56 / 85
第三章:最強種と
その55 アノクタラ山脈に咲く花
しおりを挟む「あら、寝てしまったのね」
「朝から遊んでましたから疲れたのかもしれません」
「おーい、後ろは平気か?」
「あ、はい……ダイジョウブ、デス」
またしても騎士達がコンテナに待機したのでぎっちりと詰まっていたので聞いてみたが、アリーは大丈夫ではなさそうだった。少しだけ辛抱して欲しい。
ちなみにソリッド様と一緒の来る騎士はちゃらんぽらんのように見えて近衛騎士で、ほぼ最強クラスの力があるのだとか。
「おお、魔物が蜘蛛の子を散らすように消えていくぞ。ベヒーモスのおかげだな!」
「毛皮を剥がれたくなかったらあっちへ行きな!」
蛮族か。
こんなヤツらだが強いのであるから異世界は分からない。
まあ気のいいことと、族時代の奴等を思い出すから悪い気はしないけどな。
アノクタラ山脈へはアリー達と出会った山を迂回して行く。
概ね6、7時間の行軍なので到着予定だが昼前に出発したことを考えると途中サービスエリア……もとい町で一回休憩して、山の近くで一泊する形になりそうだ。
明後日の仕事を考えると時間はあまり多くないと思っていいだろう。
問題はジミー曰く、咲いている場所がどのあたりなのかまでは分からないこと。漫画とかだと変な崖とか魔物の巣の近くとかにあったりするから明日中に探し当てられるのは難しいかもしれない。
図鑑の絵を知っているアリーが居なければどういう花なのかも分からないので、短期決戦が望ましいところだ。
そして休憩中のサービスエ……町で少し休憩。
「あの子達にお土産買って行きましょうか?」
「そうだな、今日も黙って出てきたし――」
まだ見ぬ王子に僅かの同情を感じる。いつかお礼の品を持って行こう。
「あそこの屋台のお菓子、美味しそうですよ」
「買いましょう!」
サリアやアリー、騎士達も軽くおやつを食べながら背伸びをしたりしてゆっくり過ごした後に出発。さらにアノクタラ山脈の麓にある町で一泊をし、いよいよ山へとトラックを入れる。
<ふむ、標高が高いから寒いな>
「だな。みんな大丈夫か?」
「冒険者や騎士はこういうのを想定していますから大丈夫ですよ」
鼻水を垂らしながら言うこっちゃねえが、ビリー達はマントを羽織り出したので準備は万端らしい。
だが、ソリッド様とリーザ様はラフな格好なので涼しいを通り越して寒いようで体を震わせていた。
「エアコンをつけますよ」
「えあこん?」
「まあ、すぐわかりますよ」
程なくして温風が出てくるとリーザ様が驚きながらも笑顔になる。
コンテナを閉めようかと提案もしたが、花が道中にあるかもということでそのままだった。だが、登るに連れて気温は下がっていく。
そして――
「これ以上はトラックじゃ無理だな」
「道が無くなっちゃいましたね。元々、人があまり立ち寄るような場所じゃないですし仕方ないですね」
「それじゃ、ここから足を使って探すか。ビリー達しか花は分からねえし一緒に行動してくれるか? ダイトはソリッド様達を守るのにここに残ってくれ。サリアもトラックだ」
<む? それは構わんがいいのか? 我の背に乗った方が速く動けると思うぞ>
「そうだな。私達には騎士も居るし、時間をかけないほうがいいだろう」
いや、ここに来るまで結構凶悪な魔物が見えたような気がするけど……
ま、まあ、本人がいいって言うならさっと移動すべきかとダイトに頼んで背に乗せてもらう。
<毛を掴んでいていいぞ>
「い、痛くないのか?」
<問題ない。少し走るぞ、久しぶりだな山の中も>
<わぉん♪>
結局冒険者の三人と俺、そしてサリアとアロンが探索に入る。
俺は寒いのは平気だがサリアには酷だろうとジャケットを着て貰った。
針葉樹林のような木々の間を抜ける間、アリーはずっと目を凝らして草木を見ていたのだが――
「無い、ですね……」
「どういうお花なんですか?」
「色は白で、五枚の花びらでしたね。中心は赤紫みたいな感じだったかと……すみません、図鑑で見たのも結構前なので……」
「まあ、治療薬の材料になるようなものだし、そう簡単には見つからないんじゃないか? 気長にやろう。えっと、白い花びら5枚だな?」
ダイトにゆっくり移動してもらい、山の中を探索に数時間ほどかけてあちこちを探しまくったがそれらしい花はさっぱり見つからない。
「ねえな……時期とかが関係してくるとかないか?」
「あー、それはあるかもしれませんね……そこまできちんと調べてないので……」
ビリーが申し訳なさそうに頭を下げるが、年数はまだあるし定期的にここへ来てもいいと思う。重要なのは情報で、最悪誰かに頼んで持ってきてもらうくらいの頭はある。
さらに1時間ほど経過したところでお昼になり、俺達は一旦トラックへ戻ることに。
「しかし、崖とかすげぇな。落ちたらひとたまりもないぜ」
<ここは昔訪れたことがあるが、遭難者も多く居たな。人間の骨なんかがあちこち埋まっていると思うぞ>
「や、やめろよ。……ん? ちょ、止まれダイト!」
<おう!? 角は止めろ!? なんだ?>
ダイトの角を引いて立ち止まらせて降りると、眼下に見える崖、その対面側にそれらしい花が咲いているのが見えた。
「あ! アリアの花!」
「3輪咲いてますね。でも場所が……」
フラグを立ててしまったのを悔いるほど辺鄙な場所に咲いていた。ほぼ垂直の切り立ったところなので命綱がないと確実に死ぬ。
「どうします? 出直した方がいいですかね」
「いや、みすみす逃すのも勿体ねえ、ロープはあるからこいつを体に結んで降りる。ダイトが引っ張ってくれたらいけるだろ」
<やってみるか>
「き、気を付けてくださいね!」
サリアが両こぶしを胸の前で握り、心配そうに呟く中俺はゆっくりと下がっていく。
根元から三本抜いてツナギの胸ポケットに入れて合図をする。
また少しずつ上がっていくと――
<きゅん! きゅん!>
「きゃああ!?」
「こいつ……!」
上が騒然とし、サリアの悲鳴とビリー、ジミーの怒声が響く。
俺はサリアの悲鳴にドキッとした俺は――
「うおおおおおおおお!」
<むお!? 両手で登るだと!?>
ダイトが驚愕の声を上げるが、俺は構わず一気に登り切り、背中のバットを抜いてサリアの前へ出る。
「ヒサトラさん!」
目の前にはキツネの化け物みたいなやつが立っていてこちら睨みつけていた。恐らくだがダイトが動けないと知り、狙って来たのだろう。
「ああ? なにガン飛ばしてんだてめぇ? やるなら相手になんぞ? そん時は覚悟できてんだろうな……?」
俺は負けじと睨みつけながらその辺にあった石をバットで殴って粉々にする。
すると、その瞬間キツネの化け物は尻尾をおっ立ててびくっと身体を強張らせた後、
「コーン……」
「あ、逃げました!」
<わんわん!>
逃げた。
「チッ、逃げるなら最初からくるなっつーの」
「あ、いや、俺達も驚愕してるんですけど……。今砕いたやつ……アイオライト……」
「それが砕けるならクレイジーフォックスの頭蓋なんてひとたまりもないから逃げたのかと……あいつ賢いので……」
「ああ、それで……」
<きゅーん♪>
「おう、お前も頑張ったな。っと、手に入れたぜ」
「わあ、キレイですね!」
誇らしげに鳴くアロンを抱っこしながら、俺はアリアの花をゲットできたことを喜ぶ。
まずは一つ、か。
初回で手に入れられたのは良かったと胸をなでおろしながらトラックへと戻るのだった。
1
お気に入りに追加
520
あなたにおすすめの小説

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

ガチャと異世界転生 システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!
よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。
獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。
俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。
単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。
ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。
大抵ガチャがあるんだよな。
幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。
だが俺は運がなかった。
ゲームの話ではないぞ?
現実で、だ。
疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。
そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。
そのまま帰らぬ人となったようだ。
で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。
どうやら異世界だ。
魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。
しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。
10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。
そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。
5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。
残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。
そんなある日、変化がやってきた。
疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~
石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。
ありがとうございます
主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。
転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。
ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。
『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。
ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする
「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

異世界の片隅で引き篭りたい少女。
月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!
見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに
初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、
さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。
生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。
世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。
なのに世界が私を放っておいてくれない。
自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。
それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ!
己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。
※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。
ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした
高鉢 健太
ファンタジー
ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。
ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。
もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。
とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

ぽっちゃり女子の異世界人生
猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。
最強主人公はイケメンでハーレム。
脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。
落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。
=主人公は男でも女でも顔が良い。
そして、ハンパなく強い。
そんな常識いりませんっ。
私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。
【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる