31 / 85
第二章:異世界を駆ける
その30 おやめください陛下
しおりを挟む「リク殿、これはどちらへ?」
「ああ、それは店舗でお願いします。あ、それは家の中で」
「分かりました」
「庶民のお引越しってわくわくしますわね」
「はは、大変ですよ。……!?」
リーザ様が楽しそうに荷物を持って歩いているのを見て俺は180度ほど回る勢いで首を動かし、慌てて段ボールを取り上げる。
「なにやってんすか!? 王妃様は働かなくていいんですよ!」
「でも、皆さん動いていらっしゃいますし、夫も、ほら」
「え?」
「サリア君、これはどこへ持って行けばいい?」
「えーっと……倉庫で……」
「お待ちなさい!?」
俺はさらに慌ててソリッドさんが持つもう一つの段ボールをかっさらい、地面に置いてから口を開く。
「国王様が働いたらダメですって!」
「いや、異世界のアイテムとかあったら見たいな、と」
「素直ですね」
「サリア、そういう問題じゃないっての……。とにかく、見せられそうな物なら後で積み荷を降ろし終わってからにしてください」
「「ええー……」」
はもるなアクティブ夫婦。
とりあえず二人にはよく冷えた、お土産として積まれていたであろう瓶のグレープジュース(他の味あり4本セット)を渡し、庭にテーブルセットを作って待ってもらうことに。
「うおお! あのジュースめちゃうめえええ!」
「マジか! 毒見役いいなああ!!」
「私のジュースが半分しか入っておらぬ……!?」
「あらあら」
よくはねえよ、下手したら死ぬんだぞ。あいつら頭んなかどうなってんだ?
ツッコミが追いつかないので早く荷下ろしを終わらせよう……。
「さすがプロは違いますね、この重さを一気に持つなんて」
「コツがあるんですよ。ここにマジックで中身を書いていて、重いものを下にしているから、だったりね」
「ほう、面白いもんだな」
手伝ってくれる騎士達は変なヤツもいるがこういう真面目な人も多い。自分のやっている仕事を褒められるってのはむずがゆいものだが嬉しいもんだ。
しばらくしてコンテナの荷物が全て出し終わり、気が付けば昼を回っていたため昼飯を食べてから開封しようとなった。
「ありがとうございました! 後は開封だけなので俺とサリアだけで大丈夫かと思います。お昼、俺がごちそうしますよ。って出前とかないんだっけ?」
「頼めば届けてくれるお店があるんじゃないですかね?」
このまま帰ってもらうのは申し訳ないのでお昼くらいはと思ってサリアと財布を手に声をかけるが、その前にリーザ様が笑ながら口を開く。
「わたくしの毒見役がすでに手配しておりますわ。今日のヒサトラ様とサリアさんはお客様ですもの、これくらいさせていただきますわ。ですわね?」
すると騎士達は「おお!」となんか笑顔でポーズを決めていた。ノリのいい国だな……。少々心配になるが。
「なんかすみません、なにからなにまで……」
「いいのよ。夫も言ってたけど、とらっくは新しいものをこの国に与えてくれるかもしれませんもの」
「そうですかねえ……」
リーザ様が確信めいてそういうが、俺はよく分からず頬をかきながら生返事を返す。
どちらかといえば迷惑をかけそうで怖いんだが……
あれ? その夫であるソリッド様の姿がみえねえな。
「むう……」
「なにやってんすかソリッド様」
「この箱はなんというのかね?」
「段ボールですね。この世界には無いんですよね」
「そうだな。これをひとつ貰うことはできるだろうか?」
「え? こんなものどうするんです?」
「なんとなく惹かれるものがあるのだ、どうだろう?」
そういやソリッド様って眼帯をしてないけど某潜入するゲームのあの人に似ている気がする。名前だけじゃなくて声も。ソリッドに段ボール……大丈夫か?
「ま、まあ、たくさんあるのでひとつくらい大丈夫ですよ」
「そうか! ではこれを頂いていこう。おい、丁寧に扱えよ」
「ハッ!」
人が入れそうな大きさの空段ボールを騎士に命じて別の場所へ移動させるのを横目に『やはり入るのだろうか?』と脳裏に浮かんだが、国王がそんなことをするはずもないかと頭を振る。
やがて出前とは思えぬオードブルが届き、倉庫にありったけのテーブルと段ボールを机にしてバイキング形式の昼食が始まり、俺とサリアも頂くことに。
「お、この肉団子美味いな」
「こっちの温野菜も歯ごたえがあっていいですよ」
「この国は野菜が特によく育つ土地でな、家畜も居るが肉は別の国の方が上手い。もちつもたれつだな」
「魚はやっぱり難しいんですか?」
前に魚を食べたいと言っていたが、オードブルには魚が存在するので気になって聞いてみる。すると、なるほどという答えが返って来た。
「湖や川にはもちろん魚は居るが、海の魚ということだ。新鮮なら生で食べられるとも聞く、一度でいいから味わってみたい」
「ここからどれくらいなんですか?」
「馬車で10日ほどの場所にある町だ」
10日……そりゃ帰ってくる間に腐るな。
でも氷の魔道具みたいなものがあれば持つんじゃないかと思ったのだが――
「魔力がもたんらしい。10日連続で昼夜込め続けると鼻血を出して倒れるようだ」
「そこまではできませんね……」
そうか、魔力の問題か。
俺はトラックに乗っている限り魔力ほぼ無限だし、気にしたこと無かった。魔道具は結構魔力を食うらしい、魔法が苦手な人の為に作られているけど制限はいろいろあるみたいだな。
「そうだ、少し落ち着いたら商工ギルドへ行くといい。この運送屋の開業手続きは私ではできん。話は通してあるから気楽にな。冒険者ギルドも宣伝で顔を出しておくといいぞ」
「はあ」
根回しが良すぎる。
が、ソリッド様が自分の欲を満たすためと思えば、まあこれくらいはするかと苦笑する俺。
その後、昼食を終えて残りの作業を終えるのだった。
1
お気に入りに追加
520
あなたにおすすめの小説

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

ガチャと異世界転生 システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!
よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。
獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。
俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。
単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。
ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。
大抵ガチャがあるんだよな。
幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。
だが俺は運がなかった。
ゲームの話ではないぞ?
現実で、だ。
疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。
そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。
そのまま帰らぬ人となったようだ。
で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。
どうやら異世界だ。
魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。
しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。
10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。
そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。
5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。
残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。
そんなある日、変化がやってきた。
疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

異世界の片隅で引き篭りたい少女。
月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!
見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに
初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、
さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。
生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。
世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。
なのに世界が私を放っておいてくれない。
自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。
それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ!
己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。
※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。
ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。

ぽっちゃり女子の異世界人生
猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。
最強主人公はイケメンでハーレム。
脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。
落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。
=主人公は男でも女でも顔が良い。
そして、ハンパなく強い。
そんな常識いりませんっ。
私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。
【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。
完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-
ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。
断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。
彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。
通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。
お惣菜お安いですよ?いかがです?
物語はまったり、のんびりと進みます。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる