24 / 85
第二章:異世界を駆ける
その23 陛下はくじけない
しおりを挟む「こ、国王様!? ……あ、結婚式始まるみたいですよ?」
「むう!? それはいかん! 後で会おうヒサトラ君!!」
「ええー……」
「なんで嫌そうなのだ!? ええい、待っておれよ!」
なんで喧嘩するみたいなノリで言ってくるのか。
俺は軽く手を振りながらソリッド国王を見送り、とりあえずこの場を切り抜ける。
「なんとなくエレノーラさんの兄って言われたら納得するな。顔も目元が似てたし」
アグリアスが17歳で彼女を生んだのが20歳だったらしいから奥さんは37歳。兄なら40歳くらいかね?
もっと若そうなのは兄妹揃って恐ろしいことだが。
「そいつにちょっと乗せてくれよ!」
「お、式が終わるまでならいいぜ」
俺は追いかけて来たらしい子供たちの相手をして時間を潰し、サリアお手製の弁当を食してから運転席で待つ。
実は何度も参加して欲しいと誘われたのだが、マナーも知らないしここは異世界人の俺は身を引かせてくれってことで納得してもらった。
その分、トラックの運用については我儘を聞いたからこれでトントンだろう。
「式は順調そうだな」
誓いの後はブーケトスに食事と続いて二次会があるかどうかって感じらしい。
親族はジャンさんの屋敷で寝泊まりするので、俺の部屋の空きはないと言われたので宿かトラックだな。
「まだ時間がかかるし、大人しく待つか――」
◆ ◇ ◆
「ヒサトラさん」
「ん……」
「ヒサトラさん、起きてください。終わりましたよ、結婚式」
「お、おお……? ふあ……サリアか。無事に終わったみてえだな」
いつの間にか寝ていたらしく、助手席からサリアが俺の身体を揺すって起こしてくれていた。
あくびをかみ殺しながら視線を前方の外に向けると、ぞろぞろと参列者が出てきているのが見える。
「今から二次会ですよ、お仕事をしましょう♪」
「おっと、コンテナをビアガーデン仕様にしねえと!」
俺とサリアはさっとトラックを降りて、コンテナのソファを端に置き、今度は二家族分のテーブルセットの用意を始める。
サリアは昇降機を使わなくてもいいように階段を設置し、絨毯を広げていた。
ちなみに式場の庭にある広場のど真ん中にトラックを置いているので、この場所なら他の人たちの様子もうかがうことができるのである。
「よし、コンテナに絨毯も設置したし、後は料理と酒を待つだけだな」
「そうですね。あ、お昼は食べました?」
「おう、美味かったぜ」
「良かったです!」
設営が終わってサリアと話をしていると、トライドさんが少し赤い顔で俺に声をかけてくる。。
「やあやあヒサトラ君! ご苦労様、これが私達の席かな?」
「ですね。後は食事とお酒が運ばれて来たらいつでも開始できますよ」
「うんうん、君は仕事が出来る男だねえ。では今日の主役を呼んでこないと」
ちょっと怪しい足取りが心配なので気を付けてと声をかけると、片手を上げて振っていた。意識ははっきりしていそうだ。
程なくして見知った顔がやってきた。
「やっほー、ヒサトラさん」
「エレノーラさん、お疲れ様です。寝ていないところを見ると、空気を読んだみたいですね」
「まあね! 娘の晴れ舞台で寝るわけにはいかないもの。ああ、そうそう兄さんがヒサトラさんと話したいって言ってたけどもう話した?」
「いえ、さっき式が始まる前にちょっと顔を合わせただけですね」
「あ、そうなのね? なら呼んで来ましょうか」
いや、こんな目立つところで偉い人と話をしたくないんだけどな……
事務仕事をしている時に社長が来て話してたらなんか叱られているとか思われてそうって感覚に近いものがある。止めようとしたんだが、国王はすでに近くに来ていたようで、
「やあ、エレノーラ」
「ああ、兄さん。話があるんでしょ?」
いつの間にかトラックコンテナの上に立っていた。どっから乗ったんだ? というか護衛は?
「そうそう。トライド君とジャン君から聞いているが――」
「はい、すみません! お料理をお持ちしましたので少し移動していただけますか!」
「ああ、すまないね。それで――」
「お酒っす! あ、陛下! どれがいいですか! なんでも揃っていますのでご所望のものがあれば是非!」
「マックリー地方のワイン29年物を頼むよ。毒見役に渡しておいてくれ、代金は後で回す」
「へい!」
「ふう……それでだ――」
「陛下! もうこちらにおられましたか、ちょうど今、主役を連れて来たところですよ、さ、べリアスにアグリアス、こちらへ。陛下とエレノーラさんも」
「ぐぬう……!」
……何度か俺に声をかけようとするが、タイミングが悪く、全然話ができず、最終的にはジャンさんに阻まれ席につくことになってしまった。
「いやあ、陛下って親しみやすいからみんなに好かれているんですよね」
「いい人だと言うことは分かったよ」
平民相手でも怒鳴ったりしないからな。常識人なんだと思うし、だからみんな話しかけてくるんだろう。
ま、今日は祝いの席だ。俺より、そっちに顔を出して欲しいからあえて声はかけない。
コンテナの上が一気に騒然となったのを見て苦笑していると、横から袖をひかれて振り返る。
「もう、いいんじゃありませんか?」
「……そうだな。アグリアスとべリアスのところへ行くか」
サリアがどこかで貰ってきたグラスを手にし、俺はコンテナに上がるのだった。
後は運転しないし、これくらいはな?
2
お気に入りに追加
520
あなたにおすすめの小説

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
少し残念なお嬢様の異世界英雄譚
雛山
ファンタジー
性格以外はほぼ完璧な少し残念なお嬢様が、事故で亡くなったけど。
美少女魔王様に召喚されてしまいましたとさ。
お嬢様を呼んだ魔王様は、お嬢様に自分の国を助けてとお願いします。
美少女大好きサブカル大好きの残念お嬢様は根拠も無しに安請け合い。
そんなお嬢様が異世界でモンスター相手にステゴロ無双しつつ、変な仲間たちと魔王様のお国を再建するために冒険者になってみたり特産物を作ったりと頑張るお話です。
©雛山 2019/3/4
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

ガチャと異世界転生 システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!
よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。
獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。
俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。
単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。
ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。
大抵ガチャがあるんだよな。
幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。
だが俺は運がなかった。
ゲームの話ではないぞ?
現実で、だ。
疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。
そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。
そのまま帰らぬ人となったようだ。
で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。
どうやら異世界だ。
魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。
しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。
10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。
そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。
5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。
残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。
そんなある日、変化がやってきた。
疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

異世界の片隅で引き篭りたい少女。
月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!
見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに
初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、
さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。
生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。
世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。
なのに世界が私を放っておいてくれない。
自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。
それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ!
己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。
※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。
ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。

ぽっちゃり女子の異世界人生
猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。
最強主人公はイケメンでハーレム。
脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。
落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。
=主人公は男でも女でも顔が良い。
そして、ハンパなく強い。
そんな常識いりませんっ。
私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。
【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる