異世界でトラック運送屋を始めました! ◆お手紙ひとつからベヒーモスまで、なんでもどこにでも安全に運びます! 多分!◆

八神 凪

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第三章:最強種と

その48 サリア、静かに怒る

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 「またよろしく頼むよ! 兄ちゃんたちは仕事が早いし安心だ!」
 「はは、強力なヤツも乗っているから盗賊も手出しできませんからね」
 <わんわん!>

 足元のコヒーモスがぐるぐる回りながら嬉しそうに鳴く。番犬……犬では無いが、役に立っていると感じているのだろうか? 荷物をお届けが終わり、トラックへ足を運ぶ俺とコヒーモス。
 
 今日は王都から東へ走り、また端から戻るルートを開拓していて、今のおじさんにに届け物をしてノルマは終わり。後は時間に王都へ戻る冒険者を待って帰るだけである。

 「ほら、危ないぞ」
 <きゅん!>
 「あら、可愛い~」
 「珍しい犬ね」

 こいつのおかげもあって、王都では女性なんかも運送屋に足を運んでくれるからいい収入源になっていたりする。
 男はサリア目当てで来たりするので、いいことだがそこは複雑な心境だ。

 で、すでに運送業を再開して7日が経過。
 今のところは問題無く操業できているのでホッとしている。
 一応、これでこの国の東西南北は全て回ったことになり、だいたいの町を把握したので速度を上げるポイントをつくることで効率化が図れるのではないかと考えている。

 「お待たせ」
 「あ、お帰りなさい! 私も配り終えましたよ」
 「こっちにコヒーモスを連れて来てたけど大丈夫だったか?」
 「はい! コンテナの上にいるお父さんが怖いですからね、みなさん! ふふ」
 <サリアになにかあれば我もヒサトラも悲しくなる。息子も契約しているし全力で守るのは当然のことだ>

 頼もしい言葉だ。
 頭に乗っている帽子が凛々しく風に揺られ、息子も得意気な顔をしている。

 「帰るか」
 「そうですね。冒険者さんも集まってきましたし」
 <いま我、かっこよかったよな!?>

 という感じで人間(?)関係も良好である。
 
 そんな俺達も働きづめでは疲れるので、五日働いて休みを2日取ることにしている。こっちにはいわゆる『週』という概念は無く、一か月は30日というサイクルを10か月。それで一年らしい。
 なので、毎月〇日は休みとか三日働いて1日休むみたいな感じで働いているみたいである。

 今回は初動ということもあり、七日働いたが次回からは五日に2日休むつもりだ。
 
 そして休みの初日にそれは起きた。

 <きゅ~ん♪>
 「はは、お気にいりになっちゃったな。……ん?」

 「この家ですかね」
 「ハッ」

 コヒーモスがトランポリンで遊んでいるのを横目に朝の一杯(積み荷のコーヒー)を飲むため庭で火を熾していると、数人の騎士が突如、静かな空気を打ち破る。
 見慣れたやつもいるし、ソリッド様のお使いかと思っていると――

 「ほほう、これが異世界の乗り物ですか?」
 「はい。陛下が絶賛しておられたものですね。私達も乗りましたが足が速く頑丈で、移動するならこれが間違いないでしょうな」

 ――眼鏡をかけた女性がトラックの周りをうろうろしながら顎に手を当てて眺めていた。騎士もなぜか得意気である。

 「誰でしょうね」
 「いいローブを着ているからお偉いさんっぽいけど……」

 ひとしきりトラックを眺めている女性を俺達一家が眺めるという謎の図式がしばらく続いた後、眼鏡の女性が俺達に気づき、近づいて来た。

 「やあやあ、初めまして! あなたがヒサトラさん?」
 「はい、そうですけどあなたは?」
 「よくぞ聞いてくれました! わたしの名はバスレイと言いまして、城に仕える魔道具開発の主任をしております」
 「はあ、ヒサトラです」
 「サリアです、初めましてバスレイ様。それで本日はどういったご用件でしょう、お仕事は本日お休みになるのでご依頼なら後日で……」

 サリアがコーヒーを俺の前に置きながらそう告げると、バスレイという女性は手を前に出して『皆まで言うな』と制した後、口を開く。

 「今日はヒサトラさんに話が会って来たのでお仕事ではありません。さて、聞けばあなたは異世界から色々と道具を持ってきているらしいですね?」
 「ああ、まあ俺のって訳でもねえけど、もう戻れないらしいから事実上ウチの財産にはなるけどな」
 「なるほど。……今日は、その性能とやらを見せてもらおうと思って来たのです!」
 
 なんでそうなる、と思っていたが彼女は魔道具開発をしているため騎士達から聞いた話が気になっていずれここに来るつもりだったとのこと。
 
 <ヒサトラ、そろそろ朝ごは――>
 「野営をする時に一番重要なもの……それは火です! この火を熾す魔道具……むむむ……魔力を込めればこの通り、これが火だねになるんです。フフフ、異世界にこれほどのものは無いでしょう」
 「まあ……」
 
 手のひらサイズの鉄の棒のようなものの先から火を出し俺は素直に感心する。そういうのあったかなと思いながら生返事をしていると、

 <なあ、我と息子だけでも先にごは――>
 「ヒサトラさん、あれがあるわ」

 サリアが口をへの字にして俺の胸ポケットを指しながら言う。確かにあれなら魔力を込めるより早いかとライターを取り出して手の中で弄ぶ。
 
 「なんですかそれは? さすがにこの魔道具に敵うものではありま――」
 「ほれ」
 「指先ひとつで!?」

 ライターに火をつけると、身体をオーバーにのけぞらせて驚愕の表情を浮かべるバスレイ。まさに指先でダウンしたわけだが、そこでサリアは畳みかけていく。

 「甘いですね、バスレイさん? これはパソコンと言って、この中で文字のメモなどを取ることができ、さらに地図まで表示させることができます」
 「なんですと!?」
 「こっちのポットという道具は魔力を込めればほぼ半永久的にお湯を残せます」
 「カルチャーショック!?」
 「そしてこれがテント。雨風を凌げるぜ」
 「毎日がエブリデイ……!?」

 意味が分からん上にテントはこの世界にもあるだろうが。
 ノリで俺も紹介してみたが、ずいぶんショックを受けているようだな。恐らくだが、騎士達がちやほやしていた異世界道具に対抗すべくやってきたのだろう。

 「ほうら、扇風機ですよー」
 「ああああ、涼しい風が三段階!」
 <ご飯……>

 だが現在、サリアに打ちのめされている最中なので目論見が完全に外れたのだろう。騎士達はキレイに整列してそれを眺めているので、なんかひと悶着があったのかもしれないな。

 そしてひとしきり儀式が終わった後、地に手をついていた彼女は顔を上げて俺に口を開いた。

 「……フフ……異世界の技術……御見それしました……。ヒサトラさん」
 「なんだ?」
 「わたしと結婚しましょ……うぶ!?」
 「は? 面白いことを言いますね、初対面の方が……」

 瞬間、サリアの手がバスレイの頬を両側から潰し今まで見たことが無い冷ややかな目で見つめた後、

 「……」
 「おお……見事な簀巻き……」
 「流石はサリアさんだ……」

 サリアの手によって近くの木に吊るされる結果と、なった。
 
 一体何しに来たんだ……?
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