上 下
10 / 258
異世界へ

9.家族の団欒とお爺ちゃん

しおりを挟む

 「北方のルグムルブグ国はいかがでしたか?」
 「今のところ問題はないな、友好国としての『形』はしっかり取っている」
 「お父様のお仕事はなんだったのです?」
 「フッ、流石に娘のお前にも言えんよ」
 
 見上げると目は鋭いが、娘である母さんを見る表情は優しかった。親父と話す時も穏やかなので駆け落ちしたということは無さそうだ。

 「……まあ、気を付けるとすれば西方のキンドレイト王国だろうな。あそこは国王が変わってからいい話を聞かん。今回の遠征で立ち寄ったのだが、物々しい雰囲気だた。よもや戦争を仕掛けてくるとは思えんが……」
 「怖いですね……お義父さんは最前線に居ることが多いからお気をつけて」
 「ふん、お前に心配されるほど弱ってはおらんよ。それに可愛い孫の手前、活躍を目に焼き付けてもらわんとな」
 「わ!?」

 爺ちゃんは俺に頭をぐりぐりと撫でながら歯を見せて笑う。前世の爺ちゃんとは仲が悪かったから少し新鮮で複雑な気分だ。
 
 「あ、将軍ってことはおじいちゃんって強いんだよね! 剣の扱いとか見てみたいな」
 「お、おお、構わんぞ。……というかマルチナよ、この子は三歳じゃなかったか?」
 「ええ、そうですよ。アルは賢いんですよ、歩き始めたのは数か月で、物語の本はもう完璧に読めるんです」
 「ほう……!」
 「魔法の本もさっき読もうとしていたんですよ。なあ、アル」
 「うん! これ!」

 俺が本を見せると、ぱらぱらとめくって口元に笑みを浮かべながら俺の頭に手を乗せる。
 
 「これが読めるのか?」
 「う、うん」
 「ライアス、マルチナ、この子は天才かもしれんな! 将来が楽しみだ!」
 「ええ、ゆっくり育てていきますわ」
 「この辺も魔物が増えてきたから、剣は教えてやりたいのう」
 「お父様、アルを騎士にしようとしていません?」
 「おおう……怖い顔をするなマルチナ……」

 母さんがやんわりと笑うと、親父と爺さんも笑い和やかなムードになる。
 その後は婆さんの話や、俺を連れてライクベルンの王都へ行こうなど大盛り上がり。
 俺はずっと爺さんの膝の上から降ろしてもらえず、苦笑するしかなかったけど、仲の良い家族というのは気持ちがいい。

 「今日は泊って行かれるのでしょう?」
 「うむ、アルともう少し一緒に居たいから部隊は宿に待たせている」
 「連れていただいても良かったんですけど……」
 「家族の団欒を邪魔したくないと、イーデルンが申し出てくれたのだ」
 「ああ、あの方なら言いそうですわ。それではごゆっくり休んでください。イリーナかマイヤに部屋を用意させますわ」

 母さんがそう言って部屋から出ると、今度は爺さんが俺を肩に乗せて立ち上がる。
 
 「おじいちゃん?」
 「どれ、長居もできんしアルにワシの剣を見せてやるとしようか」
 「いいの?」
 「はは、お爺ちゃんはこの国で一、二を争う騎士なんだよ。まだアルには凄さが分からないと思うけど」

 困った顔で笑う親父に、言い出したら聞かないし付き合ってあげようと暗に言っているような感じがして俺は胸中で笑う。
 俺も剣は使っていたから、興味はある。……ま、俺は褒められたものじゃないだろうけど。

 そんな気持ちをよそに、爺さんは軽い足取りで庭に出る俺達。親父も仕事が終わったからか、一緒に居る。
 この屋敷は町の中に位置していて、外に出たことはないけど門から見た景色はキレイな町だったと記憶している。
 ただ、三歳の俺はまだここだけで十分な世界だけどな。

 「あ、マイヤだ。おーい!」
 
 洗濯ものを干しているマイヤが目に入り爺さんの肩で手を振ると、こちらに気づいたマイヤが近づいてくる。

 「アル様! お部屋でご本を読むんじゃなかったんですか? アルベール様、お久しぶりでございます」
 「本は持っているよ」

 俺が本を見せるとマイヤは笑い、スカートをつまんで爺さんにお辞儀をする。
 
 「うむ、少し大きくなったな」
 「ありがとうございます。わたしも十五になりますので」
 「そうか、そうだな。アルをよろしく頼むぞ」
 「はい! やんちゃでちょっと目を離すとどこかへ行っちゃうのでこまってますけどね!」

 俺に目を細めながらにやりと笑うマイヤにぎょっとして片手を振って否定する。
 むう、マイヤのくせに生意気な……追いかけっこで掴まえられなかったことを根に持っているな。

 「や、やめてよマイヤ」
 「ふぁっはっは! 男の子は元気なのが一番だ! よし、アルを頼む」
 「はい。よっと、まだまだ軽いですね」
 「むー、えい」
 「ひゃん!? む、胸を触りました!?」
 「むね?」
 「う、可愛い……、まあ、三歳にそんな知識はないですよね」

 まだまだ胸は成長していないな、お互い様だ。とりあえず可愛い顔で誤魔化して溜飲を下げていると、いつの間にかどこかへ行っていた親父が、棒に藁を括り付けた、いわゆる巻き藁のようなものを持ってきた。

 「やあ、倉庫にありましたよ」
 「お前……たまには剣の稽古もしておけよ? 駐留兵は居るが家族を守るのは家長の役目ぞ」
 「あ、あはは……やぶへびだったかなあ……」
 「お父さんも剣を使えるの?」
 「うーん、僕は剣がそんなに好きじゃないからね。アルと一緒で本を読む方がいいかなあ」
 「後で少し見てやる。……その前に、アルにワシの雄姿を見せねばな!」
 「わー!」

 俺がマイヤの腕の中で拍手をすると、爺さんは俄然張り切って剣を抜き、巻き藁の前に立つ。

 「……!」

 その瞬間、周囲の空気が張り詰め温度が下がった気がする。この人は、ヤバイぞ……

 そして気合一閃――
しおりを挟む
感想 479

あなたにおすすめの小説

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

元英雄でSSSSS級おっさんキャスターは引きこもりニート生活をしたい~生きる道を選んだため学園の魔術講師として駆り出されました~

詩葉 豊庸(旧名:堅茹でパスタ)
ファンタジー
最強キャスターズギルド『神聖魔術団』所属のSSSSS級キャスターとして魔王を倒し、英雄としてその名を轟かせたアーク・シュテルクストは人付き合いが苦手な理由でその名前を伏せ、レイナード・アーバンクルスとして引きこもりのニート生活を送っていた。 35歳となったある日、団のメンバーの一人に学園の魔術講師をやってみないかと誘われる。働くという概念がなかったアーク改めレイナードは速攻で拒絶するが、最終的には脅されて魔術講師をする羽目に。 数十年ぶりに外の世界に出たレイナード。そして学園の魔術講師となった彼は様々な経験をすることになる。  注)設定の上で相違点がございましたので第41話の文面を少し修正させていただきました。申し訳ございません!  〇物語開始三行目に新たな描写の追加。  〇物語終盤における登場人物の主人公に対する呼び方「おじさん」→「おばさん」に変更。  8/18 HOTランキング1位をいただくことができました!ありがとうございます!  ファンタジー大賞への投票ありがとうございました!

悪役令嬢を陥れようとして失敗したヒロインのその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
女伯グリゼルダはもう不惑の歳だが、過去に起こしたスキャンダルが原因で異性から敬遠され未だに独身だった。 二十二年前、グリゼルダは恋仲になった王太子と結託して彼の婚約者である公爵令嬢を陥れようとした。 けれど、返り討ちに遭ってしまい、結局恋人である王太子とも破局してしまったのだ。 ある時、グリゼルダは王都で開かれた仮面舞踏会に参加する。そこで、トラヴィスという年下の青年と知り合ったグリゼルダは彼と恋仲になった。そして、どんどん彼に夢中になっていく。 だが、ある日。トラヴィスは、突然グリゼルダの前から姿を消してしまう。グリゼルダはショックのあまり倒れてしまい、気づいた時には病院のベッドの上にいた。 グリゼルダは、心配そうに自分の顔を覗き込む執事にトラヴィスと連絡が取れなくなってしまったことを伝える。すると、執事は首を傾げた。 そして、困惑した様子でグリゼルダに尋ねたのだ。「トラヴィスって、一体誰ですか? そんな方、この世に存在しませんよね?」と──。

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

Another Of Life Game~僕のもう一つの物語~

神城弥生
ファンタジー
なろう小説サイトにて「HJ文庫2018」一次審査突破しました!! 皆様のおかげでなろうサイトで120万pv達成しました! ありがとうございます! VRMMOを造った山下グループの最高傑作「Another Of Life Game」。 山下哲二が、死ぬ間際に完成させたこのゲームに込めた思いとは・・・? それでは皆様、AOLの世界をお楽しみ下さい! 毎週土曜日更新(偶に休み)

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

処理中です...