異世界でトラック運送屋を始めました! ◆お手紙ひとつからベヒーモスまで、なんでもどこにでも安全に運びます! 多分!◆

八神 凪

文字の大きさ
上 下
46 / 85
第三章:最強種と

その45 理由:でかいだけで役に立ちそうにない

しおりを挟む
 

 黒い犬かと思いきやベヒーモスの子だった子犬。
 その親が獣魔契約をしないかと問いかけてきたのだが、その辺はみな、詳しくないようで当人に聞くことに。

 一応、俺はトラックに乗ったままにしてコンテナに載った騎士達は念のため取り囲んでくれている。

 「「「おえええええ……!!」」」

 汚物をまき散らしながら。
 コンテナが汚れるのも困るが、それは俺のせいなので構わなかったのに満身創痍でベヒーモスの前へ躍り出たのは騎士の鑑かもしれない。

 さて、取り囲むのは失礼かとも思ったがそれほど気にしていないようでベヒーモスは口を開いた。

 <それほど難しくはない。我が人間のお前と不本意ながら主従関係となるのだ>
 「不本意、ねえ。ならお前が上だってか?」
 <いや、他の魔物ならともかく我とお前は対等な存在で……いわばパートナーとして一緒に生きていく形になる。メリットは我という強者が傍にいること。デメリットは食事は賄ってもらうことくらいだろうか。息子ともども世話になる>
 「いや、いいや。お前達、山へ帰ろう?」
 <きゅーん……!?>

 親父ベヒーモスに引き渡そうとしたが、コヒーモスが俺の腕にしがみ付いて離れようとしない。
 困ったなと思いながら目を丸くしている父親に話しかける。

 「いや、実際お前みたいなでかいのが王都に行かれても困るし、食費はやばそうだ。俺は冒険者でもないから強さはそれほど必要ねえしなあ。メリットが無さ過ぎんだよ」
 <ぬう……まさか即拒否されるとは……>
 <わんわん!>
 <すまぬ……父は無力だ>

 息子に吠えられてシュンとなる親父はちと情けない。まあ、子供に甘いのはどの親でも同じかと少しだけほっこりしてしまう。
 だが、ベヒーモス達にはここでお帰りいただかなければならない。

 「ほら、諦めて帰れって」
 <きゅーん!>
 「わ、凄い力。懐かれちゃいましたね」
 「うーん、困ったな……」

 サリアがコヒーモスの背中を撫でながら困った顔で笑っていると、ソリッド様が助手席から声をあげる。なにか考えていたようだが……?

 「ベヒーモス殿、質問だが例えば私が契約をするというのは難しいか?」
 「ソリッド様!?」
 
 いきなりの宣言に驚くが城の防衛なんかには役に立つかと思い至る。強力な個体で、食事も城なら用意できると考えるなら安いかもしれない。だが、ベヒーモスは首を振って答えた。

 <それは無理だ。息子が懐いているのはそっちの男と女で、我を倒したのはその男だからだ>
 「むう、それは残念だ……」
 「まあ、仕方ないですよ。ほら、とりあえず息子を連れて行ってくれ」
 <わん! わんわん……!>

 どうしても離れたくないのか、いやいやと頭を振るコヒーモスに口をへの字にする俺。ベヒーモスも困った顔で俺を見るが、しっかりしろよと思う。するとサリアが口を開く。

 「お父さんは他にできることは無いんですか? 私達はこのトラックという乗り物でお荷物をあちこちの町へ運ぶお仕事を始めるんです。それとヒサトラさんのお母さんを治療するための薬を探しています。情報とかあればもしかしたらヒサトラさんが動くかもしれませんよ?」
 <ふむ……>

 強さ以外ではやはり難しいのだろう、目をつぶって考え込んでいる。
 今まで町から町へ運んでいても魔物の脅威というものには会わなかったからさっきの通りなんだが――

 <そうだな、やはり我は戦いでしかない。そのとらっくとやらの屋根に乗って守護するのが手一杯>
 「なら――」
 <まあ聞け。だが薬の方はもしかしたらなんとかなるかもしれん>
 「マジか!? なんか思い当たることがあんのか!」

 嘘じゃねえだろうなと窓から顔を乗り出すと、ベヒーモスはなるほどと思うことを口にする。
 それは魔物と喋ることができるため、戦闘回避をしつつ、魔物から情報を集めることができると言うのだ。
 俺達は冒険者じゃないし、ベヒーモスなら言うことを聞くだろうということらしい。

 「人間以外からも情報が集まれば単純に数が増えるし、アリかもしれないな」
 <うむ。どうだろう、息子が飽きれば契約を破棄してくれても構わない。少し家に置いてもらえないだろうか?>
 「ありがたいが……」
 「ウチは構わんぞ。町にはおふれを出しておくし、もう少し庭を拡張してもいい。後は本当に町に被害を出さないと約束してくれれば、だな」

 珍しく王っぽい言葉を出してベヒーモスに目を向けるソリッド様。そういや怯みもしていないし、覚悟はいつもしてるんだろうな。

 <無論だ。ヒサトラが我を制止するよう命令すればいい>
 「そこまでするのか息子の為に……」
 <息子だからこそだ。……母親は産んだ時に死んでしまってな、なんとか我一人で育てなければならん。小さい間くらいは我儘を聞いてやりたいのだ>
 「ああ……」

 そういうことか……プライドよりも息子を優先したいらしいや。
 俺は母ちゃんの為に奮闘する勢いだが、母ちゃんが俺にやっていたように、親が子を想う気持ちってやつだな。

 「……泣かせるじゃねえか。いいぜ、獣魔契約とやらに応じてやろうじゃねえか!」
 <おお! よし、なら息子よそっちの女と契約をするのだ>
 <うぉふ!>
 「どうやるんです?」

 サリアが飛びついてきたコヒーモスを抱きしめながら尋ねると、親子がなにか呪文のようなものを口にした後、俺とサリアの前に指輪が出現した。

 <それをつけて魔力を込めろ。それで完了だ>
 「こう、か?」
 「あ、なんか指輪が熱く――」

 その瞬間、親子の額に小さく紋様が浮き上がる。これで完了とのことだ。

 <よろしく頼むぞヒサトラ、サリア!>
 <わんわん!!>
 「仕方ねえなあ……」
 「よろしくお願いしますねベヒーモスさん! 名前は無いんですか?」
 <そうだな……野生の魔物はそんなものだ>

 なら考えましょうかとサリアが笑顔で手を合わせ、まずは戻ることが先決だと俺はトラックを回す。
 コンテナの上に載って楽をしたいというベヒーモスは見た目にそぐわず意外と軽かった。
 騎士達が窮屈そうだったが、まあ最強種の一角らしいので逆に安全だったりしてな。

 ……にしても、変なのが増えたな。

 <わんわん♪>
 「今日から一緒ですよー」

 ま、コヒーモスは可愛いしサリアも嬉しそうだ。結果オーライってことにしとくかね。
しおりを挟む
感想 167

あなたにおすすめの小説

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

ガチャと異世界転生  システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!

よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。 獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。 俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。 単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。 ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。 大抵ガチャがあるんだよな。 幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。 だが俺は運がなかった。 ゲームの話ではないぞ? 現実で、だ。 疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。 そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。 そのまま帰らぬ人となったようだ。 で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。 どうやら異世界だ。 魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。 しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。 10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。 そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。 5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。 残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。 そんなある日、変化がやってきた。 疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。 その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

異世界の片隅で引き篭りたい少女。

月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!  見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに 初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、 さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。 生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。 世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。 なのに世界が私を放っておいてくれない。 自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。 それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ! 己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。 ※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。 ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。  

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

処理中です...