42 / 85
第三章:最強種と
その41 この子どこの子?
しおりを挟む「むう……」
「あはは、大人数になりましたね」
苦笑するサリアと俺の目の前にはソリッド様達が並ぶテーブルの前には騎士達が座る丸テーブルがずらりという感じだ。
俺達はというと少し中央から離れたところで注目を集めていた。
まあ、異世界の料理ということでそれは仕方ないということにしておこう。
「さて、油があったまって来たな。後は揚げるだけだからそんなに難しいもんじゃないからサッとやるか」
「はーい!」
アジをさっと油の中へ投入するとじゅわっといい音が聞こえてくる。
暗がりだがトラックを回してヘッドライトをつけているのでかなり明るく、軽油とバッテリーは俺の魔力のようなので気にしないで照らすことができるのだ。
アジをからっと揚げた後、少し待ってから貝、エビと投入していく。早く入れすぎると油の温度が下がった状態で揚げることになり、からっとならなくなるのだ。
トングでサリアの持つお皿に載せていくとパン粉の匂いが鼻を刺激し、腹が鳴る。
とりあえず食べる分だけ揚げてから晩飯に入るとしよう。
「ご飯です」
「おう、サンキュー。醤油はねえが、ソースで食えば問題ないぜ」
「いただきます♪」
欲を言えばタルタルソースかマヨネーズがあると完璧だが、ソースで十分だ。ウスターソースに近いやつを選んであるからアジフライにはよく合う。……もちろん好みは人それぞれだが。
早速アジフライを噛むと、サクッとした食感の後にふわりとしたアジの身が口の中で崩れてソースやパン粉とまじりあい旨味が広がっていく。
「美味しい! お菓子みたいな感じに見えたけど、ご飯のおかずになりますね」
「だろ? 新鮮な魚だからさらにうめえ。天ぷらも試してみたいなこりゃ。こっちの世界の魚は向こうと似ているし、レシピが捗るな」
「エビフライ……好きかも……」
喜んでくれてなによりだ。
基本的に料理はサリアに任せていたからこうやって向こうの料理を作るのは初めてだったりする。特に不満もねえしな。
だけど、たまには日本で食っていたおかずを食いたいという思いはあったのだ。
貝のフライはホタテだと嬉しいが、ハマグリフライも悪くない。
「ん?」
すると背後に気配がして振り返ると、皿を手にした毒見役の人が幽鬼のような顔で立っていた。
「うおお……!? な、なんです?」
「毒見を……」
「いや、必要ないし食べたいだけだろ!? ……いや、そうでもないのか?」
ソリッド様はちゃんとコース料理みたいなのを食べているみたいだが、恨みがましい目をこちらに向けている……。
まあ、まだ魚はあるし一匹ずつくらいはいいかと揚げたてのフライ一式を乗せてやると――
「んま!? ソースにめちゃ合うぞ!」
「ほう……いいなこれは……」
いいなじゃねえよ。尻尾しか残っていねえ。
女性の毒見役の人はなんかカッコいい、キリっとした感じだったのにガッカリである。
仕方なくもう一度揚げてから渡してやると、嬉々としてソリッド様達へ持って行き、
「うおおお! これは美味い……!! しかし……ヒサトラ、わたし達の分はこれだけか!?」
「知りませんよ!? どうせ途中で食ったんじゃないですかね!」
ったく、食事くらい静かにさせてくれよと思いつつ、もう一枚アジフライを食べようと思い皿に目を向けると――
「わふ……わふ……」
「おう!? いつの間に!?」
「あら、子犬?」
どこから現れたのか、俺の皿からアジとエビのフライをひったくったようで紫の毛をした子犬が美味そうに頬張っていた。
「一生懸命食べてる、可愛いですね」
「どっから来たんだ? 飼い犬って訳じゃなさそうだけど……」
「くぅーん」
「まだ足りないみたい」
「生意気な……」
尻尾を振っておすわりをし、俺におかわりを要求してくる子犬。
あんまり野良犬にご飯をあげると困るが……なんか憎めない顔をしているし、少しくらいならいいかと食べさせてやる。
「わふーん……」
「気に居られたみたいね、ヒサトラさん」
「こいつ、呑気な顔してるなあ」
ひとしきり食った後、俺の膝に飛び乗って腹を見せてきた子犬。人懐っこいから飼われていたのだろうか? だとしたら飼い主に悪いなと思いながら腹を撫でてやると、気持ちよさそうに目を細めて喉を鳴らす。
「可愛いです! 野良だったら飼いたいなあ」
「まあトラックなら寝台に載せてたら連れ回せるけどいいと思うけど……こいつ飼い犬だぞ」
「うう……名前ももう考えていたのに……」
珍しくサリアが我儘を口にしたので飼ってもいいかなとも考える。
ここに置いて逃げなければ周辺の人に聞いてみて、飼い主が居なさそうなら連れて帰るかね?
「おおーい、ヒサトラ、もうフライとやらは無いのか?」
「あ、まだ食べます? もうちょっとだけありますから揚げましょうか」
「頼む……!!」
「陛下、我々にもチャンスを……!!」
騎士達が抗議の声を上げ、結局じゃんけんで残りのフライも消えてしまった。
この後、ハアタとミアの店に飲みに行くので、その土産分を確保していたのは良かったぜ……
「わふ~ん……」
「うふふ、おねむですかー?」
「さて、そんじゃ片付けてハアタの店へ行くか。飲み屋だって言ってたからちょっと飲もうぜ」
「あ、いいですね! この子はどうします?」
「このまま置いていくよ。飲食店に動物はさすがにダメだ。もし帰って来てもまだ居たら飼い主が居ないか探してみよう。もし捨て犬だったら飼うか」
俺がそういうとサリアは笑顔で俺の腕に抱き着き店にむかって歩きだす。
明日は市場巡りだし、あんまり飲まないようにするか。
「む、どこへ行くのだ?」
「ちょっと昼に飯を食った店に……飲み屋らしいので」
「あら、いいですわね。庶民のお酒を飲むところ、興味あるわ」
「「「ですね」」」
騎士達はおこぼれに預かりたいだけだろうが……
まあ、店を見て帰るかもしれないし、とりあえず連れてくか。
1
お気に入りに追加
520
あなたにおすすめの小説

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

ガチャと異世界転生 システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!
よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。
獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。
俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。
単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。
ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。
大抵ガチャがあるんだよな。
幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。
だが俺は運がなかった。
ゲームの話ではないぞ?
現実で、だ。
疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。
そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。
そのまま帰らぬ人となったようだ。
で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。
どうやら異世界だ。
魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。
しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。
10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。
そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。
5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。
残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。
そんなある日、変化がやってきた。
疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

異世界の片隅で引き篭りたい少女。
月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!
見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに
初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、
さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。
生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。
世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。
なのに世界が私を放っておいてくれない。
自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。
それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ!
己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。
※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。
ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。

ぽっちゃり女子の異世界人生
猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。
最強主人公はイケメンでハーレム。
脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。
落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。
=主人公は男でも女でも顔が良い。
そして、ハンパなく強い。
そんな常識いりませんっ。
私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。
【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。
完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-
ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。
断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。
彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。
通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。
お惣菜お安いですよ?いかがです?
物語はまったり、のんびりと進みます。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる