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波乱の学校生活

幕間 ②

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 ――謁見の間――

 「ゼルガイドの息子は引き続き先生が見るのですな」
 「ええ、今日言い含めてきました。ラッド王子も休みの後、元のクラスへ移籍する予定です。アルに近づかないよう陛下から言い含めておいてください」
 「承知した。アレに恨まれるのは心苦しいが、仕方あるまい」
 「……申し訳ございません陛下。私の浅慮が原因でこのようなことに」

 学校長のミーア老と、陛下が話す中、俺ことゼルガイドが膝をついて頭を下げる。
 先日はアルの素性、そして今回はアルの今後について招集がかけられた。
 
 ライクベルン王国の人間であることはいずれ話すつもりだったが、それよりも早く知れ渡ってしまった。
 まあ、他国の子供を拾って養子にしたくらいでは問題にならないのだが、アルの持っていた本が『よくないもの』らしい。

 俺はそういったことは目で見なければ信じないタイプだが、アル……アルフェンの境遇を考えると笑い飛ばすには難しい。
 ライクベルンへ送り届けるという案もあったが、現在、ヤード大陸にある‟ツィアル国”がウチと緊張状態。
 海沿いを行けば『無事に辿り着けるかも』というくらいキナ臭いのだ。

 「良い、ゼルガイド。カーネリアとお前を救ったのはその子なのだろう? 守りたい気持ちもわかる」
 「痛み入ります。もし、アルを追放するのであれば、私達家族はあの子を送り届ける旅に出る所存」
 「それは困る。我が国でも屈指の達人のお前が抜けては、ツィアル国に対抗する手段が無くなってしまうのでな。それで先生、この国が不幸に見舞われることはないのだな?」

 ちなみに俺の処分は減給程度で収まった。
 今、陛下が言ったようにキナ臭い国と戦いになれば戦力は一人でも欲しい。ランク50ほどの猛者が大勢いるとはいえ、相手の戦力は不明なので猶のことだ。

 だが、それ以上に『ブック・オブ・アカシック』とやらの影響の方が気になるようで、ミーア老にまた本のことを尋ねていた。
 
 「……恐らくは。なにせ伝説とまで言われる本なので、他の効果がある可能性は否定できません」
 「それもそうか。まあ、我等王族に関わらないようにしてもらえれば今は不問としよう。ラッドが懐いていたくらいだ、性根は良さそうだし、な」
 「はは、私の子供たちもアルが大好きですからね。親より懐いているかもしれません」
 「ほう、あの可愛らしい双子がか。……ふむ、剣も魔法も飛びぬけているのに惜しいものよ」

 なにも無ければ将来ラッド王子の側近にしたかったらしい。
 ……ま、アルは断るだろうけど。

 「陛下、アルについては様子見で良いと思われます。ただ、極端にストレスを与えるようなことがあれば『本』がどういう影響を及ぼすかわからないので。それこそ、この状況を打破するための知識を得ようとするかもしれないと考えれば、普段通り過ごしてもらうのが一番かと」
 
 ミーア老が静かに、言い聞かせるように言う。この人も結構アルを気に入っているんだよな。
 普段通り……それをやるのが俺達大人の役目だ。
 あいつにはカーネリアのことでガツンと言われたからな、父として見返してやらんと。

 「では、アルについては以上だ。クラス替えはそれとなくラッドには伝えておく。先生の言うことも一理ある、こちらに近づかなければ軟禁などはせずともよい」
 「は、ご配慮に感謝します」
 「一人暮らしをさせるというのは……」
 「それはなりません。アルは私の息子、であれば辺境にでも引っ越しますよ」
 「……分かった。話は終わりだ、下がってくれ」

 陛下はまだ気にはなっているようだが、俺の言葉と無言で笑みを浮かべるミーア老に肩を竦めて謁見を終了させた。

 「大変ですね、これから」
 「はは、そうですかね? 俺は……おっと、私はアルに感謝していますよ。一緒に暮らすようになってから三年ですけど、あの子は賢い。多分、ミーア老もそう思っているから譲歩したんでしょう?」
 「ふふ、そうさね。……あれさえなければ、とは思うよ」
 「『ブック・オブ・アカシック』ですか。本物なんでしょうか?」
 「私が家に持ち帰って調査しようとしたのだけど、煙のように消えてアルの下へ戻ったんだ、本物でなかったとしてもいわくつきだと思わないかい?」

 ……確かに。
 カーネリアはアルにこの本で勉強したとしか聞いていなかったみたいで気づいていなかった。
 アルが手放せば問題ないが実の家から持ち出した思い出の品と思えば強くも言えないし、戻って来るなら捨てるわけにもいかん。

 どちらにせよアルはまだ九歳だ、大人が守ってやるのが筋かとミーア老と別れて屋敷に帰る。

 「あ、ゼルガイド父さんおかえりー。遅かったね、誰かの稽古に付き合ってたの?」
 「ぱぱー、おかえなしゃい!」
 「おかえりなしゃい!」
 
 リビングへ入るとアルがすぐに気づき、じゃれていたルークとルーナもアルにならって挨拶をしてくれる。

 「……くく、まあ、そんなところだ」
 「なんで笑ってるのさ?」

 自分のことを話していた、なんて聞いたらこいつはどんな顔をするかねえ。
 
 「なんでもない。腹が減った、母さんは?」
 「カーネリア母さんはメイドさんと厨房だよ、シチューだって」
 「しちゅー!」
 「しちゅー!」
 「ははは、二人ともはしゃぐと転ぶぞ。それじゃ、食堂で待つとするか」
 「だね。ルーク、ルーナ、行くよ」
 「「はーい!!」」

 ……アルが来てから俺は、俺達は幸せだ。こいつが不幸を振りまくとは考えにくい。もし、伝説が本当だとしても、俺は家族を守って見せるさ――
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