異世界でトラック運送屋を始めました! ◆お手紙ひとつからベヒーモスまで、なんでもどこにでも安全に運びます! 多分!◆

八神 凪

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第三章:最強種と

その50 契約効果

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 「さて、ゆっくり休んだし今日からまたバリバリ働くぞ!」
 「はーい」
 <わんわん!>
 <うむ、情報収集もな>

 バスレイが出現した次の日はソリッド様が来てまた大変だった。
 飯を食って帰るだけなのだが、国王だということを自覚して欲しいものである。
 
 それでも気を使ってくれたのか、朝ごはんを食べて帰っていった。
 明後日は魚屋が仕入れをしたいと移送を頼まれているので、その時にめぼしいものを買って来てくれと頼まれたあたりちゃかりしているよ。

 そんなこんなで今日は南東方面の移動となる。果実や木材の販路で山が多い地域らしい。
 途中までは普通の道で、ふもとの町までは問題なし。

 「いやあ、こんなに早く届くとは思わなかったよ。これから狩りの時期だからこいつが無いとね」
 「またいつでもどうぞ!」

 弓矢で狩りをする冒険者が手紙で王都の鍛冶屋に注文していた矢と矢じりをウチに配送を依頼してきた。
 今、受け渡しが終わったがこれから数か月、増えた魔物の討伐に追われるそうだ。
 素材や肉が手に入る反面、危険も伴いため準備は怠らないのだと笑っていたが物騒である。
 まあ俺がそういう仕事をしていないだけで狩りはメジャーな仕事というのは理解できるけどな。

 それはともかく――

 「さて、サリアとコヒーモスはこっちの方だっけか」

 早めに配達が終わったので手伝おうかとサリアに任せた付近を歩いていく。山の麓イコール魔物も多いことから高い壁があり、戦える人間も多い町ということで武装した衛兵やらがよく目につくし冒険者らしき人間も闊歩している。
 危険だが資源を手に入れるには多少は目を瞑るといったところだろうか。実際、桃やブドウ……だよな? といったフルーツがたくさん店頭に並んでいるのは王都でも見たことが無い。

 適当にコヒーモスとサリアに土産として買い探していると見慣れたツナギを着たサリアの後姿を確認できた。
 ……のだが、少し様子がおかしい?

 「あの、お仕事中なのでそういうのはちょっと」
 「だから仕事が終わってからでいいって言ってんだろう? 首を縦に振るまでここは通さねえけどな!」
 「……」

 チッ、ナンパか。
 いつかは起こりうるだろうとは思っていたが、目の当たりにすると面倒くせえもんだ。念のため担いでいるバットを袋から取り出して近づいていくと、コヒーモスがサリアの前に出て足元で吠えまくっていた。

 <ウウウウウ……がう! わんわん!>
 「なんだぁ?! 犬か……? うるせえな、黙ってろよ」
 <きゅん!?>

 まずい、男がコヒーモスに手を伸ばすのが見えて俺は速度を上げる。どうするつもりかわからんが、ロクでもないことは確かだ!
 しかし距離がまだある……間に合うか!? そう思ったところで、サリアが動いた。

 「待ちなさい」
 「お、なんだ、やっとその気にな――」
 「コヒーモスちゃんになにをするつもりですか!!」
 「――なあああにぃぃぃぃ!?」
 
 おお……!?
 どういう状況か説明しよう!
 コヒーモスを捕まえようとした腕をサリアが掴み、怒りに任せてぶん回した結果、男は派手に吹き飛んで壁に叩きつけられたのだ……! あれ、そんな怪力設定あったっけ!?

 「大丈夫か!」
 「あ、ヒサトラさん!」
 <きゅんきゅん♪>
 
 特にケガなどはない、か。それにしても今のは一体?
 合流したところで、吹っ飛ばされた男が再び突っ込んでくるのが見えた。

 「くそが……!! こうなったら力づくでも!!」
 「サリア、下がってろ。俺がやる」

 そう言って前に出ようとするが、サリアはウインクをして逆に突っ込んでいく。な、なにやってんだ!?

 「止めてくださいって……言ってますよね!!」
 「な!?」
 <わぉーん♪>
 「ぐあぁぁぁぁぁ!?」

 掴もうとした男の腕をすり抜け、突き倒すようにサリアが腕を前に出すと、男は再びぶっ飛ばされ、二回、三回とバウンドをした後うつ伏せになって動かなくなった。

 「そんなに強かったのかサリア……?」
 「えっと……よく分からないんですけど、さっきカッとなった瞬間力が湧いてきて……」
 「そうなのか? まあ、無事ならいいけど……おい、あんた生きてるか?」

 襲い掛かって来たヤツを手当てするかと木の枝でつついてみると、

 「ぶわ!? こ、この俺が小娘に……」
 「おう、元気そうだな? ウチに連れに手を出そうとはいい度胸だが、派手にやられたしこのまま立ち去ってくれるなら穏便に済ませてやるぜ?」
 「なんだ兄ちゃん、俺とやるってのか? さっきは油断したが――」
 「つべこべ言わず立ち去れや? な?」

 俺は今出来る全力の笑顔で、持っていたバットを男の肩にこつんと乗せる。すると、肩アーマー部分がぐにゃりとへこみ、男は鼻水を出して青ざめた後、

 「な、なんだこいつら、オーガの親戚かなにかかよ!?」

 急いで立ち上がり、目にもとまらぬ速さで消えて行った。ふん、ボルボの時以来、久しぶりにキレちまったぜ。

 <わん!>
 「おう、ありがとうな、サリアを守ってくれてよ。トラックに帰ったらこいつを食わせてやる」
 <きゅふ~ん♪>

 なんとも言えない声を上げて俺の足をよじ登り、肩に乗るコヒーモスに苦笑しつつ、サリアに声をかける。

 「残りは?」
 「あと一軒ですね!」
 「よし、一緒に行くか」
 「はい!」

 荷物は俺が持ち、ラスト一個を持って行った後、その辺の露天で昼飯を買ってトラックへ戻るとコンテナの上に載っている父ベヒーモスが子供に囲まれていた。

 「かっけぇ!!」
 <そうだろう? 我ほど強くてカッコいい存在は……痛っ!? こら、尻尾を引っ張るんじゃない!>
 「わ!? すげえ!」
 「戻ったぞ。ほら、こいつは危ない魔物なんだあっち行って遊べよ」
 「はーい」
 「じゃあなライオン!」
 <ち、違う!!>

 子どもたちは父ベヒーモスをライオンと間違えているらしく、そんなことを言いながら散っていく。子供は怖いもの知らずで元気だな。

 <まったく……最強種の我をライオンなどと……>
 「まあ、帽子で角が隠れているから同じに見えるんだよ。ほら、昼飯」
 <おお、助かる。そういえば見ていたが、サリアが派手にやっていたな。あの男が吹き飛ばされるのは傑作だった


 尻尾でパンで肉を挟んだハンバーガーみたいな食い物をさっと俺から受け取りさっきの出来事を口にする。

 「お、見てたのか」
 <うむ。息子と契約したから我等の力を使えるようになったからな。ただの暴漢相手なら余裕で勝てる。魔法でもないから魔封じの魔道具のようなものでも抑えられないから人間の中ではかなり強者になったはずだ>
 「は?」

 俺とサリアが訝しんだ声を上げる。ベヒーモスの力が使える、だと?
 
 「そりゃマジか……?」
 <わん!>
 「そうみたいですね」
 <そうだな。まあ、困るものではなかろう。異世界のアイテムを守るにもちょうどいいだろ>
 「軽いな……」

 確かにサリアがどうにかならないならこれほど安心なことはないので、頼もしい限りではある。
 というか俺もそうなのか?
 なんとなく握りこぶしをつくりながらフルーツジュースを飲み干す。

 ……ま、いいか。次は山の向こう側にあるらしい町へ向かおう。
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