと、どうでもいい恨みを向けていると屋敷に到着。
 ウェンツさんと別れ、俺は一人、久しぶりの我が家へ足を踏み入れた。

 「なんだかんだで十日近く出てたんだよな。そろそろルーナもカーネリア母さんやゼルガイド父さんにべったりになったかな? ただいまー……って、あれ?」

 屋敷に入るとシン……と静かな玄関に奇妙なものを感じて訝しむ。
 明かりはついているが、普段なら使用人があちこちに居るので誰かしら声をかけてくれるんだが、静かすぎる。

 リビングへ行こうとした俺の前に、メイドが現れて目が合う。

 「アル様……!! 戻られたのですね!」
 「ただいま。カーネリア母さんは? 双子も姿が見えないけど」
 「こちらへ!」
 「わあ!? どうしたのさ!」

 血相を変えたメイドが手を引き階段を駆け上がっていく。俺は体勢を立て直して追いかけていくと、双子の部屋の前へ。

 「まさか、あの二人になにかあったのか!?」
 「ルーナ様が……」

 あのテロ事件からこっちには手を出して来ないだろうと踏んでいたが、甘かったのか?
 俺は慌てて部屋に入ると、ベッドで寝込むルーナが目に入り鼓動が高くなる。
 両親とルークはベッドの横で深刻な顔をしていた。

 「……困ったわね」
 「こんなことになるとは思っていなかったからな……」
 「ルーナ、はやくよくなってね」
 「ふう……ふう……」

 荒い呼吸をするルーナ。
 もしかしてもう末期とかじゃないよな?
 
 「ただいま! 一体何があったんだ!?」
 「え? アル!? 帰って来たのかい?」
 「うん、ひと段落ついたから……それよりルーナは!?」
 「それが……」

 俺はゼルガイド父さんの言葉を待たずに、ベッドへ駆け寄りルーナに声をかける。

 「ルーナ、大丈夫か……? 俺だ、帰って来たぞ」
 「ふう……ふう……アルにいちゃ……?」
 「ああ、どうした? 痛いところとか――」
 「……アルにいちゃ!」

 ルーナの頭を撫でてやると、薄目だったルーナの目がカッと見開いた。
 直後、撫でていた俺の手の感覚がなくなり、鳩尾に重い一撃を受ける。

 「ぐほっ!?」
 「アルにいちゃだ! アルにいちゃだぁぁぁ!」
 「わ、げんきになったよ!」
 「ちょ、ルーナ、離してくれ!?」
 「アルにいちゃだぁぁぁぁ! わぁぁぁい!!」
 
 さっきまで死にそうな顔だったルーナは俺に抱きつき俺の名前を連呼する。
 それはもうめちゃくちゃ元気にだ。

 「呪いをかけられていたんじゃないのか!?」
 「あらま、すっかり元気になっちゃったわね。呪いってなに?」
 「それよりルーナをなんとかしてよ!?」
 「あー、ダメだな。今ひきはがそうとしたらルーナに嫌われる。パパは嫌だから我慢しろアル」
 「にいちゃ、ぼくもだっこ!」
 「ああああ、ルークまで!?」
 「アルにいちゃー♪」

 語彙力が無くなったルーナがきゃっきゃと俺の正面から抱き着き、振りほどこうとしても離れない。
 それを見たルークも面白がって背中によじ登ってきて、俺の前後はカオスになった。

 しばらくそんな感じでバタバタと大暴れした後、満足したルーナがルークを押しのけて背中に張り付いたところで、リビングへ集まることになる。

 「ふう……帰宅早々、大変な目にあったな……」
 「アルにいちゃ、あーん!」
 「はいはい」

 椅子に座るとルーナは俺の膝へ乗り、ケーキを食べさせてくれる。
 どかそうとするとむくれるので気が済むまでそうしておくことにし、話を続ける。

 「それで、シェリシンダはどうだった?」
 「後で陛下に報告するけど、ディアンネス様は元気になったよ。カーネリア母さんと同じ感じかな」
 「そう、良かったわ。エリベール様も短命だと思うし、王女様が生きていればまた子を作れるかもしれないしね」
 「そのことなんだけど――」

 俺は起こった事実と、『ブック・オブ・アカシック』ツィアル国の宮廷魔術師と【呪い】について細かく説明する。
 特に今後のことを考えるとしても、この世界の大人の意見は聞いておきたいからだ。
 話し終えるとゼルガイド父さんが難しい顔で腕組みを崩さず唸る。

 「……これは大変な事態だ。そして扱いがとても難しい」
 「そうね、ちょっと行って捻り上げるってわけにもいかないし。……それに相手がカーランであれば、尻尾はなかなかださないだろうしね」
 「知ってるの?」
 「アルにいちゃ、あーん!」
 「はいはい……もぐ……で?」
 
 俺がケーキを食べると満面の笑みになるルーナの頭を撫でながら気になることを言うカーネリア母さんに尋ねると、

 「エルフの間じゃそれなりに有名だよ。魔法の探求に人生をささげているといって差し支えない男で、自分の住んでいた村の人間を実験台にして処刑されかかったところを逃げた、なんて噂があるよ」
 「実験台……確かにそんな奴なら【呪い】で脅迫するくらいはするか……」
 「どちらにしても陛下に報告だな。今から行くぞ、アル」
 「うん。それじゃ――」

 俺はルーナを膝から降ろして立ち上がり、ゼルガイド父さんについていこうとすると、服の裾を引っ張られこけそうになった。

 「ルーナも行くの」
 「ルークも!」
 「お前達は留守番だって。行っても退屈だぞ」
 「行くの!」
 「また帰ってこないと思っているのかもしれないねえ。みんなで行こうか。いいかいゼル?」
 「まあ、うん……泣かれるよりはいいかな?」

 俺が居ない間になにがあったんだ……
 にこにこ顔の双子と手を繋ぎ、俺達は屋敷を後にし登城する。
 逆効果だったのかもしれないな……
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