36 / 85
第二章:異世界を駆ける
その35 暇つぶし
しおりを挟む「えっと、倉庫は魔法鍵でかけられるのか」
「ええ、それに耐火・防犯・極大魔法でも壊せない防御魔法がかかってるみたいです」
「どこの防衛拠点だ」
そんな昼下がり。
町から町へ移動する認識ができるまでしばらく待たないといけないわけだが、その間は割と暇である。
荷ほどきは全て終わり、今は店舗兼倉庫で物品の確認をしていたところだ。
まだ向こうの世界からの積み荷の開封は終わっていない。飲み物はそろそろ尽きそうだが、トランポリンや戦隊ものの武器、リーザ様が気に入っているダイエットバイクなど、形として残るものは結構ありがたい。
もう戻れない繋がりが感じられるからな。
で、とりあえずノートパソコンとプリンタも出てきたので今はそいつをなんとか使えないか四苦八苦している。
まあ、コンセントの問題が解決しないと使えないんだよなあ……
「そろそろお茶にしましょうか」
「あ、そうするか。んー……座りっぱなしはよくねえな……」
庭のテーブルセットでのんびりしようかと思って外に出ると、
「おお、ヒサトラ殿! ちょうど良かった!」
「あ、ソリッド様の親衛隊さん。どうしたんです……か?」
外でばったり出会ったのはソリッド様を護衛する親衛隊の一人で、あのコンテナに乗っていた騎士達は精鋭らしい。マジで? とも思うが、実際に戦いになると腕は確かなんだとか。
いや、それよりも、だ。
「……その台車のダンボールは?」
「……」
「答えろよ!?」
「ふふふ、私だヒサトラ君」
「はい」
「怯みもしないだと……!」
台車のダンボールから足が生え、取り去ったところでソリッド様がにやりと笑い俺に笑いかける。が、別に分かっていたことなので驚く必要もないし適当に答えておく。
「うぬ……城のメイドにはウケていたのに……」
「別に珍しくないですからねその組み合わせ。それでどうしたんです?」
「あ、いらっしゃいませソリッド様。騎士さんも! お茶をもってきますー」
サリアがもう一度家に戻るのを尻目に俺達がテーブルに座ると、ソリッド様がどこかの指令ポーズになり俺に目を向けると早速本題に入ってくれた。
「……依頼を受けてくれないか?」
「え? まだ各町に通達はいってないから無理では?」
というか昨日の今日なので絶対に不可能だ。しかし、当然というかそれでいいのかということを口にする。
「私も一緒なら問題ない。それに、テストケースとして訪問するのも悪くないだろう」
「本音は?」
「魚が食べたい」
「なるほど」
欲と興味が原動力だった。ま、そこは別にいいんだけどな、暇をしているし。
それに国王陛下自ら町へ行くとなればトラックに対する信頼度も厚くなるかもしれない。
「城を空けていいんですか?」
「息子と娘が居るから心配はいらない。さ、善は急げだ、お茶をいただいたら行こうでは無いか!」
「お待たせしました」
相変わらずどこからともなく現れた毒見役がお茶の半分ほどを飲み干しているのを尻目に予定を決めるソリッド様。言われてみれば子供がいてもおかしくない年齢だし、成人は越えて居そうだから少しくらいならいいのかも。
「とりあえず俺達は問題ないですよ。リーザ様はどうしますか? 息子さん達は知っているんでしょうね? ……露骨に目を逸らさないでください」
「言ってないんですか?」
サリアも着席して尋ねると、リーザ様には黙って出て来たらしい。
ちなみにダンボールからの登場でまったく驚かなかったのでガッカリしてここへ来たというわけだ。
「後でなに言われても知りませんからね……? それじゃ戸締りをして出発するか」
するとそこで、
「ああ、見つけましたわ」
「おうリーザ!? なぜここに!?」
リーザ様がお供の騎士を連れて馬車でやってきた。
彼女は少しむくれてから口を開く。
「騎士に聞いたら教えてくれましたわよ? 行くなら一言ほしかったです」
「うむ……」
美人な奥さんには頭が上がらないようで口を尖らせてから一言うめくように呟いた。今回はしょうもない理由でハブろうとしたのでソリッド様が悪い。
「ふう、一緒に行きたいんですから今度から声をかけてくださいね。というわけでヒサトラさん、あのダイエットのやつを使いたいのだけど、いいかしら?」
「あー、今からお出かけするんですよ。ソリッド様が魚を食べたいらしくて」
「まあ、それはいいですわね! もちろんわたくしも行きますわ」
「そうだな。一緒に美味い魚を食べようかリーザ」
「あなた……」
二人の空間を作り始めたので俺が咳ばらいをすると、二人はサッと離れて顔を赤くしていた。
とりあえず準備のためコンテナの片方を開けてから騎士達が乗れるように落ちないよう鉄柵を立てて椅子を設置。
向こうの世界なら一発免停間違いなしのデコトラが完成すると、いつの間にか並んでいた騎士達が乗り込んできた。
「景色がいいんだよな」
「俺、初めてだから前にしてくれよ」
「鉄柵を掴むなよ、落ちるからな」
「仲いいなこいつら……」
「ヒサトラさん、仲間同士の絆が大切ってギルドで言ってたじゃないですか」
「ま、確かに。それじゃ、ちょっと暇つぶしに行きましょうかね!」
助手席にソリッド様とリーザ様を乗せ、サリアを寝台といういつものポジションに収まると、トラックを回して出発する。魚か……刺身かフライが食いてえな
氷の魔道具があるから凍らせて持って帰るのもアリだな……
0
お気に入りに追加
520
あなたにおすすめの小説

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

ガチャと異世界転生 システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!
よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。
獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。
俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。
単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。
ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。
大抵ガチャがあるんだよな。
幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。
だが俺は運がなかった。
ゲームの話ではないぞ?
現実で、だ。
疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。
そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。
そのまま帰らぬ人となったようだ。
で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。
どうやら異世界だ。
魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。
しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。
10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。
そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。
5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。
残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。
そんなある日、変化がやってきた。
疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

異世界の片隅で引き篭りたい少女。
月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!
見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに
初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、
さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。
生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。
世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。
なのに世界が私を放っておいてくれない。
自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。
それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ!
己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。
※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。
ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。

ぽっちゃり女子の異世界人生
猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。
最強主人公はイケメンでハーレム。
脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。
落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。
=主人公は男でも女でも顔が良い。
そして、ハンパなく強い。
そんな常識いりませんっ。
私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。
【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。
完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-
ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。
断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。
彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。
通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。
お惣菜お安いですよ?いかがです?
物語はまったり、のんびりと進みます。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる