8 / 258
異世界へ
7.魔法書のこと
しおりを挟む「お父さん」
「んん? どこかで声が……って、アルフェンじゃないか! どうしたんだい、パパと遊びたくなったのかな?」
相変わらず親バカでデレっとした顔を俺に向けてくる。
そんな優しい親父が仕事の手を止めて尋ねてきたので、俺は笑顔で大きく頷く。
「うん! でも、お父さんのお仕事を邪魔したくないから、ご本を読んでていい?」
「僕は全然大丈夫だから遊ぼう!」
いやいや、今日までに終わらせないといけない仕事だって朝食の時言ってたろう……
「お父さんと同じお部屋でご本読んでるだけで嬉しいよ! お仕事頑張って!」
「う、うん……アルは偉いなあ……よーし、早く終わらせてアルと遊ぶぞ!!」
「あ、その前にあの本を取って」
俺はちょうど手の届かない位置にある例の重そうな本を指さして親父に言うと、
「うん? これかな? おや、こんな本持ってたかな?」
「これで合ってるよ、ありがとうお父さん」
「ああ……眩しい笑顔……! きちんとお礼が言えるなんて、この子は天才だ!!」
「うわあ!? ほ、ほら、お仕事しないと」
親父が満面の笑みで頬ずりをしてきたことにびっくりして慌てて返すと、親父は顔を上げて口を開く。
「ハッ! そうだね! 遊ぶために急ぐよ! というか読めないと思うから絵を見て楽しむ感じになるかな? 後で読み聞かせてあげるから待ってて欲しい」
「ご、ごゆっくりー……」
俺は苦笑しながら机に向かう親父に手を振り床に本を広げる。……そういえば三歳か、識字って何歳くらいからだっけ……? ま、まあ、いいか。立ったのも早かったし早熟ということで……
というわけであの重い本を前にして座り込む。前回とは違い、初めから読破していくつもりだ。
「ふーん、なんかゲームみたいだな。……おっと」
不意に呟いたがちょっとまずいかと口を塞ぐ。
ゲームという言葉自体は何となくありそうだけど、念のため聞かれない方がいいだろう。
で、魔法はいくつかのクラスに分かれているようで『ライト』『ミドル』『ハイ』『エキスパート』『マスター』と言い、『マスタークラス』は世界に何人も居ないような記述があった。
子供の頃ゲームなどでお馴染みなので、クラスなんかはすんなり入って来る。
攻撃・補助・癒しといった構成もありそうなものだ。
だけど一つ、あまり聞いたことがない記述を目にする。
「えっと、魔法には詠唱が必要で現在は『略式詠唱』がポピュラー? 詠唱が長ければ魔力を練りやすいが隙がある……」
まあ、タイマンで悠長に唱えている奴がいたら俺なら接近してボコボコにするだろう。
例えば銃の利便性は構える、撃つという二動作で命を奪えることにある。
そう考えると構え、詠唱、発動というプロセスが必要で、詠唱に時間がかかるとなれば撃たれる前に殴れが基本になるのではかろうか。
それ故に『略式詠唱』とやらが発明されるのは理にかなっているとも言えるけど、この手の話を見て俺はいつも思うのだが――
「……最初に使ったのは誰なんだろう」
ということである。
広まればこれが基本になるけど、その前はどうだったのか、とか背景を気にしてしまう性格なんだよな俺って。
そんなことを考えていると、本に影が差し、見上げると親父が覗き込んでいた。
「ん? 随分熱心に読んでいるけど、それは魔法書かい?」
「あ、お父さん。仕事は?」
「ふふふ、アルと遊ぶために終わらせたよ!」
「すごいね! そういえばお父さんは魔法が使えるの?」
俺が上目遣い(多分子供だから可愛いはず)で尋ねると、親父は俺を膝の上に座らせながら聞くと、あぐらをかいた自身の膝に俺を乗せながら困った顔で言う。
「あー……はは、僕は魔力はあるけど魔法は得意じゃないんだ。ママならミドルクラスくらいまでなら使えるよ。攻撃魔法は使わないけど」
「ふーん、お母さんらしいかな。どうしてお父さんは使えないの?」
「うう……使えないって訳じゃないんだけど。アルは魔法を使いたいのかな?」
「うん! お外で試してもいいかな?」
「ははは、まずは詠唱できないといけないからね。まだ文字が読めないアルには無理だよ」
ふむ、やはりそう来るか。
ならばその親ばかを使わせてもらおう。
「じゃあその詠唱をお父さんが言ってよ! そしたら僕が真似をするから」
「パパの真似……父と子のふれあい……よし、それじゃあ行こう!」
「うわあ!?」
そうして俺は親父に肩車されて再び庭へ。
――行くはずだったんだけど。
1
お気に入りに追加
198
あなたにおすすめの小説
バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話
紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界――
田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。
暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。
仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン>
「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。
最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。
しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。
ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと――
――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。
しかもその姿は、
血まみれ。
右手には討伐したモンスターの首。
左手にはモンスターのドロップアイテム。
そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。
「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」
ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。
タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。
――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――
転生令嬢の幸福論
はなッぱち
ファンタジー
冒険者から英雄へ出世した婚約者に婚約破棄された商家の令嬢アリシアは、一途な想いを胸に人知の及ばぬ力を使い、自身を婚約破棄に追い込んだ女に転生を果たす。
復讐と執念が世界を救うかもしれない物語。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
悪役令嬢を陥れようとして失敗したヒロインのその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
女伯グリゼルダはもう不惑の歳だが、過去に起こしたスキャンダルが原因で異性から敬遠され未だに独身だった。
二十二年前、グリゼルダは恋仲になった王太子と結託して彼の婚約者である公爵令嬢を陥れようとした。
けれど、返り討ちに遭ってしまい、結局恋人である王太子とも破局してしまったのだ。
ある時、グリゼルダは王都で開かれた仮面舞踏会に参加する。そこで、トラヴィスという年下の青年と知り合ったグリゼルダは彼と恋仲になった。そして、どんどん彼に夢中になっていく。
だが、ある日。トラヴィスは、突然グリゼルダの前から姿を消してしまう。グリゼルダはショックのあまり倒れてしまい、気づいた時には病院のベッドの上にいた。
グリゼルダは、心配そうに自分の顔を覗き込む執事にトラヴィスと連絡が取れなくなってしまったことを伝える。すると、執事は首を傾げた。
そして、困惑した様子でグリゼルダに尋ねたのだ。「トラヴィスって、一体誰ですか? そんな方、この世に存在しませんよね?」と──。
悪役令嬢にざまぁされた王子のその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。
その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。
そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。
マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。
人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!
柊
ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」
ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。
「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」
そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。
(やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。
※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。
無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す
紅月シン
ファンタジー
七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。
才能限界0。
それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。
レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。
つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。
だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。
その結果として実家の公爵家を追放されたことも。
同日に前世の記憶を思い出したことも。
一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。
その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。
スキル。
そして、自らのスキルである限界突破。
やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。
※小説家になろう様にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる