異世界でトラック運送屋を始めました! ◆お手紙ひとつからベヒーモスまで、なんでもどこにでも安全に運びます! 多分!◆

八神 凪

文字の大きさ
上 下
26 / 85
第二章:異世界を駆ける

その25 国王様、トラックへ

しおりを挟む
 「トライドから聞いた話では、君はあの鉄の乗り物を駆って運送業をしているそうだな。で、目的のために王都で情報を集めたい、と」
 「そうですね。恐らく一年以内に俺の母親も召喚されるんですが、向こうの世界で治療が難しい病に侵されているんです。こっちの世界なら不治の病を治す薬がないか、と。王都の方が人は多いと思いますので、できれば移り住みたいと考えています」

 聞かれたことにハッキリ返答をする。
 これは最初から決めていたことなので淀みなくスラスラと口から出すことができた。
 移住に関しては通常なら町へ行って申請すれば問題ないんだけど、トラックという異質なものがあるのでソリッド様にお伺いを立てないといけないってわけだ。
 まあ、要するに今は面接みたいなもんだな。
 
 「なるほど、母親が……それは何故わかるのかね?」
 「っと、それは……」

 女神ルアンが、と言いたいところだがそれは話していいものだろうか……? 少し考えていると、サリアが袖を引っ張って耳打ちをしてくる。

 「(ヒサトラさん、ここは女神様のことを話してもいいと思います。実際ここにトラックがあるのは事実ですし、それならお母様のことも説明がつきます。それとこの国はルアン様を信仰しているので、悪い方にはいかないかと)」
 「(そ、そうか?)」

 まあサリアがそう言うのならと、俺はここに来た経緯を話す。

 「他言無用でお願いしたいのですが、よろしいですか?」
 「私の口はかなり固い。安心してくれたまえ」
 「……俺がこの世界に来たのは女神ルアンによって送り込まれたからです」
 「!? ……続けたまえ」
 
 頷いた俺は送り込んだルアンと実際に話すことができたこと、元の世界には戻れないこと、トラックと俺は一心同体で他の誰にも動かすことができないなどの秘密を語る。
 すると、ソリッド様は目を丸くしてずっと聞いていた。

 「――というわけなんですが」
 「……」
 「陛下?」

 サリアが声をかけるとソリッド様はハッとして頭を振り、俺に頭を下げた。

 「それが本当なら凄いことだ。是非もない、こちらからお願いしたいくらいだ。王都へ来てもらえないだろうか」
 「もちろんお願いします!」
 「うむ、ルアン様の導きでやって来た青年が未知の乗り物を駆る……いい、実にいいよ君ぃ!! よし、トラックには女神様のマークをつけようじゃないか。ルアン様もお喜びになるだろう」
 「ま、まあ、大丈夫ですよ」
 「お待たせしました、オススメランチになります!」
 「ああ、そうだ! 私を王都まで送るのをやって欲しいな、騎士達は後ろに載せて!」
 「……これは美味い……」

 そこでお昼ご飯が届き、皿が置かれるがソリッド様は興奮冷めやらぬと喋り続ける。いつの間にかやってきていた毒見役がもくもくと食べているのにも気づいていないようだ。あ、あ、それは食い過ぎじゃねえかな。

 「陛下、どうぞ」
 「ふうむ、楽しくなってきたぞ! ……お!? 私のランチこれだけ!? これでは足りん、もう一つ持ってくるのだ!」
 「また食われるんじゃ……お前等、次の毒見役をじゃんけんで決めてんじゃねえよ!?」
 「あ、美味しいですよヒサトラさん、冷めないうちに食べましょう」

 ま、まあ、思った以上に食いついて来てくれたので予定通り王都へ移住できそうだ。
 トライドさん達には世話になったし、なにかしてあげたい気もするが――

 そんなことを考えながら窓の外に目を向けると、空は相変わらずいい天気だった。


 ◆ ◇ ◆

 
 「では、少し借りるぞ」
 「ええ。ヒサトラ君、待っているぞ」
 「はい。お迎えに上がりますよ」
 「とらっくに揺られて寝るの癖になるのよね結構」
 「ふふ、わたくしはもう向こうへ帰らないので残念ですわ」

 翌日、トラックのコンテナも乾き、掃除が行き届いたのでソリッド様を送り届けることになった。
 騎士はなんだかんだで全員載せるのは無理で、話し合い(物理)で数十人が乗ることに。
 ソリッド様はもちろん助手席で、サリアは後ろの寝台に乗ってもらうことでトラックを楽しんでもらえると思う。

 ここから王都までぶっ飛ばして数時間なので、往復でも夜中には絶対到着すると考えれば明日、ロティリア領へ送り届けることで今回のイベントは終了だろう。

 「それじゃ、また明日!」
 「うむ、気をつけてな。陛下、またお伺いさせていただきます!」
 「兄さん、いいお酒用意しておいてねー」
 「我が妹ながら恐ろしいやつ……」

 そんな会話を窓から繰り広げていたが、やがてトラックは町の外へ。ボルボは俺と話したそうだったが、約束があるとギルドへ行ったので帰って来てからかな。

 「シートベルトつけておいてくださいね。後ろはどうですー?」

 「心配ない! 少し狭いが、いい景色だ」

 サリアに小窓を開けてもらい確認すると、落ちないようにしている柵の前で興奮気味だった。
 なら大丈夫かと、俺は街道に出た瞬間アクセルを少し強く踏む。

 「おお……!? は、速いな」
 「ええ、これのおかげですぐに王都まで行けますよ。もう少し速くしましょうか?」
 「い、いや、大丈夫だ……ふう、これは凄いな。これがあれば、新鮮な魚を持って帰ることもできるんじゃないか」
 「ああ、向こうの世界だと魚を凍らせて運搬を生業にしているのもありましたね」
 「やはりな! うむ……あそこの魚を食べてみたい……頼むか……?」

 なんだか夢のような話だとぶつぶつ言っていたが楽しそうだった。
 乗り物酔いとは無縁なトラックなので窓を開ければ風を切って気持ちが高揚する。

 「よーし、もう少し速いところがみたいな!」
 「周りはなにも無いし……いいですよ。サリア、掴まってろよ」
 「はーい」

 そして一気にアクセルを踏むと、メーターは一気に90Kmを越えた。

 「お、お、お……!? は、速!?」
 「これくらいにしておきましょうか、あんまり速いと怖いですよね」
 「い、いや! だ、大丈夫だ! やってくれ!」

 何故いきったんだ……?
 なら100Kmまであげてみるかとスピードを上げると――

 「あばばばば……」
 「ソリッド様ー!?」

 ――やはりというか、ダメだった。

 まあ、他人の車の助手席に乗っていると不安になるのあるよな。あれと同じだろう。

 え? 違う?

 ま、まあ、とりあえず後はゆっくり行くとしようか……
しおりを挟む
感想 167

あなたにおすすめの小説

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

ガチャと異世界転生  システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!

よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。 獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。 俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。 単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。 ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。 大抵ガチャがあるんだよな。 幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。 だが俺は運がなかった。 ゲームの話ではないぞ? 現実で、だ。 疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。 そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。 そのまま帰らぬ人となったようだ。 で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。 どうやら異世界だ。 魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。 しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。 10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。 そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。 5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。 残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。 そんなある日、変化がやってきた。 疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。 その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

異世界の片隅で引き篭りたい少女。

月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!  見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに 初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、 さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。 生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。 世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。 なのに世界が私を放っておいてくれない。 自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。 それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ! 己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。 ※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。 ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。  

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

処理中です...