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第一章:轢いたと思ったら異世界だった
その12 気を利かせてくれた人たち
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深夜の時間帯ではあったがトライドさんを起こして町に到着することを伝えるとすんなり入れてくれ、宿の近くで止めてからエレノーラさんやアグリアスをやはり目を覚ましたサリアと共に部屋へ運び入れた。
そうそうトライドさんが来て驚いたけど、
「領主様のお知り合いなら怪しいけど入ってもいいっす」
などと門番が言っていたので、居なかったらちょっと面倒だったかもしれない。
アグリアスが居るので今回はなんとかなったとは思うけど、今後もトライドさんに頼まれて輸送をするならちょっと考えないといけないかもしれないな。
「ヒサトラ君も部屋を取ってあるぞ」
「え? 俺、ここでいいですよ」
「なにを言うか、そんなこと出来るはずもない」
「そうですよ、行きましょう」
サリアに促されて宿へ行くことに。
ルアンに聞きたいことがあったが、まあ急ぎではないしいいか?
そんなこんなでアグリアスとエレノーラさんはベッドで就寝。
俺も休んどくかと部屋へ行こうとしたが、途中で目が覚めたトライドさんが部屋に行こうとした俺に声をかけてきた。
「少し付き合ってくれんか?」
くいっと酒を飲む仕草をするトライドさんに、現状を伝えないといけないなと手で制してから言う。
「車に酒はご法度なんですよ、嬉しいですけど」
「どういう意味だ?」
「ああ、酒を飲んで運転すると事故が起きやすいから駄目なんですよ。今からだと出発が大幅に遅れることになりますよ?」
「なんだ、それくらいなら構わんよ。どうせエレノーラはすぐに起きん」
まあ今日の状況を考えればそうか……あの人一日の活動時間が絶対少ないと思うんだが。
アルコールが抜けるのは最低でも6時間以上は欲しいので、出発を遅らせる条件ならと付き合うことにする。
「サリアは寝ててもいいぞ?」
「いえ、不覚にもわたしは寝ていましたし元気です。旦那様が良ければ一緒に居させていただけると」
「もちろん構わんぞ。すまない店主、ビアーを二つ、それと果実酒をもらえるか? つまみは適当でいい」
「かしこまりました。まさかトライド様が宿泊なされるとは思いませんでしたよ」
苦笑しながら恰幅のいい宿のマスターが奥へ引っ込んでいく。深夜帯は奥さんと交代か雇った従業員に任せるのだとか。
そんな横で話していたのを聞いていたことを考えていると、どうやっているのか分からないがキンキンに冷えたビアー……要するにビールが運ばれてくる。
「この出会いに……乾杯!」
「乾杯!」
「いただきます」
サリアは控えめにグラスを上げてから乾杯をしていた。やはりメイドだから遠慮がちなんだろうなと思いながらぐいっとジョッキを傾ける。
もちろんガラスではなく木でできたものだが、大きさは申し分なく、鉄の鋲で巻かれたジョッキは味わいがある。
中身のビアーは少しキレのある辛口で、眠気を一瞬覚ましてくれる。
だが、アルコール度数は高いようですぐに胸が熱くなってきた。
「ふう……久しぶりに飲んだな……」
「顔が赤いですよ、わたしに酔いましたか?」
「お前よくそんなこと言えるな……」
にっこりと微笑むサリアの顔が可愛く、俺は慌てて顔を逸らす。
すると一杯目を飲み終えたトライドさんがジョッキを置きながら尋ねて来た。
「ぷは! 美味い! というかそうなのかヒサトラ君?」
「仕事柄あんまり飲むわけにもいかないんですよ。俺の世界じゃ飲酒運転って言って罰則があるし」
「なるほど、馬車なんて冒険者が乗ると酒を飲みながらなんてザラだがなあ、はっはっは! それより君の世界ではあの乗り物はポピュラーなものなのだな」
「ええ。でも大丈夫ですかね、このままアレに乗っていたら目をつけられたりしません?」
「一応、陛下にはお目通りした方がいいとは思っておる。管理はウチの領でってことでなんとか話をするつもりだ。興奮していたが、正直、他の国にこれを取られるのは怖いからな」
「ん? それはどういう?」
俺が質問すると、二杯目を注文しながら難しい顔で腕を組むと説明を始める。
「君の『とらっく』はこの世界には無い。速度、頑丈さ、積載量どれをとっても勝てる乗り物はないんだ。私は考えたくないが戦争に利用した場合かなり有用だということ。4,50人程度兵士を乗せてもびくともしないだろう?
戦場を往復する、もしくはそのもので突っ込んでいくなどが可能だと考えている」
「あー……」
その通りだろうなあ。
しかも同じものを作るなら相当技術レベルを上げないと無理なのでオンリーワンの乗り物だ。
それを囲いたくなるのは当然で、利用方法も賢い奴なら色々悪だくみをするヤツもいるだろう。
「そうなったら俺は逃げますけどね」
「はは、そうだな。もちろんそうはならんように私が動くつもりだ。少なくとも私の下に居れば手は出しにくいはず。これから行くベリアス殿のところへ行くのもそのあたりの話をしたいからだ」
「あ、そうだったんですね」
流石にただ乗りたいだけってわけじゃなかったかと苦笑する。
「いやあ、でもアレは手放せないな。風をあんなに感じて移動できる乗り物は他にない! ずっとウチの領に置いておくぞ。そうだ、後ろに家紋入れない?」
「いいですね。帰ったら手配しましょう」
「やめろ……!!」
……いや、ただ乗りたいだけだぞこの人。
そんな感じで少し真面目な話をした夜だった。
ビアーは俺好みで満足。
二杯いただき、つまみのモッツァレラチーズみたいなヤギのチーズと乾燥した干し肉、それと油で炒めた野菜はどれも美味かった。
満足して部屋に戻り、ツナギを脱いでから硬いベッド……ではなくそれなりにふかふかした布団にダイブ。
「ふう……とりあえず二日目、か」
安心して寝られるなと枕に顔を埋めてひとり呟く。
さっきの話を聞いて、俺が出た国が変なとかだったらと思うと今更ながら背筋が冷える。
楽観して不安に押しつぶされなかったのはサリア達のおかげだよな……
「ふあ……寝るか……」
明日には到着したいところだ。ああ、ルアンにも話を――
そう考えたあたりで俺は意識を手放したのだった。
そうそうトライドさんが来て驚いたけど、
「領主様のお知り合いなら怪しいけど入ってもいいっす」
などと門番が言っていたので、居なかったらちょっと面倒だったかもしれない。
アグリアスが居るので今回はなんとかなったとは思うけど、今後もトライドさんに頼まれて輸送をするならちょっと考えないといけないかもしれないな。
「ヒサトラ君も部屋を取ってあるぞ」
「え? 俺、ここでいいですよ」
「なにを言うか、そんなこと出来るはずもない」
「そうですよ、行きましょう」
サリアに促されて宿へ行くことに。
ルアンに聞きたいことがあったが、まあ急ぎではないしいいか?
そんなこんなでアグリアスとエレノーラさんはベッドで就寝。
俺も休んどくかと部屋へ行こうとしたが、途中で目が覚めたトライドさんが部屋に行こうとした俺に声をかけてきた。
「少し付き合ってくれんか?」
くいっと酒を飲む仕草をするトライドさんに、現状を伝えないといけないなと手で制してから言う。
「車に酒はご法度なんですよ、嬉しいですけど」
「どういう意味だ?」
「ああ、酒を飲んで運転すると事故が起きやすいから駄目なんですよ。今からだと出発が大幅に遅れることになりますよ?」
「なんだ、それくらいなら構わんよ。どうせエレノーラはすぐに起きん」
まあ今日の状況を考えればそうか……あの人一日の活動時間が絶対少ないと思うんだが。
アルコールが抜けるのは最低でも6時間以上は欲しいので、出発を遅らせる条件ならと付き合うことにする。
「サリアは寝ててもいいぞ?」
「いえ、不覚にもわたしは寝ていましたし元気です。旦那様が良ければ一緒に居させていただけると」
「もちろん構わんぞ。すまない店主、ビアーを二つ、それと果実酒をもらえるか? つまみは適当でいい」
「かしこまりました。まさかトライド様が宿泊なされるとは思いませんでしたよ」
苦笑しながら恰幅のいい宿のマスターが奥へ引っ込んでいく。深夜帯は奥さんと交代か雇った従業員に任せるのだとか。
そんな横で話していたのを聞いていたことを考えていると、どうやっているのか分からないがキンキンに冷えたビアー……要するにビールが運ばれてくる。
「この出会いに……乾杯!」
「乾杯!」
「いただきます」
サリアは控えめにグラスを上げてから乾杯をしていた。やはりメイドだから遠慮がちなんだろうなと思いながらぐいっとジョッキを傾ける。
もちろんガラスではなく木でできたものだが、大きさは申し分なく、鉄の鋲で巻かれたジョッキは味わいがある。
中身のビアーは少しキレのある辛口で、眠気を一瞬覚ましてくれる。
だが、アルコール度数は高いようですぐに胸が熱くなってきた。
「ふう……久しぶりに飲んだな……」
「顔が赤いですよ、わたしに酔いましたか?」
「お前よくそんなこと言えるな……」
にっこりと微笑むサリアの顔が可愛く、俺は慌てて顔を逸らす。
すると一杯目を飲み終えたトライドさんがジョッキを置きながら尋ねて来た。
「ぷは! 美味い! というかそうなのかヒサトラ君?」
「仕事柄あんまり飲むわけにもいかないんですよ。俺の世界じゃ飲酒運転って言って罰則があるし」
「なるほど、馬車なんて冒険者が乗ると酒を飲みながらなんてザラだがなあ、はっはっは! それより君の世界ではあの乗り物はポピュラーなものなのだな」
「ええ。でも大丈夫ですかね、このままアレに乗っていたら目をつけられたりしません?」
「一応、陛下にはお目通りした方がいいとは思っておる。管理はウチの領でってことでなんとか話をするつもりだ。興奮していたが、正直、他の国にこれを取られるのは怖いからな」
「ん? それはどういう?」
俺が質問すると、二杯目を注文しながら難しい顔で腕を組むと説明を始める。
「君の『とらっく』はこの世界には無い。速度、頑丈さ、積載量どれをとっても勝てる乗り物はないんだ。私は考えたくないが戦争に利用した場合かなり有用だということ。4,50人程度兵士を乗せてもびくともしないだろう?
戦場を往復する、もしくはそのもので突っ込んでいくなどが可能だと考えている」
「あー……」
その通りだろうなあ。
しかも同じものを作るなら相当技術レベルを上げないと無理なのでオンリーワンの乗り物だ。
それを囲いたくなるのは当然で、利用方法も賢い奴なら色々悪だくみをするヤツもいるだろう。
「そうなったら俺は逃げますけどね」
「はは、そうだな。もちろんそうはならんように私が動くつもりだ。少なくとも私の下に居れば手は出しにくいはず。これから行くベリアス殿のところへ行くのもそのあたりの話をしたいからだ」
「あ、そうだったんですね」
流石にただ乗りたいだけってわけじゃなかったかと苦笑する。
「いやあ、でもアレは手放せないな。風をあんなに感じて移動できる乗り物は他にない! ずっとウチの領に置いておくぞ。そうだ、後ろに家紋入れない?」
「いいですね。帰ったら手配しましょう」
「やめろ……!!」
……いや、ただ乗りたいだけだぞこの人。
そんな感じで少し真面目な話をした夜だった。
ビアーは俺好みで満足。
二杯いただき、つまみのモッツァレラチーズみたいなヤギのチーズと乾燥した干し肉、それと油で炒めた野菜はどれも美味かった。
満足して部屋に戻り、ツナギを脱いでから硬いベッド……ではなくそれなりにふかふかした布団にダイブ。
「ふう……とりあえず二日目、か」
安心して寝られるなと枕に顔を埋めてひとり呟く。
さっきの話を聞いて、俺が出た国が変なとかだったらと思うと今更ながら背筋が冷える。
楽観して不安に押しつぶされなかったのはサリア達のおかげだよな……
「ふあ……寝るか……」
明日には到着したいところだ。ああ、ルアンにも話を――
そう考えたあたりで俺は意識を手放したのだった。
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