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異世界へ

7.魔法書のこと

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 「お父さん」
 「んん? どこかで声が……って、アルフェンじゃないか! どうしたんだい、パパと遊びたくなったのかな?」
 
 相変わらず親バカでデレっとした顔を俺に向けてくる。
 そんな優しい親父が仕事の手を止めて尋ねてきたので、俺は笑顔で大きく頷く。

 「うん! でも、お父さんのお仕事を邪魔したくないから、ご本を読んでていい?」
 「僕は全然大丈夫だから遊ぼう!」

 いやいや、今日までに終わらせないといけない仕事だって朝食の時言ってたろう……

 「お父さんと同じお部屋でご本読んでるだけで嬉しいよ! お仕事頑張って!」
 「う、うん……アルは偉いなあ……よーし、早く終わらせてアルと遊ぶぞ!!」
 「あ、その前にあの本を取って」
 
 俺はちょうど手の届かない位置にある例の重そうな本を指さして親父に言うと、

 「うん? これかな? おや、こんな本持ってたかな?」
 「これで合ってるよ、ありがとうお父さん」
 「ああ……眩しい笑顔……! きちんとお礼が言えるなんて、この子は天才だ!!」
 「うわあ!? ほ、ほら、お仕事しないと」
 
 親父が満面の笑みで頬ずりをしてきたことにびっくりして慌てて返すと、親父は顔を上げて口を開く。

 「ハッ! そうだね! 遊ぶために急ぐよ! というか読めないと思うから絵を見て楽しむ感じになるかな? 後で読み聞かせてあげるから待ってて欲しい」
 「ご、ごゆっくりー……」

 俺は苦笑しながら机に向かう親父に手を振り床に本を広げる。……そういえば三歳か、識字って何歳くらいからだっけ……? ま、まあ、いいか。立ったのも早かったし早熟ということで……

 というわけであの重い本を前にして座り込む。前回とは違い、初めから読破していくつもりだ。
 
 「ふーん、なんかゲームみたいだな。……おっと」
 
 不意に呟いたがちょっとまずいかと口を塞ぐ。
 ゲームという言葉自体は何となくありそうだけど、念のため聞かれない方がいいだろう。

 で、魔法はいくつかのクラスに分かれているようで『ライト』『ミドル』『ハイ』『エキスパート』『マスター』と言い、『マスタークラス』は世界に何人も居ないような記述があった。
 子供の頃ゲームなどでお馴染みなので、クラスなんかはすんなり入って来る。
 攻撃・補助・癒しといった構成もありそうなものだ。
 だけど一つ、あまり聞いたことがない記述を目にする。

 「えっと、魔法には詠唱が必要で現在は『略式詠唱』がポピュラー? 詠唱が長ければ魔力を練りやすいが隙がある……」
 
 まあ、タイマンで悠長に唱えている奴がいたら俺なら接近してボコボコにするだろう。
 例えば銃の利便性は構える、撃つという二動作で命を奪えることにある。
 そう考えると構え、詠唱、発動というプロセスが必要で、詠唱に時間がかかるとなれば撃たれる前に殴れが基本になるのではかろうか。

 それ故に『略式詠唱』とやらが発明されるのは理にかなっているとも言えるけど、この手の話を見て俺はいつも思うのだが――

 「……最初に使ったのは誰なんだろう」

 ということである。
 広まればこれが基本になるけど、その前はどうだったのか、とか背景を気にしてしまう性格なんだよな俺って。
 そんなことを考えていると、本に影が差し、見上げると親父が覗き込んでいた。

 「ん? 随分熱心に読んでいるけど、それは魔法書かい?」
 「あ、お父さん。仕事は?」
 「ふふふ、アルと遊ぶために終わらせたよ!」
 「すごいね! そういえばお父さんは魔法が使えるの?」

 俺が上目遣い(多分子供だから可愛いはず)で尋ねると、親父は俺を膝の上に座らせながら聞くと、あぐらをかいた自身の膝に俺を乗せながら困った顔で言う。

 「あー……はは、僕は魔力はあるけど魔法は得意じゃないんだ。ママならミドルクラスくらいまでなら使えるよ。攻撃魔法は使わないけど」
 「ふーん、お母さんらしいかな。どうしてお父さんは使えないの?」
 「うう……使えないって訳じゃないんだけど。アルは魔法を使いたいのかな?」
 「うん! お外で試してもいいかな?」
 「ははは、まずは詠唱できないといけないからね。まだ文字が読めないアルには無理だよ」

 ふむ、やはりそう来るか。
 ならばその親ばかを使わせてもらおう。

 「じゃあその詠唱をお父さんが言ってよ! そしたら僕が真似をするから」
 「パパの真似……父と子のふれあい……よし、それじゃあ行こう!」
 「うわあ!?」

 そうして俺は親父に肩車されて再び庭へ。

 ――行くはずだったんだけど。
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