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八神 凪

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第三章:最強種と

その59 シルバー()ドラゴン

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 <ちょうど息子夫婦が出かけていてな、留守を預かっていたところなのだ>
 <なるほどな。我は最近このヒサトラという男と契約をしてな、今は人間の町で悠々自適に暮らしておる。アロン……息子も成長しておるわ>
 <わふ♪>
 <いいのう。ウチのは嫁さんをもらうような歳だから可愛い盛りは終わってしもうた>

 あれから数十分。
 ドラゴンの巣は旧知を温める場となっていた。
 事情を話すと『いくらでも持って行け』とダイトの知り合い補正で一枚で人間の盾になりそうな鱗を数十枚もらうことができた。
 ちなみにサリアに動画撮影してもらっていたが、バッチリ回収するところが写っていたのでぐうの音も出ないだろう。

 で、このシルバードラゴンはここに棲んでいるわけではなくこのドラゴンの息子夫婦が家主(?)らしく、久しぶりの夫婦でお出かけということで留守番を任されているのだとか。

 「結構なお歳なんですか? ドラゴンってどれくらい生きるのか分からないですけど」
 <うむ。ワシがざっと400年ほど生きておるな、後200年くらいで死ぬかのう。人間ならもうジジイじゃ。故にシルバードラゴン……>
 「そっちのシルバーかよ!? というかそりゃ俺の世界のでしかも日本だけの和製英語だぞ、なんで知ってんだ……」
 <びびっと……>
 「来るのかよ……」

 由来は割愛するが、俺が生まれる相当前の鉄道会社ん時に出来て定着した名前らしいんだよな「シルバー=高齢者」って。なぜこいつが知っているのかわからんが、まあ大したことじゃねえしと話を続ける。

 「とりあえずダイトの知り合いで良かった。悪いけど貰って帰るけど、タダでもらうのもなんか悪いな」
 <生え変わりで取れるからワシにとっては処理してくれるならありがたいがのう>
 「そっか。好物とかあるのか?」
 <海に出ると戦いになるから魚はあまり食さんのう。でかい魚でもあればいいが、難しいじゃろ>

 ふむ、こいつも魚か。
 山に棲むとそういう機会はあまり無いらしく、魔物や動物の肉が主食なので海魚は貴重のようだ。
 気になるのは「戦いになる」部分だがあえて聞かないでおく。

 <わんわん>
 <ん? なんで戦いになるのか、だと? 海にもドラゴンがいるからのう、いわば縄張り争いみたいな感じじゃよ。今から100年前――>
 
 やべえ、年寄りの話が始まった。概ね同じ話を繰り返すことがいいから中々逃げられなくなること請け合いだ。さっさと用事を済ませるとか考えていると、サリアが空を見上げて指をさす。

 「あ! なにか降りてきますよ!」
 <あれもドラゴンだな。息子か?>
 <おお、息子夫婦だ。戻って来たか……む、いかん!? おいこいつらは客人じゃ!>
 「やべえ……!」
 <ヒサトラ、我の陰に!>
 「それじゃサリアが間に合わねえ!」

 空に居たドラゴンのうち一体が、俺達に向かって火球を吐き出してきた。
 慌てたシルバードラゴンが庇うように火球をぶつけてくれるが、砕けた火球が飛散して俺達に降り注ぐ。
 アリー達は盾で防御。
 だが、サリアとアロンはなにもないのでこのままじゃ大やけどだ……!!

 しかし……!!

 「きゃあぁぁ!?」
 「これくらいなら……絶好球だ!」

 俺はサリアの前に立つと、外角高めの火球をバットで打ち返す!
 変なスイングになったが、続けて2発、3発と返しことなきを得る。

 <ああああああああ!?>
 「あ、悪ぃ!?」

 悲しいかな、打ち返した火球はすべてシルバードラゴンのケツにヒット。暑さには強そうな鱗だがヒットした音がえぐいので物理は通ったようだ。

 だがそこは歴戦のドラゴン。耐えた後に息子たちへ声をかける。

 <お、おお……こやつらは大丈夫じゃ、お、降りてこい!>
 「痛そうですね……」
 「こっちも必死だったから勘弁してほしい」

 ◆ ◇ ◆

 
 <客人でしたか……失礼しました……>
 <てっきり狩りをしにきた冒険者かと>
 「いや、とりあえず無事だったからいい。こっちもさっさと帰れば良かったしな」
 「すみません、ご夫婦の巣だったと聞いています」

 俺とアリーが頭を下げる。
 すぐに誤解が解けて生え変わった爪と牙をくれたのだが、なんか悪いな。このサイズだとマグロくらいの大物を土産にしないと釣り合わない気がする。

 <大丈夫か?>
 <とうとう……限界みたいじゃ……。というのは冗談で、あれくらい屁でもない。尻だけに>
 「そんじゃまた来るよ、色々ありがとうな」
 <ワシの話をスルーした……!>

 暇なお年寄りの話はドラゴン夫婦にやってもらうとして、俺達はさすがにそろそろ退散を決め込むとする。ダイトの背に乗り、俺は三体のドラゴンに挨拶を。

 「また来るよ。今度は海魚の土産を持ってくる」
 <ほおう、そりゃ楽しみじゃて。ベヒーモス、また会おうぞ>
 <我の名はダイトだ。これからはそう呼んでくれ>
 <名前……>
 <いいなあ>

 羨望のまなざしでアロンとダイトを見ていたが面倒くさいことになる前に退散だ退散。
 ドラゴン達に見送られ、俺達は巣を後にした。

 「喋れるんですねドラゴンさんも」
 <歳を経るとあらゆる言語に精通するようになるのだ>
 「アロンも喋るんですよね?」
 <うぉふ?>
 <まだまだ先だがな。お前達が生きている間は難しいと思う>

 トラックに戻る途中、サリアの質問に答えてくれたが喋るようになるには後100年はかかるだろうとのことだ。長寿故に成長も緩やかなんだろうな。サリアが抱きかかえて残念と口にするが確かに俺もそう思った。

 目的の物は手に入れたし美味いものでも食って帰りますかね。


 ◆ ◇ ◆


 一方そのころ。

 <すみません父さん、留守を預かってくれて>
 <いい、いい。久しぶりの顔も見れたしな>
 <不思議な人間でしたわね。特に火球を返した男は他とちょっと違うかと>
 <うむ。ベヒーモスが契約を結ぶくらいだ、ただ者ではあるまい。ではワシも寝床へ戻るぞい>

 シルバードラゴンは大きく羽ばたき空を駆ける。
 しかしその時、後ろ髪を引かれるように空中で静止してリキトウ山を見据える。

 <……こっそりついて行こうかのう?>

 それは無理だと誰もが突っ込みたくなる言葉を発しながら、シルバードラゴンは踵を返すのだった。
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