53 / 258
波乱の学校生活
50.次のステップへ
しおりを挟む「あの時の美人の子……」
「あら、嬉しいですわね♪ 改めまして、わたくしの名はエリベール。エリベール=シルディ=ウトゥルンです。あ、座ったままで結構です」
「アル=フォーゲンバーグ、です」
「ねむ……ねむ……」
「うふふ、人質にされていた子ですね。可愛い」
そういってルーナの頭を撫でながら笑う彼女は、あの緊張感の中で見るよりはるかに美人に見えた。
もし俺が普通に暮らしていたら恋人にするため頑張ったであろうというくらい可愛い顔立ちと仕草をしている。
さて……それはともかく名前が長い。
となると、この子は最低でも貴族の身分を持っているとみていいだろう。
そんな子がどうして俺と最初に握手を交わしたのか、それが気になる。
「……ふふ、探るような目ですわね。ご安心を、別にあなたをどうこうするつもりはありません。ただ、お伺いしたいことがあったので待っておりました」
「俺に? むしろ助けられたのは俺の方だけど?」
「確かにそうですね。わたくしはあなたのことを聞いて興味がわきましたの」
「興味……あいにく恋人は募集していないけど?」
面倒ごとにしかならない予感しかないので、俺は適当に答えておく。
いきなりこんな返しをする奴に好感はもつまい。
すると、慌てたゼルガイド父さんが俺のところに来て軽く小突いてきた。
「痛っ!? なにすんのさ!」
「馬鹿、この方は大森林の向こうにあるシェリシンダの女王様だぞ」
「え!? 女王!?」
どう見ても俺と同い年くらいなんだけど……
俺がまじまじと顔を見ていると、エリベールは顔を赤くしてパタパタと手で顔をあおぐ。
「い、いいのですゼルガイド様。恐らく歳はそれほど変わらないでしょうし。わたくしは12歳ですがアルは?」
「俺は10歳。今年11になるよ」
「一つ下ですのね。……いえ、それは一旦置いといて……聞きたいことは二つ。無詠唱魔法についてと、『ブック・オブ・アカシック』のことですわ」
おっと、そう来たか。
12歳の王女様の経緯も気になるけど、目ざといなと思った。
あの混乱の中で俺が無詠唱ファイヤーボールを出したことを覚えていたとは。
それと『ブック・オブ・アカシック』のことか。
伝説の割には人気……いや、国王が喋ったと考えるべきだろうな。
「無詠唱は……確かにできますけど」
「やはり。それを教えていただくことはできるかしら?」
「まあ、ほとんど独学で、ラッドに教えていたころのレベルで良ければ……」
「是非! とても面白そうですわ!」
「わ!?」
俺の答えに満足したのか、彼女は俺の手を取って笑顔を咲かせた。
周囲を見ると全員が満足げに頷いているのでこれは教えざるを得ないような雰囲気だ。
ならば、と俺は交換条件を提示する。
「では、エリベール様。代わりにあなたの知っている”ベルクリフ”を教えてもらうことは可能でしょうか?」
「え?」
「アル、どうしたのさ急に?」
「急ってわけじゃないよ。いつかは覚えたい……というか資格があるかどうか確認したかったんだ。近しい人だと誰も使えないから、これはチャンスだと思って」
カーネリア母さんにそういうと、少し寂しそうな顔をされた。
俺の意図が読めているからだろう。
傷を自分で癒すことができれば旅をする上で非常に有利になれるからだ。
たまに家族からは『復讐なんてやめておけ』と遠回しに言われることがあるからな。
<言いたい気持ちも分かりますが、私はアル様の意思を尊重します。再生の左腕だけでは安心できませんし>
リグレットの言葉に胸中で頷く俺。
するとエリベールは微笑みながら口を開く。
「ええ、適性があるか調べないといけませんが請け負いましょう」
「よろしいのですか?」
「構いません。それと『ブック・オブ・アカシック』は?」
「それも読んでもらうのはいいですけど……多分俺にしか分からない、かも」
「それでもいいの。フォルネリオ様の提案であるアルに必要な情報を教え、浮き上がらせるの」
……こりゃ、国王の提案じゃないな?
恐らく国王がこの女王様に話をして、入れ知恵をしたんじゃないか?
まあ、どうせなにも出てこないと思うけど――
「お願い、これがあれば私の一族は助かるかもしれないの!」
「助かる……? 一体どういうことだ?」
先ほどと違って必死な声色で、掴んでいる手に力がこもる。
藁をもすがる、と言った感じの話を耳にすることになった。
「……私が女王の肩書を背負っているのと関係があります。私の一族は代々短命で、片方の親は必ず早逝するといういわば【呪い】のようなものがあるのです」
「短命……」
俺が呟くと、ゼルガイド父さんが神妙な顔で口を開く。
「ああ、ウトゥルン家は産まれた子は代々、早く亡くなってしまう。理由は不明。早い方だと16歳くらいで亡くなった方も居るそうだ。兄妹が少し長生きしたから血は途絶えていないが……」
「はい……そして、今、わたくしの父はすでに他界。妻である母は嫁いできたので長生きするはずですが、身体が弱く床に伏せっているんです。そのせいもあり、わたくしには兄妹がいません……」
読めた。
「それで短命な理由が浮かび上がらないか知りたい、というわけだな」
「は、はい。もしくは母の病気を治す方法があれば……」
「魔法では無理なのですか?」
ラッドが尋ねると、力なく首を振るエリベール。
神の魔法と言われているベルクリフでもそのあたりは無理らしい。
イルネースならなんとかなりそうだけど、流石に協力はしてくれないだろうし。
まあ、やるだけ無駄かもしれないけど――
「役に立てるか分からないけど、それくらいならいいよ。陛下のお願いも聞くわけだし」
「……! ありがとうアル!」
「うわ!?」
エリベールが座ったままの俺に抱き着いてきて転びそうになり、慌ててルーナを抱きかかえて立ち上がる。
すると国王も立ち上がり、俺の肩に手を置いて微笑む。
「話は以上だ。アル、頼むぞ」
「分かりました……」
狸親父め、恐らく『こっちが本命』の話だったな?
国に恩を売っておけば色々と融通が利くようになるかもしれないし、こっちの領地からエリベールの婿を選んでもらいやすくなれば安泰だろう。
まあ襲撃者の正体を知りたいのも嘘ではないだろうからうまく乗せられた感がある。
なら俺は俺でラッドとエリベールに恩を売っておくとしようか――
そう思いながら俺は今後のことを考えるのだった。
そして学校へ登校しなくなった中級生の生活が始まる。
1
お気に入りに追加
198
あなたにおすすめの小説
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
悪役令嬢を陥れようとして失敗したヒロインのその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
女伯グリゼルダはもう不惑の歳だが、過去に起こしたスキャンダルが原因で異性から敬遠され未だに独身だった。
二十二年前、グリゼルダは恋仲になった王太子と結託して彼の婚約者である公爵令嬢を陥れようとした。
けれど、返り討ちに遭ってしまい、結局恋人である王太子とも破局してしまったのだ。
ある時、グリゼルダは王都で開かれた仮面舞踏会に参加する。そこで、トラヴィスという年下の青年と知り合ったグリゼルダは彼と恋仲になった。そして、どんどん彼に夢中になっていく。
だが、ある日。トラヴィスは、突然グリゼルダの前から姿を消してしまう。グリゼルダはショックのあまり倒れてしまい、気づいた時には病院のベッドの上にいた。
グリゼルダは、心配そうに自分の顔を覗き込む執事にトラヴィスと連絡が取れなくなってしまったことを伝える。すると、執事は首を傾げた。
そして、困惑した様子でグリゼルダに尋ねたのだ。「トラヴィスって、一体誰ですか? そんな方、この世に存在しませんよね?」と──。
悪役令嬢にざまぁされた王子のその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。
その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。
そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。
マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。
人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!
柊
ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」
ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。
「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」
そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。
(やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。
※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。
Another Of Life Game~僕のもう一つの物語~
神城弥生
ファンタジー
なろう小説サイトにて「HJ文庫2018」一次審査突破しました!!
皆様のおかげでなろうサイトで120万pv達成しました!
ありがとうございます!
VRMMOを造った山下グループの最高傑作「Another Of Life Game」。
山下哲二が、死ぬ間際に完成させたこのゲームに込めた思いとは・・・?
それでは皆様、AOLの世界をお楽しみ下さい!
毎週土曜日更新(偶に休み)
無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す
紅月シン
ファンタジー
七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。
才能限界0。
それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。
レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。
つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。
だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。
その結果として実家の公爵家を追放されたことも。
同日に前世の記憶を思い出したことも。
一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。
その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。
スキル。
そして、自らのスキルである限界突破。
やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。
※小説家になろう様にも投稿しています
【完結】王女様の暇つぶしに私を巻き込まないでください
むとうみつき
ファンタジー
暇を持て余した王女殿下が、自らの婚約者候補達にゲームの提案。
「勉強しか興味のない、あのガリ勉女を恋に落としなさい!」
それって私のことだよね?!
そんな王女様の話しをうっかり聞いてしまっていた、ガリ勉女シェリル。
でもシェリルには必死で勉強する理由があって…。
長編です。
よろしくお願いします。
カクヨムにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる