異世界でトラック運送屋を始めました! ◆お手紙ひとつからベヒーモスまで、なんでもどこにでも安全に運びます! 多分!◆

八神 凪

文字の大きさ
上 下
43 / 85
第三章:最強種と

その42 不穏な空気

しおりを挟む
 「あ! あんちゃん!」
 「おう、お前等まだ寝てないのか」
 「おねーちゃーん!」
 「はいはい、お仕事してるの?」
 「うんー!」

 元気よく返事をするミアを撫でてやるサリア。
 そんな感じで俺達はハアタの店に足を運ぶと、まあまあ繁盛していて席は昼より埋まっていた。
 漁師っぽい人が多いけど、普通のおじさんやおばさんも酒を楽しんでいたので、普通の居酒屋のような感じだ。

 「お、昼間のカップルか。どうし……た……」
 「ちょ、なんだいこの人数は!?」
 「あー……こちら、陛下です……ここで俺が昼めしを食ったことを話して、酒が飲めると聞いて一緒に来たいと……」
 
 俺がそういうと、夫妻は当然のことながら、その場に居た全員が固まり首をギギギ……と曲げて入り口に顔を向ける。

 「えええ……!? な、なんでこんなボロい店に国王様が!?」
 「ああ、適当に飲むから君達もいつも通りで頼むよ。では、おススメのつまみと酒をもらえるかな?」
 「ま、マジか……兄ちゃん何者なんだよ……」
 「まあ、知り合いってところですかね……」
 
 俺もここまで気に居られるとは思っていなかったからなあ。
 騎士達がぞろぞろと入って来て(じゃんけんしてた)とりあえず、海鮮系のつまみを頼んだ後、地酒みたいなのが美味いということでそいつを出してもらう。

 「ほう……焼酎みたいな酒だな」
 「ショーチューですか?」
 『向こうの強い酒だな。飲めない奴も結構いるんだけど、飲んでみるか?」
 「うん」

 サリアがチビっと口にした瞬間、可愛い顔がしかめっ面になり俺は笑う。やはり女の子にはきついかと思っていると、彼女はしゃっくりが出だした。

 「ひゃってなりました……喉が熱い……んく……」
 「すまねえ、水をもらえるか。ちょっと落ち着かせようぜ」
 「オイラが持って行くよ!」
 「ミアもー!」

 子供達に水をもらって事なきを得たようでそのまま果実酒を口につけて笑顔に戻るサリア。市場で買えなかったイカの炭火焼や貝のバター焼き、焼き魚と舌鼓を打つ料理を分けて食べた。
 食後の飲みって本当に美味いよな……

 「おお、レストランにも負けない味だなリーザ」
 「ええ、ヒサトラさんはいい店を見つけるし、新しい料理を出すし、トラックは凄いしで凄いですわね。あ、毒見は少しで大丈夫ですからね?」
 「は、はひ……!?」

 いよいよリーザ様の笑顔が怖くなってきたな……。
 だが、そこまで評価してくれるのはありがたいことだ。後は上手いこと仕事が軌道に乗って母ちゃんが来ればいうことはねえな。トラックは俺以外に運転できないけど、やっぱ子供ができたりしたらできるのか?
 そこんところルアンに聞いてみるか、軌道に乗ったのに俺が死んで終わり、ってのはちょっと可哀想だしな。

 そろそろお開きかと思っていると、ハアタ達が店の入り口を見てから歓喜の声を上げるのが聞こえてきた。

 「あ! 犬だ! ミア、犬だぞ!」
 「わんわん? わんわんだー!」
 「わふ!」
 「あ、こいつ寝てると思ったらついてきてたのか!? ハアタ、ミア、そいつは野良だ。ばい菌がついてるかもしれねえから触ったらダメだぞ」

 俺が襟を引っ張って止めると、子犬はお構いなしに店内に入って来たので、俺は外に出る。
 
 「すまねえ親父さん、俺は帰るよ。ソリッド様達はゆっくりしてていいですから」
 「そうか? 折角だしヒサトラのフライを頼もうと思ったのに」
 「材料がねえっすからまた明日にでも」
 「ずるいー!」
 「わんわんー!」
 「こら、兄ちゃんが困ってるだろ! こっちにこい」

 親父さんに怒られてすごすごと戻っていく兄妹を見送ってやり、サリアが代金を払っているのを見ていると、客の一人が子犬を見て口を開く。

 「おい兄ちゃん、珍しい犬だな? ……ってその毛並み……もしかして……」
 「なんだ?」
 「わぉん?」
 「い、いや、そんなはずはねえな。こんなところに居るはずねえし。悪い、俺の勘違いだわ」

 よく分からないが男はすぐに酒に戻り、友人との話に戻っていった。毛並みは確かに紫で珍しいけど、異世界でもそうなのだろうか?

 「お待たせしました! すっかり仲良しさんですね♪」
 「どこから来たんだろうな……」

 俺達はトラックで一眠りするかと戻っていった。


 ◆ ◇ ◆


 「そこの者、さっきヒサトラが連れていた子犬についてなにか知っているのか?」

 私ことソリッドはやり取りを横目で見ていたが、男の様子がおかしいので少し尋ねてみることにした。もし良くない魔物の類であれば排除せねばならないからだ。
 ヒサトラは必ず利益をもたらしてくれる女神の使徒、失う訳にはいかないのだ。

 「どうなのだ?」
 「へ、陛下……いえ、あの紫の毛並み、二つ山を越えたところに棲むって言われているベヒーモスに似てるなって。でも、山に棲むし、目撃もそんなに多くねえですし、違うかなーと」
 「なるほどな。聖獣ベヒーモスか……気性は荒いと聞くが子供を持つとは聞いたことが無いな。私は見たことが無いが」
 「騎士達でも冒険者時代にひとりかふたり、見たことがあるくらいですよ。戦って勝つには相当数の戦闘員が必要ですし、テリトリーに近づかなければそもそも戦いを挑んできませんから。人の言葉を解するとも言われてますけど……」

 騎士の一人がつまみを手にしながらそんなことを口にする。
 そうそうベヒーモスが現れるわけは無いかと私は酒を飲み、料理に舌鼓を打つ。しかしこの店舗、勿体ないな。せめて壁くらいはキレイに出来ないもんだろうか――
しおりを挟む
感想 167

あなたにおすすめの小説

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

ガチャと異世界転生  システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!

よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。 獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。 俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。 単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。 ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。 大抵ガチャがあるんだよな。 幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。 だが俺は運がなかった。 ゲームの話ではないぞ? 現実で、だ。 疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。 そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。 そのまま帰らぬ人となったようだ。 で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。 どうやら異世界だ。 魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。 しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。 10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。 そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。 5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。 残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。 そんなある日、変化がやってきた。 疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。 その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

異世界の片隅で引き篭りたい少女。

月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!  見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに 初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、 さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。 生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。 世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。 なのに世界が私を放っておいてくれない。 自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。 それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ! 己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。 ※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。 ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。  

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

処理中です...