上 下
62 / 258
ディビジョンポイント

59.母と娘のサンドイッチ

しおりを挟む

 着替えたエリベールはこれまたお姫様らしく可愛らしいドレスに身を包んで俺の手を引いて前を歩く。
 
 <ご機嫌ですね>
 
 うーむ、髪の毛もしっかり整えていて控えめに言って可愛い。
 流石は一国の王女でお姫様か。
 いやいや、ウチのルーナも大きくなったら可愛くなるから血筋だけが決定的な戦力差ではないはず……

 「どうしたの?」
 「い、いや、なんでもない。それよりどこへ行くんだ?」
 「お母様のところよ。善は早い方がいいでしょ!」
 
 そう言いながらウインクをするエリベール。
 この子は即断即決を売りとしているのか? 俺をここへ連れて来る時もあんまり悩んでいなかったしな。
 
 そういう度胸があるのは嫌いじゃない。
 『ブック・オブ・アカシック』も呪いの本だと分かっていて利用しようとする図太さは国を背負って立つには丁度いいのかもしれないな。

 他愛ない話をしながら、エリベールについていく。
 やがて大きな扉の前に到着し、エリベールがノックをすると中からか細い女性の声が聞こえてきた。

 「エリベールかしら……どうぞ」
 「はい。お母様」
 「失礼します」

 挨拶をしながら中へ。
 ベッドに上半身を起こしてこちらを見る女性はエリベールによく似た顔と金髪をしていて、俺を見るなり驚いた顔をしていた。

 「まあ、そちらの方は?」
 「私はイークベルン王国の騎士団長、ゼルガイド=フォーゲンバーグの子、アルと申します」
 「これはご丁寧に。こんな格好で申し訳ないわね、エリベールの母でディアンネスです。エリベールとお友達になってくれたのかしら? 私がこんなだから苦労ばかりかけて……」
 「私は大丈夫よお母様。私は辛くなんてないし」

 エリベールが寂しげに笑いながら母親に抱き着く。
 12歳で辛くない、なんてことはないはずだ。体の大きさも俺とほとんど変わらないのに。
 ま、それも今日で終わりに出来るはずだ。

 「(リグレット、【再生の左腕セラフィム】の準備はいいか?)」
 <大丈夫です! ちゃちゃっと救ってしまいましょう>

 軽いな……
 多少不安だが、カーネリア母さんで成功事例はある。
 ささっとやってしまおうか。

 「エリベール、ディアンネス様の病気を治すよ」
 「あ、そうですね! 聞いて下さいお母様、アルがお母様の病気を治療できるそうなんです! それではるばるここまで来てもらったんですよ」
 「あら、そうなの? ふふ、大丈夫、私はすぐ良くなるから、ね?」
 「違うんです! 本当に治せるんですよ!」

 ディアンネス様は子供のお遊びと思っているのか優しい顔でエリベールを窘めて髪を撫でてやっていた。
 状態はかなり良くは無さそうで、額に汗をかいているのが見える。
 俺はエリベールの隣に立ち、ディアンネス様の手を握らせてもらう。

 「いいかなエリベール」
 「お願いしますわ、アル」
 「あらあら、真剣ねふたりとも」

 彼女が笑ったその時、俺は胸中で【再生の左腕セラフィム】を発動させる。
 ご都合でもなんでもいい、この母親の病気を治してエリベールに辛い思いをさせないように――

 「【再生の左腕セラフィム】」
 「え? ……う、身体が……熱い……」
 「ああ、ディアンネス様!?」
 「大丈夫……大丈夫だから……!! お願い……アル……」

 急に呻きだしたディアンネス様にメイド達がざわめくが、エリベールがそれを制す。もしなんかあったらタダじゃすまないかなーと思いながらスキルを使う。

 カーネリア母さんの時は無我夢中だったけど、落ち着いて使うと体内のマナが活性化して相手に力を与えているのが分かる。

 『再生』の名を冠するので病気には効かない可能性もあったが、リグレット曰く、元々あった体力や衰えた力、マナと言ったものを回復することが『再生』と取れるのだとか。
 なので、この場合『病気になる前』の身体へと再生する、と言ったところか。

 その内、スキルを使った感覚が無くなり、ディアンネス様の顔色がどんどん良くなっていく。

 「ふう……これで、大丈夫のはず……」
 「アル!?」
 「ディアンネス様、どうですか? どんな病気だったか分からないんですけど……」

 力が抜けてベッドに倒れかかる俺をエリベールが介抱してくれ、それに甘えながら尋ねると、ディアンネス様は目をぱちくりしながら掌を見つめ――

 「身体が……軽いわ」
 「ディアンネス様!?」
 「はは、すげぇ……」

 座ったままベッドから飛び上がり、床に着地する。
 アクション映画みたいな動きをするなと思っていると、メイドに目を向ける。

 「私の剣はありますか?」
 「あ、は、はい! こちらに」
 「……ヒュ!」

 ディアンネス様はパジャマ姿で剣を抜く。レイピアのような細身の剣を花瓶に向かって刺し貫く。
 すると、剣に花びらがきれいに重ねられていた。
 え? この人剣士なの?
 
 そう思った瞬間、さっと抱っこされていた。スキルを使ったせいであんまり力が入らないのでなすがまま。
 まつげ、長いなあ……

 「凄い……本当に治ったの? どういうことなのかしらアル君」
 「うわあ!? な、なんかそういうことができるんですよ、死にかけてから」
 「死にかけ……?」
 「お母様、アルを離してください!」

 俺の言葉に疑問を口にしたところでエリベールが拳を握り頬を膨らませて声を上げていた。

 「ああ、ごめんなさいエリベールのこいび――」
 「ち、違いますから!」
 「早く降ろして!」

 なんかとりあえず、わちゃわちゃしたがどうやら完治したらしい。
 病状を聞かずにぶっつけ本番だったが、原因はあまり問題ではないみたいだな。
 
 「これは気分がいいわね。ちょっと皆さんに挨拶をしてくるわ。……さて、これは大きな借りが出来たわね」
 「エリベール……様はとても良い方でご両親を自慢に思っていましたのでお手伝いさせていただきました」
 「そうです! それとお母様、お父様の血筋が短命な理由もアルが突き止めてくれました」
 「なんですって……?」

 ……さて、本番はむしろこれからだな。
 せっかくここまで来たんだ、ヴィクソン家についてもう少し情報が欲しいな。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~

平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。 三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。 そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。 アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。 襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。 果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。

婚約破棄されたので暗殺される前に国を出ます。

なつめ猫
ファンタジー
公爵家令嬢のアリーシャは、我儘で傲慢な妹のアンネに婚約者であるカイル王太子を寝取られ学院卒業パーティの席で婚約破棄されてしまう。 そして失意の内に王都を去ったアリーシャは行方不明になってしまう。 そんなアリーシャをラッセル王国は、総力を挙げて捜索するが何の成果も得られずに頓挫してしまうのであった。 彼女――、アリーシャには王国の重鎮しか知らない才能があった。 それは、世界でも稀な大魔導士と、世界で唯一の聖女としての力が備わっていた事であった。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

婚約破棄ですか? でしたら貴方様には、その代償を払っていただきますね

柚木ゆず
ファンタジー
 婚約者であるクリストフ様は、私の罪を捏造して婚約破棄を宣言されました。  ……クリストフ様。貴方様は気付いていないと思いますが、そちらは契約違反となります。ですのでこれから、その代償を受けていただきますね。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

前世は悪神でしたので今世は商人として慎ましく生きたいと思います

八神 凪
ファンタジー
 平凡な商人の息子として生まれたレオスは、無限収納できるカバンを持つという理由で、悪逆非道な大魔王を倒すべく旅をしている勇者パーティに半ば拉致されるように同行させられてしまう。  いよいよ大魔王との決戦。しかし大魔王の力は脅威で、勇者も苦戦しあわや全滅かというその時、レオスは前世が悪神であったことを思い出す――  そしてめでたく大魔王を倒したものの「商人が大魔王を倒したというのはちょっと……」という理由で、功績を与えられず、お金と骨董品をいくつか貰うことで決着する。だが、そのお金は勇者装備を押し付けられ巻き上げられる始末に……  「はあ……とりあえず家に帰ろう……この力がバレたらどうなるか分からないし、なるべく目立たず、ひっそりしないとね……」  悪神の力を取り戻した彼は無事、実家へ帰ることができるのか?  八神 凪、作家人生二周年記念作、始動!  ※表紙絵は「茜328」様からいただいたファンアートを使用させていただきました! 素敵なイラストをありがとうございます!

処理中です...