67 / 258
ディビジョンポイント
64.懇願
しおりを挟む「結局、病気はなんだったんですか?」
「不治の病に近かったみたいね。だけど、アルが治療法を知っていたの。なんと『ブック・オブ・アカシック』に選ばれた子なのよ」
「「え……!?」」
パーティが始まり、しばらくすると領主やその奥さんがディアンネス様に話しかけに行くのが見えた。
話の内容はもちろん病気が治った理由となんの病気だったかというものに集約されていた。
病名は不明で、治療については俺が『ブック・オブ・アカシック』で調べて治したということにしている。
どこで誰が聞いているか分からないのに大丈夫かって?
まあまあむしろ聞いて欲しいわけだよ俺としては。
これでなにかを企んでいる人間のヘイトは俺に集まる。呪いの本をという異名を持つ人間という肩書はクセが強いが、目立ちやすくなる。
一番警戒すべきヴィクソン家の二人は遠巻きに俺達を見ているが、聞き耳はしっかり立てているようだな。
「アル、食べてる? はい、フルーツの盛り合わせ」
「ありがとう。ってお肉とかじゃないか普通?」
「一緒に食べられるもの」
「仲がいいわね。いつからなの?」
「えっと、この前イークベルン王の誕生パーティの時ですね。あなたは?」
「私はラビア。ラビア=ビキリよ」
「ビキリ家の長女ですよアル」
ビキリ家は先のフォランベルン家とためを張る貴族で確か侯爵の位を持っていたはずだ。歳は16、7歳くらいの青い髪をした女の子が俺とエリベールを見比べて嬉しそうに笑っていた。
「初めまして、アル=フォーゲンバーグです」
「あ、礼儀正しいわね! 子供だけどイケメンだし、エリベール様はいい男を掴まえたわねえ」
「ありがとうございますラビア様。パーティで出会った時からわたくし、一目ぼれでして」
「それで王女様の命の恩人でしょ? 運命感じちゃうわよねー」
見た目美少女、中身は軽い、と。
夢見る瞳で手を組みそんなことを言うラビア。
「それにしても『ブック・オブ・アカシック』、ね。どうなのそこんところ」
「どう、とは?」
「呪いの本かどうかってことよ。エリベール様を不幸にしたら許さないからね?」
「はは……そう、ですね」
「大丈夫です! そこは愛の力で!」
「おい、止めろ、話を大きくするな!?」
演技……これは演技だ……
っと、エドワウとミスミーが動いたか。
エリベールに背中から抱き着かれ、ラビアや周りの大人たちが微笑ましいものを見たという視線を浴びながら俺は二人をきっちりマーク。
「快復、おめでとうございますディアンネス様。まさかあのお見舞いからすぐにこんな祝い事になるとは思いませんでしたよ」
「ありがとうエドワウ。アルがあの後『ブック・オブ・アカシック』で治療法を調べてくれたのよ」
「そうなんですのね。それでアルを婿に?」
「それもあるけど、一番はエリベールが気に入っているからかしらね。……あの子、父親と同じでいつ亡くなるか分からないし好きにさせたいから」
「え、ええ……」
青い顔でグラスに口をつけるエドワウは唇が震えていた。
その震えはなんに対してのものだろうな?
ミスミーも同じく冷や汗をかきながら渋い顔で俯く。
「どこ見てるの? 未来の奥さんをないがしろにしたらダメよー?」
「もっと言ってあげてください!」
そんな調子でラビアのおもちゃにされながらエリベールたちの相手をする。
なにかが起こる……こともなく、パーティは終盤を迎えていた。
「そろそろお開きか……」
「楽しかったですわね」
「それはいいけど、動きが無いのは残念だったな」
「……仕方ありません。まだチャンスはありますよ」
エリベールが寂し気に微笑み、俺も釣られて笑う。
本当は16歳まで生きられないかもしれないという不安はつきまっているのかもしれない。
『ブック・オブ・アカシック』もいい加減な情報を寄こすから無理もないと思うけど。
「皆さま、本日は城に部屋を用意しています。ごゆっくりとお過ごしください」
結局、なにも事件など起こらずパーティは幕を閉じる。
国王の時みたいに襲撃があるかと思ったが、そんなことは無かった。
俺は一旦、エリベールと別れて自室へと向かう。
少々、拍子抜けしたが全部が全部思惑通りに行くことの方が珍しいので、俺というジョーカー、ディアンネス様の全快、エリベールの婚約の三つを知らしめることができただけ良しとしよう。
まあ、ディアンネス様が全快したとは言え、エリベールの【呪い】が解けた訳じゃない。ヴィクソン家にしても、ツィアル国の宮廷魔術師にしても、それだけで動く理由にはならないのだと考えるべきか。
放っておいても、エリベールは死んでしまうのだから。
「……死なせるわけにはいかないけど。そういえばパーティについて『ブック・オブ・アカシック』が変なことを書いてたな」
‟あの時のパーティを思い出せ”
確かこんな感じだったと思う。
あの時、国王とラッドが狙われたパーティだが――
「あ!?」
<どうしました?>
俺はここでひとつ、閃くものがあった。
「……あの襲撃、実はエリベールを狙っていたのだとしたらどうだ? もちろん直接的じゃなく、あくまでも国王を狙いつつ巻き込んでの殺害する」
<だから自爆、ですか。でもメリットは……>
「メリットは……ある。あの時点でディアンネス様は床に伏せっていた、治る可能性も低い。そこでエリベールが死ねば、イークベルン王国が糾弾される。下手をすれば戦争にも繋がる」
心労でディアンネス様が亡くなる可能性もあるがそれは低いだろう。
逆に、そこでディアンネス様を失脚させて別の誰か……それこそヴィクソン家が乗っとるつもりだったのかもしれない。
「ならどうして『ブック・オブ・アカシック』はハッキリとそれを教えてくれなかったんだ? 黒幕は知っている、目的も知っている、だけど経過は知らない……」
チグハグだ。
どういうことなのか頭を悩ませる俺は『ブック・オブ・アカシック』に聞いてみるかと部屋に近づいて来た瞬間――
「うわ!?」
「……静かにしてくれ、手荒な真似は、したくない」
空いた部屋に引きずり込まれた俺は羽交い締めにされていた。そして言葉を発する人物は――
「……エドワウ=ヴィクソン。正体を現したか」
「……」
何とも言えない表情で俺を見つめるエドワウ。近くにはミスミーが青い顔で俺達を見ていた。
さて、どうするつもりだ? 魔法で逃げ出すことはできるが、少し様子を伺うかと思っていると。
「君が『ブック・オブ・アカシック』を使えるのは本当かい? ……もし本当なら……助けてくれ……」
まさかの救援要請だった。
1
お気に入りに追加
198
あなたにおすすめの小説
復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜
サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」
孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。
淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。
だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。
1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。
スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。
それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。
それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。
増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。
一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。
冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。
これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。
「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~
平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。
三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。
そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。
アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。
襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。
果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。
婚約破棄されたので暗殺される前に国を出ます。
なつめ猫
ファンタジー
公爵家令嬢のアリーシャは、我儘で傲慢な妹のアンネに婚約者であるカイル王太子を寝取られ学院卒業パーティの席で婚約破棄されてしまう。
そして失意の内に王都を去ったアリーシャは行方不明になってしまう。
そんなアリーシャをラッセル王国は、総力を挙げて捜索するが何の成果も得られずに頓挫してしまうのであった。
彼女――、アリーシャには王国の重鎮しか知らない才能があった。
それは、世界でも稀な大魔導士と、世界で唯一の聖女としての力が備わっていた事であった。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。
前世は悪神でしたので今世は商人として慎ましく生きたいと思います
八神 凪
ファンタジー
平凡な商人の息子として生まれたレオスは、無限収納できるカバンを持つという理由で、悪逆非道な大魔王を倒すべく旅をしている勇者パーティに半ば拉致されるように同行させられてしまう。
いよいよ大魔王との決戦。しかし大魔王の力は脅威で、勇者も苦戦しあわや全滅かというその時、レオスは前世が悪神であったことを思い出す――
そしてめでたく大魔王を倒したものの「商人が大魔王を倒したというのはちょっと……」という理由で、功績を与えられず、お金と骨董品をいくつか貰うことで決着する。だが、そのお金は勇者装備を押し付けられ巻き上げられる始末に……
「はあ……とりあえず家に帰ろう……この力がバレたらどうなるか分からないし、なるべく目立たず、ひっそりしないとね……」
悪神の力を取り戻した彼は無事、実家へ帰ることができるのか?
八神 凪、作家人生二周年記念作、始動!
※表紙絵は「茜328」様からいただいたファンアートを使用させていただきました! 素敵なイラストをありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる