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第一章:轢いたと思ったら異世界だった
その19 アホ女神の暴走
しおりを挟む『特に不利になることはないわ』
「嘘を吐くな」
『ああああああああああああああああ!?』
こういう手合いが真顔でそんなことを言う場合、概ねなにかあると思っていい。
カーナビを揺らして自白を促すが、明後日の方向をに向いたまま口を開く。
『だ、大丈夫……もっと普通に生活できるレベルにしたかったけど、まあトラックが無限機関みたいになっただけだし大丈夫じゃない?』
「女神様、こっちですよー」
『おお……。ならもうついでにヒサトラさんをバージョンアップさせましょうかね』
「なにをする気だ……?」
俺が尋ねるよりも早く、手元のなにかを操作し始める。
とりあえず出来ることはなさそうなのでしばらくルアンが落ち着くまで待った。
そして5分ほど経過した時――
『よっしゃ! これであんたは無敵のトラック野郎や!!』
「なぜ関西弁……。どうなったんだ?」
『これを見よ……!!』
カーナビの画面が切り替わるとそこに文字が映し出されていて、ちょうど説明文のような感じだと直感的に思う。
よく目を凝らしてみると、だ。
【伝説のデコトラ】
魔力を通している間は派手な運転をしても横転しなくなる。
【クレイジートラックカー】
トラックに乗っている間は身体能力が上がる。許容範囲はハコ乗りまで。
【超頑強】
魔力を込めるとトラックの強度が数倍に跳ね上がる。
「なんだこりゃ!? え、これどういうことなんだよ、なんかゲームとかにありそうな感じなんだけどよ……」
『ええ、ヒサトラさんはこういう書き方の方がいいと思いましたので。スキルってよくあるじゃないですか?』
「まあゲームならよくあるな」
『でそ? で、とりあえず魔力を使えばこの三つのスキルはトラックに乗っている間は発動するって感じですかね』
「伝説って……デコトラじゃねえしこれ……」
『まあまあ、雰囲気ですよ雰囲気! あ、後そちらのお嬢さんも恩恵がありますから』
「私ですか?」
『はい。伴侶であればいつどうなるか分かりませんからねえ。ヒサトラさんが動けない時にサリアさんが防御するとかいいじゃないですか』
ん? 今、なにか不穏なことを言わなかったか?
「誰が伴侶だ?」
『え? サリアさんですよ。ずっと一緒に居てわたしを知っていますから、いいかなって』
「よくねえよ!? サリアは確かに俺のお付メイドだってトライドさんが置いてくれているだけだっての!?」
『え? えへっ♪ ……あああああああああああああああああああ!?』
「戻しとけって!」
さすがにこれはサリアに悪い。
勝手に伴侶にしたあげく、変な力を与えるとか罰ゲーム以外なんでもない。
まあトラックが無ければ使えないみたいだが……
「ヒサトラさんヒサトラさん」
「なんだ!? 今、取り込み中だ!」
「いいですよ、私。その力を使いたいですし」
俺の肩をポンポンと叩いてそんなことを言い出すサリアに対して驚愕の表情で振り返ると、彼女はにっこりと笑って小さく頷いた。
「いいのか……? このアホ女神のせいで変なことになるかもしれないぞ?」
「いいですよ、どうせヒサトラさんが行くところ我ありとなりますし、アホ女神様のおっしゃるとおりなにかお役に立てるかもしれません。伴侶でもいいです。どうせお付き合いしている人なんていませんしね」
「……おいルアン。もし、サリアが他の男と結婚ってなったらどうなる?」
『うををを……目が回るやんけ……。ならそういう場合はオートで消えるように設定しておくわ』
できるんじゃねえかとケツをこっちに向けて得意気な声をするルアンに苛立つ。
こいつ俺を使って遊んでねえかと訝しむが、なにを言ってもこいつの意思でしか覆せないし、スキルとやらも便利には違いない。
それにしてもハコ乗りとは古いぜ、女神よ。
「まあいい……サリア、すまないがよろしく頼むよ」
「はい♪ それで女神様、ヒサトラさんのお母様はどうなりましたか?」
お、ちょうど聞こうと思っていたことをサリアが口にしてくれた。
するとルアンはこちらに顔を向けたのだが、難しい顔をして口を開く。
『ごめん、もうちょっと時間がかかりそう。ヒサトラさんとトラックをこっちに持ってきたのは思ったより消耗していて、一年くらいかかるかも……』
「マジか……!? 母ちゃんは三年以内に死ぬんだろ!」
『な、なんとか頑張ってみるから、病気を治す薬か魔法でも見つけておいて! そんじゃ!』
「あ、おい!? ……くそ、切りやがった……!」
「不安ですね……」
「ああ。だけど、あいつを頼るしかねえからな、こればっかりは……」
なんかまだ隠し事がありそうだが、どうだろうな?
とりあえず妙なスキルとやらをもらった俺とサリアはこれから一緒に活動することになりそうなのもなかなかハードな展開である。
「?」
軽く首を傾げるサリアは美少女と言って差し支えない。
……いつか離れる時が来るまで、守って上げられればいいか。
「とりあえず今日は疲れたし寝るかな。サリアはどうする?」
「一緒に寝ますよ! 伴侶ですし?」
「ありゃルアンが勝手に言っているだけだろ……お前、上を使えよ。俺は下で寝るから」
「別にいいのにー」
「俺が困るの。ほら、後ろを向いているから」
スカートは膝くらいなのでパンツが見えてしまうからな。
サリアが上に行ったのを見計らって俺も横になって目を瞑る。
異世界の運送業か……オンリーワンって考えたら儲けられるかもしれねえな……ちと考えてみるかな。
そんなことを考えながら俺は眠りにつくのだった。
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