異世界でトラック運送屋を始めました! ◆お手紙ひとつからベヒーモスまで、なんでもどこにでも安全に運びます! 多分!◆

八神 凪

文字の大きさ
上 下
58 / 85
第三章:最強種と

その57 ドラゴンの棲む土地

しおりを挟む
 「へえー、南の国のねえ」
 「はい。私はローデリア王国の貴族の一人でアリー=ホーランドと言います。この二人は私が試練を突破するためについてきてくれた者です」
 「そっちの領主も大変だな。女性が領主になることが無いわけではないが珍しいな?」

 なんとアリーは領主の娘で父親が病に臥せっていて次期領主争いの真っ最中だとのことだ。
 アリーには兄弟がおらず、従兄弟と結婚を迫られているらしい。

 「あの男と結婚するのは嫌なんです……だけど弱っている父を叔父が言いくるめようとしていまして……。先にお話しした通り試練をクリアしなければ家を継げません。女である私がそれは無理だろうと」
 
 どうも叔父もその息子も金目当てであまりいい性格をしているわけではないらしく、可愛い顔立ちのアリーだが顔が歪んでいた。怖い。
 まあ、そんなわけで一年かけて試練をクリアすれば家を継ぎ、好きな男と結婚できるという条件に臨んだってわけだ。

 「その条件がドラゴンの鱗を手に入れること、か」
 「はい。ローデリアにある山に棲む赤い竜の鱗を手に入れる……それが代々伝わる試練なんです。父もやりましたし、部屋に飾られていますよ」
 「それで力をつけるために冒険者としてやっているのですが、残り二か月で達成できそうにありません。ですが、一枚でも奪って逃げきれればと思いこうしてご相談させていただきました」

 ビリーが難しい顔で首を振り、相当その叔父息子との結婚は回避したいらしい。
 そこでサリアとリーザ様が拳を握って俺に声をかける。

 「話を聞きましたがセクハラをする金に汚いクソ野郎みたいです! アリーのためにもここは力を貸しましょう!」
 「そうですわ! 好きな人と結婚できないなんて許せません!」
 「お、おう」
 <わん>

 事情は分かったが、もうひとつ気になることがあるのでそっちについて聞いてみることにする。
 
 「まあ、協力するのは次の休みなら構わないが……親父さん病気なんだろ? アリアの花を欲しがったのは回復も視野に入れているからじゃないのか?」
 「……はい。利用したことは謝ります……」
 「あ、いや、そうじゃねえんだ、ウチも母ちゃんの病気を治すため調査している訳だし、ついでに親父さんの分も手に入れておいた方がいいんじゃねえかなって」
 「さすがヒサトラさん! 私もそう思ってました!」
 「うわ!? よせって!?」

 サリアが歓喜の声を上げて抱き着いてきたので慌てて受け止めてからアリーに目配せをすると、今まで緊張があったのだろう。一筋の涙が流れていた。

 「ありがとう……ございます……」
 「なあに、俺もこの世界に来てかなりみんなに世話になってるからな」

 ということでまずはドラゴンの鱗をゲットし、継承できるようになったら次に治療薬の材料集めをすることを目標に行動しようということになった。

 「別の国の事情ですが大丈夫なんですか?」
 「ん? 別に構わないぞ? 他国だろうが人は人。協力し合うのが当然だろう」

 それが出来ない人間が国を預かると戦争を起こすのだと珍しく真面目な顔で度量の高いことを口にし、騎士達から拍手が沸き起こっていた。

 しかし――

 「……ゴルフはお預けか」

 やはりソリッド様だったとさ。


 ◆ ◇ ◆


 そして温泉を堪能してすぐに王都へ戻り、翌日からの仕事に備えて素早く飯を食って就寝。
 アリー達はどうするのかと言えば、ドラゴンのところへ行くまで仕事を手伝ってくれるとのことで、一緒に宅配をして回ることに。

 まさかこんなことになるとは思わなかったが持ちつ持たれつだと思うので、出来る限り協力はしたいと考えている。特にドラゴンとなればベヒーモスであるダイトの力が必要になるかもしれないしな。

 <ふあ……>
 <きゅーん……>

 庭先であくびをする親子は特にドラゴンと聞いても特に気にしていないが、勝てるのだろうか? 一応最強種だし戦ったこともありそうだ。
 そこから五日ほど宅配に従事し、アリー達が居ても特に問題なく仕事が終わる。
 五人で生活しているとそれはそれで楽しかった。
 ビリー・ジミーは兄弟で、ビリーの方がアリーの恋人なんだと。で、そのアリーはお嬢様らしく料理がまったくできないというのがそれっぽくて面白かったな。

 ビリーと結婚させるためにも頑張ってやらないとな。
 祖母はまだ生きているらしいが、達成するまでは家に戻れないそうなので俺の目的を果たすためにもここは一肌脱がねばならないのだ。

 そして休日、俺達はローデリア国に入ることになるのだが……

 「ちょ、なんだこれは!?」
 「トラックという乗り物だ。私はソリッド、ビルシュ国の王をやっている」
 「ビルシュ国王様!? それに上に乗っているのは……」
 「ベヒーモスだ。急で悪いがドラゴンの棲む山へ行かせてもらうぞ」
 「あ、はい……お通り、ください……ええー……」

 なんとソリッド様もついてきていたりする。
 トラックが怪しまれれば先に進めないだろうということで、ビルシュ国側の騎士達と国境警備兵が証人としてついてきたというわけだ。いや、いいのかマジで?

 「い、いいんでしょうか……」
 「まあソリッド様には逆らえないしなあ……」
 「早く終わらせてゴルフとやらをやるのだ! ヒサトラ君頼むぞ!」
 「ま、早く終わらせるのは同意しますよ。……んじゃ行きますか!」
しおりを挟む
感想 167

あなたにおすすめの小説

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

ガチャと異世界転生  システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!

よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。 獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。 俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。 単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。 ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。 大抵ガチャがあるんだよな。 幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。 だが俺は運がなかった。 ゲームの話ではないぞ? 現実で、だ。 疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。 そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。 そのまま帰らぬ人となったようだ。 で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。 どうやら異世界だ。 魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。 しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。 10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。 そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。 5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。 残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。 そんなある日、変化がやってきた。 疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。 その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

異世界の片隅で引き篭りたい少女。

月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!  見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに 初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、 さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。 生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。 世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。 なのに世界が私を放っておいてくれない。 自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。 それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ! 己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。 ※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。 ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。  

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

処理中です...